人の流れをデザインする、まちめぐりデジタルマップ「Stroly」――イラスト地図×位置情報がオーバーツーリズムを変える

スタートアップ事例

公開日 

ヒアリング先
Stroly株式会社ビジネスプランナー 大沼 史佳 氏

Stroly(ストローリー)は、株式会社Strolyが提供する、まちめぐりのためのイラストデジタルマップのプラットフォームです。その名は「Story(物語)」と「Stroll(歩く)」の掛け合わせ。デフォルメされたイラスト地図の上に自分の現在地を正確に表示できる特許技術を核に、地域の魅力を物語として伝えながら、人々の「行動変容」を起こすマップ体験を提供しています。アプリのダウンロードは不要で、QRコードを読み取ればスマートフォンのWebブラウザだけで利用可能。国内外の自治体・観光局・企業など400件以上の先行事例、13,000を超えるマップが公開されており、京都・嵯峨嵐山では観光客の分散化のマップとしてオーバーツーリズム対策に大きな効果を上げています。

1.まちめぐりデジタルマップ「Stroly」の概要

株式会社Strolyは、京都の研究所ATRの社内ベンチャーとして生まれ、独立から約10年を迎えるスタートアップです。京都と東京の2拠点で事業を展開し、国内6件・海外4件の登録特許を持つほか、SXSW2019Pitch Finalistに日本企業として初選出、2023年にはSXSW公式マップを制作。日経クロストレンド「2024年 未来の市場をつくる100社」への選出や、東京都のキングサーモン事業(2023年度)採択など、国内外から注目を集めています。

従来のデジタル地図が「目的地まで最短距離で効率的に移動するためのツール」だとすれば、Strolyは「行動を促すデザインがある地図」です。エリア独自の魅力や課題、目的に合わせて最適化されたイラストマップによって、見た人に「楽しそう」「行ってみたい」という感情を起こさせ、実際にまちを歩いてもらう。効率だけではなく、ワクワクする感情によって自らの意思で身体を動かすという人間本来の行動原理に働きかける、「最高の寄り道体験」をつくるサービスといえます。

利用のハードルが低いことも特徴です。観光地などに掲示されたQRコードを読み取るだけでWebブラウザ上でマップが開くため、アプリのインストールは必要ありません。マップの運営者(マップオーナー)には、マップ画面に加えて、情報を編集できるエディターと、利用状況を確認できるデータダッシュボードが提供され、データを見ながら日々マップを育てていくことができます。

2.まちめぐりデジタルマップ「Stroly」の特徴・機能

1)どんなイラスト地図でも「現在地」が分かる特許技術

Strolyの最大の特徴は、縮尺が正確でないイラスト地図の上でも、GPSによる現在地を正確に表示できることです。イラストマップと実際の緯度経度情報を対応付けて計算する独自技術(特許取得)により、デフォルメされた地図の中でも自分の位置を確かめながらまち歩きができます。極端な例では、大正時代の鳥瞰図のような絵地図の上でも現在地を表示でき、当時の情景にタイムスリップした感覚で街歩きが楽しめる、といった体験も可能です。地図はイラストであれば縮尺も画風も自由なため、新たにイラストを描き起こすケースだけでなく、地域にすでにある観光マップや手描き地図をそのまま活かしてデジタル化するケースにも対応できます。

2)人流解析機能――行動変容をデータで検証

Strolyのもうひとつの柱が、人流解析機能です。マップ利用者の位置情報ログ(GPSをオンにした利用者のデータ)を蓄積・分析し、どのエリアに人が集まり、どのように移動したかをヒートマップや個別の動線として可視化できます。マップオーナーはダッシュボードからヒートマップ等のデータをいつでも確認でき、「マップのデザインが実際に人の動きを変えたかどうか」を数値で検証しながら、スポット情報の充実やイベント企画といった次の施策につなげられます。

3)運用しやすさと、体験を豊かにする多彩な機能

マップの情報は、管理者が専用エディターからいつでも直接編集・更新できます。都立神代植物公園のマップでは、園のスタッフが「今日はハナショウブが見頃」といった開花情報を日々更新しており、リアルタイムの魅力発信に活用されています。このほか、位置情報を使ったデジタルスタンプラリーやクーポン、イベント情報、おすすめ周遊コースの表示、バスのリアルタイムロケーション、ライブカメラと連携した混雑情報の表示など、まちめぐりの体験を豊かにする機能が揃っています。スポットごとに個別のURLが発行されるため、AI検索やAIエージェントと組み合わせて「おすすめスポットをマップ付きで案内する」といった発展的な使い方も期待できます。

4)多言語対応・バリアフリー情報――インクルーシブなまち歩きへ

スポット情報やカテゴリ表示は、利用者のブラウザの言語設定を読み取って自動で切り替わる多言語対応が可能で、ブラウザが対応する言語であれば幅広い言語で案内できます。また「ステッカー機能」を使えば、ベースのイラストマップに手を加えることなく、シールを貼るように情報を後から追加・更新できます。水飲み場やおむつ替えスペースといった設備のピクトグラム表示や、バリアフリー関連情報の掲載にも活用でき、言語や身体の状況に関わらず誰もが安心してまちを歩ける、インクルーシブなマップづくりを支えます。

3.観光用途への活用性、導入効果――人流解析を活用したオーバーツーリズム対策

Strolyは国内外300以上の都市・観光の場面で活用されており、京都市、東京都をはじめとする自治体の観光振興から、博多どんたくや日比谷音楽祭などの祭り・イベント、鉄道会社や旅行会社のキャンペーン、都市開発・スマートシティまで、幅広い場面で導入されています。中でも観光分野での象徴的な事例が、京都市・嵯峨嵐山エリアの観光客の分散化です。

嵯峨嵐山では、インバウンド観光客の増加に伴い、渡月橋周辺や竹林エリアへの一極集中が深刻化していました。歩行困難なほどの混雑、ゴミのポイ捨て、観光客の住宅街への迷い込みなどが、地域住民との摩擦を生んでいたのです。そこで京都市の「嵯峨嵐山周遊ガイド」マップでは、Strolyならではの3つのデザインが施されました。第一に「縮尺のハック」。魅力的な寺院が点在する北部エリアを実際より近く感じられるようにデフォルメし、足を延ばしたくなる一体感を演出しました。第二に「引き算のデザイン」。住宅街の生活道をあえて描かないことで、観光客と住民の動線を自然に分離しました。第三に「混雑状況の可視化」。ライブカメラと連携して混雑の様子をリアルタイムに表示し、「今すいている場所」へ人をいざなう設計としました。

効果は人流データで明確に示されています。マップの利用者は25,000人を超え、うち約4割が海外ユーザー。蓄積された人流データを一般の人流データと比較分析したところ、混雑する南部から北部エリアへ足を延ばした人の割合は一般観光客の約1.7倍にのぼり、位置情報を使ったスタンプラリーの開催時には、参加者のすべてが北部エリアを訪れるという結果になりました。また、住宅街への侵入率は一般観光客の約15%に対しStroly利用者は23%程度と、大幅に抑制されています。規制や注意喚起で人の流れを止めるのではなく、「行きたくなる」デザインで人の流れを変え、その効果をデータで検証する。分散観光と住民との共存、観光満足度の向上を同時に実現したこの事例は、オーバーツーリズムに悩む全国の観光地にとって大いに参考になるはずです。

こうした取り組みは全国各地で広がっており、北海道十勝地方や鹿児島県指宿市でのマップ制作事例も生まれています。大きなイベントに合わせて制作したマップを、イベント後は通常の観光マップとして使い続けるといった柔軟な運用もでき、地域の情報発信基盤として長く活用できることも、観光地にとって心強いポイントです。

関連リンク

株式会社Strolyhttps://biz.stroly.com/

コメント

  • 須藤 慎

    記事作成者

    株式会社キャンパスクリエイト・専務取締役・プロデューサー

    本Webサイトの運営担当者です。2005年から、産学官連携や産業振興の業務に携わっています。

    コメント

    今回のヒアリングを通じて、Strolyが単なるデジタル地図ではなく、「人の行動を変える」ところまで設計されたサービスであることを実感しました。特に印象的だったのは人流解析の機能です。マップ利用者の位置情報ログをヒートマップやダッシュボードで可視化し、京都・嵯峨嵐山の事例では、混雑エリアから北部への誘導が一般観光客の約1.7倍、住宅街への侵入は大幅に抑制と、成果が数値で証明されています。人流解析が分析にとどまらず、実際の人の移動、つまり行動変容にまで遷移していることは、オーバーツーリズム対策に悩む観光地にとって大きな武器になると感じました。
    また、実際に歩いている地点とデジタルマップ上の現在地がリンクしていることは非常にユニークです。縮尺の正確さを問わない特許技術のおかげで、デフォルメされたイラストマップはもちろん、古地図のような地図の上でも自分の位置を確かめながらまち歩きができる。マップの種類を問わないことから、それだけで面白い体験ができそうです。イラストの制作から依頼するケースと、地域にすでにあるマップを生かすケースの両方があり得るため、観光地に限らず、公園や祭り、都市開発、島しょ部の振興まで、様々な場面で利用できると思います。
    Webブラウザだけで動いてアプリのダウンロードが不要なこと、スタンプラリーやクーポン、混雑情報、エディターでの情報更新まで揃っていることを含め、非常に多機能かつ使い勝手の良いサービスです。さらに、ブラウザの言語設定に応じて自動で切り替わる多言語対応や、ステッカー機能によるバリアフリー情報の追加・連携など、言語や身体の状況に関わらず誰もがまちめぐりを楽しめる仕掛けが用意されています。楽しさで人を動かし、その効果をデータで確かめ、誰も取り残さない。インクルーシブ性が高いサービスとして、一押しです。

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