「学び」が障がい福祉の現場を変える——インクルテックでダイバーシティ社会を目指す、株式会社 Lean on Me

スタートアップ事例

公開日 

ヒアリング先
株式会社Lean on Me代表取締役 志村 駿介 氏

障がい者虐待の通報件数は年間1万件を超え、その最大の要因は「知識不足」——厚生労働省がそう指摘する現実があるにもかかわらず、障がい福祉業界には専門の国家資格がなく、体系的な学びの機会が構造的に確保されにくい状況が続いていました。株式会社 Lean on Meは、障がい福祉業界初のeラーニング「スペシャルラーニング」を開発し、現場の支援者と障がい者雇用企業の両方に「学び」を届けることで、この課題に正面から向き合い続けています。その取り組みをご紹介します。

 

1. Special Learningが解決しようとする、障がい福祉サービス従事者や障がい者雇用をしている企業が抱える課題

障がい福祉サービス事業所は全国に18.7万事業所あり、100万人を超える職員が日々利用者支援に携わっています。しかし介護・保育分野と異なり、障がい福祉専門の国家資格は存在しません。その結果、現場職員の多くが無資格のままサービスを提供しており、体系的な専門知識を習得する機会が乏しい状況が続いてきました。厚生労働省の調査では「障がい者への虐待が発生する最大要因は知識不足」と明示されており、年間1万件を超える虐待通報件数のうち、知的障がい者が最も虐待を受けやすい層であることも示されています。「知ること」が現場を守ることに直結する業界だからこそ、体系的な学びの仕組みを整備することが急務となっています。

こうした状況を受け、令和3年度から障がい者虐待防止に関する研修の受講が全職員を対象として義務化されました。未実施の場合には行政処分の対象となり、さらに3年に1回実施される運営指導においても受講記録の確認が行われます。入退職が激しい業界特性を踏まえると、個人ごとの受講状況を長期的に一元管理できる仕組みが不可欠です。職員の入れ替わりが生じても常に最新の学びを追跡できるeラーニングシステムは、もはや「Must haveツール」といえる存在となっています。

一方、障がい者雇用を進める一般企業側でも課題は深刻化しています。法定雇用率は20267月からは2.7%への引き上げされました。従来の雇用の主体であった身体障がい者の高齢化や雇用競争の激化を背景に、知的・発達・精神障がいのある方を中心に採用する企業が増加しています。しかし、「最初の業務の切り出し方がわからない」「適切な配慮の仕方がわからない」「トラブルが生じたときにどう対応すればよいかわからない」といった不安を抱える現場マネジャーが多く、受け入れ環境の整備がなかなか進まない大きな要因の一つとなっています。精神・知的・発達障がいのある方は定着率が低いという課題も顕在化しており、「雇用すること」よりも「定着させ、活躍させること」が企業の次なる課題として浮上しています。

 

2. Special Learningの概要およびコンテンツの特徴

 

2016年にスタートした「スペシャルラーニング」は、障がい福祉業界で日本で初めて提供されたeラーニングサービスです。サービス開始から10年以上を経た現在、コンテンツ数は2,236本(20267月時点)に達し、256カテゴリーにわたる幅広いラインナップが揃っています。知的・発達・精神・身体障がいのすべての領域をカバーし、最重度から軽度まで、児童から高齢者まで幅広い支援場面に対応したコンテンツが毎月約15本以上追加され続けています。

サービスの特徴は主に三点あります。第一は「信頼性の高い専門コンテンツ」です。障がい福祉分野の有識者・専門家100名以上が出演・監修し、実践的なワーク演習を含む研修動画を提供しています。専門的根拠を示しながら知識を深めることができるため、支援者が自信を持って現場業務にあたれるようになります。第二は「手軽に学べる設計」です。1本あたり35分の短尺動画で要点を凝縮し、インストール不要でスマートフォン・PC・タブレットのいずれからでも視聴可能です。多忙な現場職員でも隙間時間を活用して無理なく継続できます。第三は「学びの可視化と管理機能」です。視聴状況や理解度確認の結果がリアルタイムで自動集計され、管理者はコンテンツごとの組織全体の受講状況を把握できます。学習レポートを共有することで対話のきっかけが生まれ、チーム内のコミュニケーション活性化にも効果を発揮しています。

導入後のフォローアップ体制も充実しています。カスタマーサクセスチームが最初に顧客と伴走して、年間研修計画の作成を支援します。「4月はマナー・接遇」「11月は感染症対策」など、法人として一年を通じて何を学ぶべきかを体系化してもらえるため、2,000本を超えるコンテンツの中から「どれを見ればよいかわからない」という迷いが大幅に軽減されます。また、全国47都道府県の知的障がい者福祉協会など業界団体との連携実績も豊富であり、「業界とともに作り上げてきた」サービスとして高い信頼性を誇っています。

企業の障がい者雇用担当者や現場マネジャー向けには「スペシャルラーニング for business」(20246月リリース)が提供されています。「支援する」という言葉を意図的に排除し、「ともに働く従業員・同僚」という視点を起点に設計された100本以上のコンテンツを提供しています。管理職層向けには障がい者雇用の背景・意義・メリットの理解を、現場リーダー・主任クラスには合理的配慮の実践法や問題場面への対応を、一般社員向けには障がいの基礎知識とサポート方法を——それぞれの役割に応じた学びを層別に届ける構造が特徴です。スペシャルラーニングの2,000本以上のコンテンツもあわせて利用できます。

 

3. Special Learningの利用者の声、効果

パーソルダイバース株式会社(旧:パーソルチャレンジ)では、精神・発達障がいのある社員が多く在籍する部門において、体系化された管理者向け研修が整備されていないことを課題として「スペシャルラーニング for business」を導入しました。障がい特性にまつわるコンテンツやケーススタディなど幅広いカテゴリーを受講した結果、満足度調査では8590%の社員が最高評価を付けたといいます。「グループホームという言葉は知っていたが、実際にどのような支援が行われているかは知らなかった」という声に象徴されるように、周辺知識の習得に対する満足度も高く、管理者育成の質的向上につながっています。

三菱自動車ウイング株式会社では、障がいのある従業員への日常指導を担う「コーチ」たちの知識・スキルを向上させることを目的として導入しました。研修後にコーチたちが「自分の気づき」をレポートとして記録するようになり、「今まで障がいのある方のために良かれと思ってやっていたことが、実はそうではないと気づいた」「知的障がいのある方はゆるやかに成長することを知ることができた」という声が寄せられています。自己内省が促進されたことで支援の質が向上し、ビジネスマナーや福祉制度に関するコンテンツも活用されながらスタッフへの指導や保護者とのコミュニケーションにも役立っています。

実際の導入企業からは、精神障がい者の定着率が9割を超えたという事例も報告されています。定着率向上・離職率低下を主な導入目的とする企業が多く、効果を実感した企業のリピート利用が続いています。パーソルホールディングス特例子会社、ブックオフホールディングス特例子会社、ノーリツ特例子会社、三菱自動車特例子会社、SOMPO Light Vortex社など大手企業・特例子会社への導入実績が積み重なり、業界横断的なインクルーシブ雇用推進の基盤として広がりをみせています。

 

株式会社 Lean on Mehttps://leanonme.co.jp/

コメント

  • 須藤 慎

    記事作成者

    株式会社キャンパスクリエイト・専務取締役・プロデューサー

    本Webサイトの運営担当者です。2005年から、産学官連携や産業振興の業務に携わっています。

    コメント

    今回のヒアリングを通じて、「スペシャルラーニング」が当事者目線で完成度高く作り込まれたサービスだという印象を強く受けました。代表の志村駿介氏自身がダウン症のある弟を持ち、自らも障がい福祉の現場で職員として働いた経験から生まれた「現場の気づき」がサービスの根幹にあります。「知識不足が虐待の最大要因」という現実に向き合い、100名以上の専門家・有識者と共同開発した2,000本超の動画コンテンツが体系的に提供されているその完成度は、単なるeラーニングシステムを大きく超えたものがあります。
    特に印象に残ったのはコンテンツの厚みと多様性です。虐待防止研修から発達障がいの特性理解、精神障がい者への合理的配慮、バリアフリー対応まで256カテゴリーに及ぶラインナップはまさに「あらゆる現場で実際に起きている困りごと」に応えるために設計されています。障がい者当事者のドキュメンタリー映像や親御さんの声、報酬改定などの制度解説まで含む構成は、当事者の「生きた経験」を学習者に届けようという志が形になったものだと感じました。
    「スペシャルラーニング for business」の設計においても当事者目線の一貫があります。「支援する」という言葉を意図的に排除し「ともに働く同僚」という視点を起点にコンテンツを設計したことは、インクルーシブな組織文化を根付かせるために不可欠な視点だと感じました。ヒアリング中に「研修が必要な以上は導入しない理由がない」と心から思えたのも、このコンセプトの明快さと完成度の高さがあったからこそです。
    法定雇用率の引き上げや虐待防止研修の義務化という社会的要請が高まる中、「スペシャルラーニング」は当事者目線の完成度をもって応えられる、数少ないソリューションの一つだと確信しています。障がい福祉の現場で専門的な学びを求める従事者の方々にも、障がい者雇用に取り組む企業の担当者にも、ぜひ一度触れていただきたい取り組みです。

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