障害者も健常者も「みんなで楽しむ」を実現する——株式会社ライズ&プレイのバリアフリーエンタメが拓くインクルーシブな体験
公開日
- ヒアリング先
- 株式会社ライズ&プレイ代表取締役 和久井 香菜子 氏
謎解き制作のプロフェッショナルとアクセシビリティ専門家が一つのチームとなり、障害のある人もない人も「同じ場」で「同じ体験」を楽しめるエンタメを生み出している企業があります。株式会社ライズ&プレイは、バリアフリーなエンタメ開発を通じて、インクルーシブ社会の実現を目指しています。
1.バリアフリーなエンタメ開発のコンセプト、想い
ライズ&プレイの起点は、代表の和久井氏が2015年から運営していたブラインドライターズ事業です。視覚障害のある方が文字起こし業務を担う事業として始まったこの会社では、スタッフ全員が障害当事者というコンセプトを掲げ、現在は30名のスタッフが在籍しています(8割が視覚障害者)。障害当事者から日々リアルな声を聴き続ける中で、解決したい社会課題が山積していることを実感。「バリアフリーなエンタメの力でインクルーシブな社会をつくりたい」という想いから、株式会社ライズ&プレイを新たに設立しました。
ライズ&プレイが掲げるコンセプトは、「遊びをバリアフリーに!」です。視覚障害者は身体障害者全体の就職件数のうちわずか7.2%しかなく、就職先の40%が鍼灸マッサージに偏っているという現実があります。障害者に対する無関心・誤解がその根本にあると和久井氏は分析します。「配慮のない企画やイベントのターゲットは、健康で日本語が得意な人だけ。バリアフリーにするだけで、高齢者・見えにくい人・体を動かしにくい人など、ターゲットが一気に広がる」というビジョンのもと、エンタメというアプローチから、障害者と健常者の「垣根を低くする」取り組みを続けています。
知見の裏付けも確かです。和久井氏は、世界最大規模の障害者技術支援会議「CSUN ATC(California State University, Northridge Assistive Technology Conference)」に9年連続で参加し、ユニバーサルデザイン・バリアフリーに関する最新知識を蓄積してきました。欧州でも2025年に欧州アクセシビリティ法(EAA)が施行されるなど、アクセシビリティ対応は世界的な潮流となっており、日本もこの流れに乗り遅れないよう今から取り組む必要があると強調します。
2.バリアフリーなエンタメの取組事例
ライズ&プレイの事業は「ブラインドライターズ部門」「ミステリ・ゲーム部門」「企業研修部門」の3つです。中核となるのがミステリ・ゲーム部門で、謎解きや脱出ゲーム、ボードゲームをバリアフリー対応で制作・提供しています。
具体的な取り組みの一つが、バリアフリーな周遊謎解きです。観光地に欠かせないコンテンツとなっている「周遊謎解き」。観光地のポイントをめぐり、その場で提供される問題に答えていく遊びです。具体例は、後述いたします。
二つ目の取り組みは、「超ユニバーサルなボードゲーム会」です。市販のボードゲームは視覚障害者が参加できないものが大半ですが、ライズ&プレイでは視覚障害者が遊べるボードゲームを厳選・改良し、障害のある方もない方も一緒に楽しめる場を提供しています。「デコどうぶつしょうぎをつくろう!」ワークショップでは、将棋の簡易版「どうぶつしょうぎ」を自分の好みでデコレーションしてユニバーサルデザインに仕上げるワークを実施。図書館や学童でも展開されており、自治体との連携も検討されるなど、各地への広がりを見せています。
参加者からは、「自分自身、意外と見えない方よりもできないことが多く、差別意識に気づいた」「息子は最初『どうしてわざわざ目を瞑るの?』と言っていたが、最後は自然に見えない方を受け入れて一緒に遊んでいた」という声があり、子どもにも大人にも変容を促す体験として評価されています。
3.謎解きで学ぶダイバーシティ研修——内容・実施事例・参加者の声
「謎解きで学ぶダイバーシティ研修」は、ライズ&プレイの企業研修部門が提供するフラッグシッププログラムです。参加者は「宇宙警察」の一員という設定で物語に没入します。チームは、視覚のない「ブラインド星人」、聴覚のない「デフ星人」、四肢を動かさない「リム星人」など多様な特性を持つ星人で構成されており、惑星ポヨンで起きる事件をチームで解決していきます。
研修の特徴は、実際にアイマスクをして視覚を制限したり、聴覚を使えない状態で謎解きに挑む「障害の疑似体験」を盛り込んでいる点です。健常者にとっては普段体験できない「マイノリティの感覚」を体感することができ、障害当事者も「当事者として参加できる」研修です。ゲームが終わった後はディスカッションを行い、「どう配慮すればよかったか」「どうコミュニケーションをとればよかったか」といった気づきを深めます。株式会社研修屋との協力により、コンテンツとしての面白さだけでなく、研修としての学習品質も担保されているのが強みです。所要時間は約90分で、3名〜30名程度まで対応可能です。
すでに大手企業への導入実績があり、参加者からは「笑いがめちゃくちゃ起こる」「普段と違うポジションで、若い人のほうが謎解きが得意だとわかった」「部下の意外な能力を改めて評価できた」「視覚障害者と聴覚障害者が、事件を解決しながらコミュニケーションを取るために真剣にディスカッションした」といった声が寄せられています。
企業の多様性・公平性・インクルージョン(DEI)研修として、また職場のコミュニケーション活性化手段として、大手企業だけでなく中小企業・学校・自治体など幅広いニーズに応えられるプログラムとなっています。
4.小笠原における周遊謎解きの企画内容と参加者の声
2026年6月、ライズ&プレイは東京都の「TOKYO ISLANDHOOD with STARTUPS」事業に採択され、小笠原諸島・父島で周遊型謎解きアドベンチャー「ボニンの宝と願いのバトン」をスタートしました。父島の大村地区にある「Bしっぷ」「小笠原世界遺産センター」「小笠原ビジターセンター」の3拠点を巡りながら、謎を解いて物語を進めていくゲームです。参加費は3000円、所要時間は120分です。
この周遊謎解きが一般的な謎解きと大きく異なるのは、視覚障害者が参加できるよう工夫されたアクセシビリティ対応にあります。通常、各施設の展示物は文字や図表の視覚情報中心で、音声案内などの対応はほとんどありません。ライズ&プレイはLINEを活用した「情報保障」の仕組みを導入し、展示物の情報や謎のヒントをLINEから受け取れるようにすることで、視覚障害者が自力で謎を解けるバリアフリー周遊型謎解きを実現しました。この方法は「視覚障害者が解ける本格的な周遊謎解き」として、世界初の取り組みとなる可能性もあると和久井氏は語ります。
物語の質にも高い評価が寄せられています。江戸時代末期の人物・ジョン万次郎を登場させるなど、史実を丹念に調べ、フィクションとして仕上げたシナリオはゲームクリア後に「小笠原の歴史が一気に身近になった」という感想が聞かれます。島の歴史・固有種・自然環境への敬意をエンタメとして伝えるコンテンツとして、小笠原村役場・観光局・観光協会も全面的に協力しています。「謎解きが、現地ガイドの代わりにもなる」という視点は、特定のガイドやツアーに依存せず、自分のペースで島を楽しみたい旅行者のニーズにも応えるものです。
体験した参加者からは、「雨の日の観光アクティビティとして楽しめた」「小笠原について知ってから自然を見ると、全く違って見えた」という声が寄せられています。また、「謎解きは自由に遊べるから島の負担もなくとても良い」という観光関係者の声もあり、島側のオペレーション負担がほぼゼロで導入できる持続可能なコンテンツとして注目されています。修学旅行など教育ツアーでの導入も期待できます。
今後は他の東京離島(大島・八丈島など)への横展開や、来島が困難な方のためのVRを活用した「自宅にいながら島を体験できるプログラム」、さらには障害者が遠隔スタッフとして島のツアーを支援するという新しい働き方への活用も構想されており、アクセシブルツーリズムの新たな可能性を切り拓いています。
株式会社ライズ&プレイ:https://note.com/riseandplay
コメント
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本Webサイトの運営担当者です。2005年から、産学官連携や産業振興の業務に携わっています。
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今回のヒアリングを通じて最も強く感じたのは、このチームが持つ「掛け合わせの妙」です。謎解き制作で世界トップクラスの実力を持つクリエイターと、視覚障害の当事者でもあるアクセシビリティ専門家が、一つのチームとして日常的に協働しています。この体制は、表面的な「バリアフリー対応」を超えた、本当に楽しめる体験の設計を可能にしています。謎解きは「面白くなければ意味がない」という信念のもと、バリアフリーを言い訳にせず質を高め続けている姿勢に、強い敬意を感じました。
ダイバーシティ研修において特に印象的だったのは、多様な属性を持つ方が「みんな等しく楽しめる」よう丹念に設計されている点です。アイマスクによる視覚障害の疑似体験や、イヤーマフによる聴覚障害の体感など、「当事者と非当事者が同じ場で同じゲームに真剣になれる」という状況そのものが、学びのエンジンになっています。宇宙警察という非日常の物語設定が普段の上司・部下・同僚という関係を一時的に解体し、「こんな能力があったのか」という新しい発見をもたらす。これはゲームデザインの力であると同時に、当事者目線の知見があってこそ生まれる設計です。
小笠原でのアクセシブルツアーは、「今までになかった楽しさ」を体現するプロジェクトだと感じました。視覚障害者が本格的な周遊謎解きを楽しめるよう、LINEを活用した情報保障という独創的な手法を開発し、しかも島側の運営負担をほぼゼロにしながら実現している点は非常に秀逸です。史実を盛り込んだシナリオの質の高さと、謎解きが「現地ガイドの代わり」になるという発想の転換は、バリアフリーツーリズムの新しい形を提示しています。「雨の日の観光」「自宅からの仮想旅行」「障害者が遠隔スタッフとして働く場」という展開構想にも、このチームならではの視点が随所に光ります。
インクルーシブという言葉は近年よく聞かれますが、「具体的に何をどう変えると、障害のある人もない人も等しく楽しめるのか」を実装レベルで実践しているチームは多くありません。ライズ&プレイは、エンタメのクオリティを落とさずにアクセシビリティを高めるという難題に、障害当事者とプロのクリエイターという唯一無二のチームで挑んでいます。「みんなで楽しむ」という体験が当たり前になる社会に向けて、このチームの取り組みが着実に広がっていくことを期待しています。このコメントと投稿者はデジタル証明書(VC)によって真正性が保証されています。
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須藤 慎
記事作成者
株式会社キャンパスクリエイト・専務取締役・プロデューサー