「誰もが、自分の足で歩ける社会へ」――AssistMotionの着るロボティックウェア「curara®」
公開日
- ヒアリング先
- AssistMotion株式会社代表取締役 橋本 稔 氏
AssistMotion株式会社は、信州大学繊維学部で長年研究されてきた「着るロボット」技術を社会実装するために、2017年に長野県上田市で設立されたスタートアップです。同社が製造・販売するロボティックウェア「curara®(クララ)」は、人とロボットがお互いにリズムを合わせる独自の「同調制御」と、モーターの力を関節にダイレクトに伝える「非外骨格構造」により、フルセットでも約2.9kgと、衣服のように軽く装着できる歩行アシストロボットです。現在は病院や介護施設などでの歩行練習の補助として活用されており、歩行時の動作を自然に支えることを目指した運用が広がっています。「誰もが、自分の足で歩くことのできる社会の実現」というビジョンのもと、小児から高齢者まで“歩く体験を得られる環境を広げる”ことを目指しています。今回は、同社へのヒアリングをもとに、curaraがひらくインクルーシブな社会の可能性をご紹介します。
1.curaraの概要、解決する社会課題
日本は超高齢化社会を迎え、高齢者の割合は人口の約3割に達しようとしています。社会保障費は年々増加し、対国民所得比で約30%にまで膨らんでいます。また、後遺症によって歩行が難しくなる可能性のある脳血管疾患を発症する方も年間30万人規模で見込まれており、歩行に課題を抱える方が増える中で、歩行を支える技術への関心が高まっています。 日常の移動に困難を感じる高齢者は350万人を超えるといわれ、自立して生活できる高齢者を増やすことは、ご本人の生活の質はもちろん、国の財政の観点からも大きな社会課題です。
AssistMotionはこの課題に、ロボット技術で挑んでいます。母体となった信州大学繊維学部は、「繊維」の名を冠する全国唯一の学部です。衣服や繊維という視点からロボットを研究してきたからこそ、「衣服のように着ることのできるロボット」というシステム設計技術が生まれました。curaraの開発は2008年に大学の研究室で始まり、初号機は13kgの固定式でしたが、十数年にわたる改良を重ねて小型軽量化を進め、2021年度に製品版が完成。現在のcuraraは樹脂製・身体装着式でわずか2.9kgと、当初の4分の1以下の重さを実現しています。
2.curaraの技術的な特徴・ポイント
(1)人とロボットがリズムを合わせる「同調制御」
curaraの核となる技術が、独自の「同調制御法」です。人の脊髄の中には、歩行のリズムを生み出す中枢パターン生成器(CPG)と呼ばれる神経回路があります。curaraはこのCPGを数学モデル化した「神経振動子」をコントローラーの中でリアルタイムに計算し、装着者の動きに合わせてアシスト力を生み出します。産業用ロボットのように決まった軌道どおり正確に動くのではなく、人が二人三脚で相手に歩調を合わせられるのと同じように、ロボットが人のリズムに同調しながら、歩行時の動作を自然に補助することを目指しています。
(2)圧倒的な軽さを実現した「非外骨格構造」
一般的な装着型ロボットは、金属フレームで関節同士をつなぐ「外骨格型」の構造が主流ですが、動きが拘束される、重い、体型に合わせた調整が煩雑といった課題がありました。curaraは関節間のリンクをなくし、モーターの力を股関節・膝関節の各ユニットからダイレクトに伝える「非外骨格構造」を採用。人の骨格系そのものを利用して関節の動きを補助するため、動きやすく、樹脂製フレームで軽く、部位ごとに個別に装着できます。フルセット(股関節+膝関節)で約2.9kg、ハーフセット(股関節のみ)なら約1.9kgと、コート1~2枚ほどの軽さです。さらに、4関節・2関節・片側のみといった構造変更が容易にでき、片麻痺の方など、一人ひとりの症状やニーズに合わせて柔軟に対応できます。
(3)歩行評価+トレーニングが一体になった運用
curaraの操作は、専用アプリを入れたスマートフォン端末で行います。特徴的なのは、「歩行評価」と「歩行訓練」が一体になっていることです。まずロボットを装着して歩くと、歩行速度・歩数・歩幅・ケイデンス(歩調)・関節角度などが計測され、その結果に基づいてロボットが自動的にアシストのパラメーターを設定してくれます。理学療法士が関節ごとにアシストの強さや角度を細かく調整できる詳細設定モードも備えており、専門職の意図を反映した訓練が可能です。計測結果は1日・7日・30日といった単位で履歴表示できるため、練習前後の変化や日々の推移をグラフで確認しながら、根拠をもって歩行練習を進められます。ロボットの補助により、歩行時の動作が安定しやすく、練習のしやすさにつながるという声もあります。 また、歩行練習の効率化に寄与し、現場の負担軽減につながる可能性があります。
3.curaraの導入用途(介護・福祉・農作業等)
現在curaraが最も活用されているのは、病院や介護施設(通所リハビリテーション)、保険外のリハビリ施設などでの歩行練習サポートです。装着が簡便なため、限られた時間の中でもすぐに練習を始められ、施設の日常的なプログラムに組み込みやすいことが評価されています。
注目されるのが、小児分野への展開です。クラウドファンディングでは、目標金額350万円を大きく上回る546万円超・449人の支援が集まりました。長野県立こども病院との共同開発の経験も踏まえ、療育施設や特別支援学校、病院などへの導入が構想されています。これまで歩いたことのなかったお子さんが、ロボットの補助によって“前に進む感覚を体験できた”という声も寄せられています。
その先に見据えるのが、日常生活での「歩行補助」とより安心して移動できる環境づくりです。 AIによる動作認識で、平地歩行・起立着座・階段昇降・坂道歩行といった動作モードを自動で切り替える技術の開発が進んでおり、大山詣りや上高地・八方尾根、岐阜県養老公園、はままつフラワーパークなどの観光地でのユニバーサルツーリズム実証実験、東急電鉄の駅での乗車支援実証など、生活のさまざまな場面での活用が試みられてきました。歩くことに不安のある方の外出支援や買い物支援はもちろん、立ち座りや踏ん張りといった動作の多い農作業などの労働支援への応用も期待されるところです。将来的には、日常の動作をより安全に行えるよう支援する取り組みや、データを活用した生活サポートまで、歩行練習から日常の移動支援までを一貫して支える製品群を目指しています。
4.curaraの使用者の声
実際にcuraraを利用した方々からは、次のような声が寄せられています。ご利用者からは「本体が軽くて楽だった」「(着地に合わせて鳴る)リズム音に合わせると歩きやすい」「練習の様子をグラフで確認できて納得できた」といった感想があり、軽さと分かりやすさが受け入れられていることがうかがえます。
現場の理学療法士からは「本体が大変軽量で扱いやすい」「装着が簡便で、すぐにリハビリを開始できる」「操作そのものに難しさがなく分かりやすい」と、専門職の目から見た使い勝手の良さが評価されています。
小児用curaraの開発に関わるお子さんたちの声は、ひときわ印象的です。「家族と同じ場所に行きたい」「curaraが足をサポートしてくれて、前に進む感覚を体験ができて嬉しかった」「動きをサポートしてくれるので、すごく練習がやりやすいです」。これまで歩いたことのなかったお子さんが、ロボットの力を借りて「足を動かして前に進む感覚を初めて体験できた」例もあり、「歩きたい」という強い意思に技術が応え始めています。
5.腰サポートウェア(heigeLS)との連携
AssistMotionは、curaraで培った「着るロボット」の技術を、下肢の歩行アシストにとどまらず身体全体の動作支援へと広げようとしています。その方向性のひとつが、腰まわりをサポートするウェアとの連携です。歩行を支えるcuraraと、前傾姿勢や持ち上げ動作の多い場面で腰部の負担を和らげる腰サポートウェア(heigeLS)を組み合わせることで、歩く・立つ・かがむ・運ぶといった日常や労働の一連の動作を、より広くカバーすることが期待されます。介護現場での移乗介助や、農作業をはじめとする腰に負担のかかる作業の支援など、活用の場面はさらに広がっていくでしょう。
また同社は、次世代技術として塩化ビニル(PVC)ゲルを用いた人工筋肉(ソフトアクチュエータ)の研究開発にも取り組んでいます。電圧をかけると伸縮する透明で軽量なゲル素材を衣服に織り込み、ズボンそのものが伸縮して歩行や腰の動きを助ける「モーションウェア」の実現が長期的な目標です。モーターに比べて軽く静かで、将来的には大幅なコストダウンも見込めることから、着るロボットがより身近な存在になる可能性を秘めています。硬い装置から、しなやかな衣服へ。curaraと腰サポートウェア、そして人工筋肉の研究が重なり合う先に、誰もが当たり前に「着て、歩く体験を得られる」未来が見えてきます。
関連リンク
AssistMotion株式会社:https://assistmotion.jp/
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本Webサイトの運営担当者です。2005年から、産学官連携や産業振興の業務に携わっています。
コメント
今回のヒアリングで最も印象に残ったのは、「人とロボットが二人三脚で歩く」という発想です。curaraは、人の脊髄にある歩行リズムの生成器(CPG)を数学モデル化した「神経振動子」を制御に用いることで、ロボットが装着者のリズムに同調します。決められた軌道に人を合わせさせるのではなく、ロボットが人に合わせながら、少しずつ望ましい歩き方へ導いていく。この同調制御の考え方は非常に独創的で、まさに「人に優しい着るロボット」だと感じました。フルセットでも約2.9kgという軽さや、症状に合わせて関節構成を変えられる柔軟さも、全国唯一の繊維学部から生まれた発想ならではだと思います。
導入効果の面でも意義は大きいと感じます。歩行評価とトレーニングが一体になっており、練習前後の変化がグラフで見えることは、歩く本人の納得感と意欲に直結します。歩幅や速度が広がった状態で練習を重ねられることは訓練の質を高め、理学療法士の負担軽減や、より多くの利用者を支えられる体制づくりにもつながります。社会復帰までの期間が短くなれば、ご本人やご家族にとってはもちろん、医療・介護の現場、ひいては社会保障の面でも、その効果は計り知れません。
特に心を動かされたのは、小児用curaraの取り組みです。「家族と同じ場所に行きたい」という子どもたちの願いに応えるため開発が進められ、クラウドファンディングでは目標を大きく上回る支援が集まりました。これまで歩いたことのなかったお子さんが、ロボットの力を借りて「足を動かして前に進む」体験を初めて得られたというエピソードは、技術が「歩きたい」という意思に応えた瞬間そのものだと思います。小児から高齢者まで「歩く自由」を届けるという同社の歩みはインクルーシブな社会の実現に直結するものであり、腰サポートウェアとの連携やPVCゲル人工筋肉による「モーションウェア」構想など、今後の広がりも含めて心から応援したい技術です。このコメントと投稿者はデジタル証明書(VC)によって真正性が保証されています。
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須藤 慎
記事作成者
株式会社キャンパスクリエイト・専務取締役・プロデューサー