短期記憶に配慮した空間タスク伴走支援「TASK+al」が拓くインクルーシブな働き方

スタートアップ事例

公開日 

ヒアリング先
LOOVIC株式会社代表取締役 山中 享 氏

LOOVIC株式会社(東京都品川区)は、空間認知の課題解決を出発点とするスタートアップとして、「迷いやすい人」のためのナビゲーション技術を開発してきました。その技術をもとにリリースしたソフトウェアが、空間タスク伴走支援サービス「TASK+al(タスカル)」です。1タスクを15秒で区切り、スマートフォンへの音声つぶやきと静止画だけで「教えながら集録」できるシンプルな仕組みでありながら、アイズフリー・ハンズフリーで自分のペースで作業を進められるという、新しいタイプの現場支援プロダクトとして、製造業・物流・設備保全・訪問介護・障がい者就労支援・観光案内など、幅広い現場での実装が進んでいます。NEDO SBIR推進プロジェクトへの採択や特許取得を背景に、人手不足と技能伝承の課題を抱える現場に対し、インクルーシブな働き方を支える基盤技術として注目を集めています。

1.短期記憶の限界が生む現場の損失

技能伝承や新人教育の現場で、発生しがちなシーンがあります。指導者は「さっきメモも取ったし動画も見せたよね?」と感じる一方、教わる側は「あの場面、もう覚えていません」と申し訳なさそうに答える。この食い違いの背景には、認知科学的に裏付けられた人間の短期記憶の限界があります。

認知心理学では、短期記憶の保持時間は概ね15秒から30秒程度といわれ、ピーターソン夫妻による古典的な実験以来、その後の研究でも繰り返し確かめられてきました。さらに、ワーキングメモリ(作動記憶)と呼ばれる脳の働きは、入ってきた情報を一時的に保持しながら同時に処理・整理する役割を担っていますが、保持できる情報量は限りがあり、これを超えると情報があふれて取りこぼしが生じます。新人や非熟練者にとって、現場での指導は「指示」「場所」「手順」「注意点」「次のタスク」「名前」といった情報が一度に押し寄せる『情報オーバーフロー』の連続であり、熟練者にとっては当たり前に思える説明であっても、本人の頭の中ではほとんど残らないということが日常的に起こります。

TASK+al(タスカル)──1タスク15秒、話すだけで「先生がそばにいる」ワークフロー伴走

LOOVIC株式会社が開発・提供する「TASK+al(タスカル)」は、人間の短期記憶の特性に正面から寄り添うかたちで設計された、空間タスク伴走支援サービスです。コンセプトを一言で表すと、「先生がそばにいるようで、いない」。1タスクを15秒という短期記憶の保持時間に収まる単位に区切り、利用者は耳で聞きながら、自分のペースで「次へ」「もう一度」「前へ」と操作するだけで、必要なことだけが順番に案内されるという、極めてシンプルなワークフローを実現しています。

サービスの使い方も大きく2つに整理できます。1つは『メーカー側(発信側)の集録』。専門知識やコツを持つ熟練者が、作業しながらスマホに向かって15秒程度で「ここのネジを緩めて、次。」とつぶやくだけで、その音声と静止画がそのままタスクとして記録され、ワークフローが生成されます。編集や入力は基本的に不要で、「教えながら集録する」感覚で、現場の生きた知恵をそのまま資産化できる点が大きな特徴です。もう1つは『利用者側(受け手側)のタスク再生』。記録されたタスクを、必要なタイミングで耳から受け取り、止めて聞き直し、また進めるという形で進められます。聴覚に集中できるため、手も目も自由なまま作業を続けられ、作業者は「考える余白」を奪われずに、自分の力で仕事を組み立てていくことができます。

 

TASK+alが拓くインクルーシブ社会──多様な働き手が、自分のペースで活躍できる現場へ

短期記憶への配慮と、編集レスで現場の言葉をそのまま運ぶというTASK+alの設計は、結果として、これまで「指導コストが高すぎる」「説明が大変すぎる」と敬遠されてきた多様な働き手の受け入れを、現実的なものにしていきます。LOOVICが描いているのは、単なる業務効率化ツールではなく、人を育てる技術によってインクルーシブな働き方を支えるインフラとしての位置付けです。

訪問介護・設備保全・観光案内など、空間を伴うあらゆる仕事で

訪問介護では、ヘルパーが訪問先の鍵ボックスの場所や物品の配置、利用者ごとの細かなケア手順を覚えておくことが求められますが、こうした『場所に紐づく情報』こそ、TASK+alが最も得意とする領域です。設備保全・点検業務でも、操作パネルや配管・配線の状態を写真と15秒の音声で残しておくことで、後任の担当者がベテランの目線そのものを受け継ぐことができます。さらに、大規模イベントでのアクセシブルツーリズム支援、視覚障がい・身体障がいのある来訪者や外国人観光客への観光案内など、観光分野での活用も視野に入っています。ボランティアガイドの経験がなくても、事前にベテランの解説を15秒タスクとして仕込んでおけば、必要なときに必要な情報を、来訪者自身が自分のペースで受け取れるようになります。

外国人技能実習生・特定技能・育成就労制度の現場で

20274月から始まる育成就労制度や、対象分野が拡大し続ける特定技能制度のもとで、製造業・物流・建設・介護といった分野では、これまで以上に多様な国籍・言語背景の働き手と協働する場面が増えていきます。日本語のペースで矢継ぎ早に説明される現場は、それだけで大きな心理的負荷となりますが、TASK+alでは、1タスクごとに15秒で区切られた音声・画像を母国語で受け取り、繰り返し聞き直すことができます。リアルタイム翻訳の誤変換リスクを抑えながら、事前に熟練者の声を母国語タスクとして仕込んでおく運用も可能で、N4レベルの日本語力でも安心して現場に入れる土台が整います。指導者側にとっても、毎日同じ説明を派遣スタッフや実習生に繰り返す必要がなくなり、紙マニュアルを多言語化する工数からも解放されます。

障がい者就労支援の現場で

障がい者就労支援の現場では、就労継続支援B型・A型事業所のジョブコーチや相談員が、利用者一人ひとりの特性に合わせて非常に丁寧なマニュアルを作成しています。従来10時間以上かかっていたマニュアル作成が、TASK+alを使えば1時間程度で済むケースもあり、ジョブコーチの負担を圧倒的に減らしながら、利用者本人が自分のペースで作業を進められる環境を整えられます。アイズフリー・ハンズフリーで聴覚中心に情報を受け取り、必要なときだけ画面を確認できる設計は、認知特性や障がい特性に応じた柔軟な使い方が可能で、就労機会の確保と法定雇用率達成への寄与も期待されます。

 

LOOVICが目指しているのは、「指導者がそばにいるようで、いない」状態を、誰もが安心して受け取れる社会です。考える余白を残し、自分の力で作業を進められること。指導側の負担を不必要に増やさないこと。そして、年齢・国籍・言語・障がい特性・経験の有無を問わず、誰もが現場の一員として活躍できる環境を整えること。TASK+alは、人手不足と多様性の時代に向けて、まさに『人を育てる技術』という新しいカテゴリーを切り拓こうとしているサービスです。

 

Webサイト:https://www.loovic.co.jp/ja

お問い合わせ:contact@loovic.co.jp

コメント

  • 須藤 慎

    記事作成者

    株式会社キャンパスクリエイト・専務取締役・プロデューサー

    本Webサイトの運営担当者です。2005年から、産学官連携や産業振興の業務に携わっています。

    コメント

    人手不足と少子高齢化があらゆる場面で広がっていく中で、技能伝承は製造業を代表に大きな課題となっています。熟練者の頭の中にある「生きた知恵」をどう次の世代へ受け渡すかは、業種を問わず多くの企業が頭を悩ませているテーマであり、紙のマニュアルや動画マニュアル、近年では生成AIまで含めて様々な手段が試みられていますが、現場で本当に定着する仕組みはまだ十分とは言えません。同時に、障がい者雇用の拡大や外国人技能実習生・特定技能・育成就労制度のもとでの多様な働き手の受け入れが進む中、彼らのストレスを減らし、安心して働き続けられる職場環境を整えることもまた、企業経営にとって避けて通れない論点となっています。
    LOOVIC株式会社の「TASK+al(タスカル)」は、こうした課題に対して、人間の短期記憶という極めて根源的な制約から出発し、独自の特許技術と空間認知の研究蓄積をもとに、現場の人にとって非常に使いやすいかたちに磨き上げられたツールだと感じました。1タスク15秒という設計は、ワーキングメモリの限界に正面から向き合った結果生まれた仕様であり、利用者は自分のペースで聞いて、止めて、進めて、必要なら何度でも聞き直すことができます。これは、「分からなかったらもう一度聞きに行く」というハードルが高い場面──新人の方、外国人スタッフの方、障がいのある方など──において、心理的不安を大きく下げ、結果として組織内のコミュニケーション活性化にもつながっていくと感じました。
    また、指導者側にとっても、つぶやくだけで簡易に教育コンテンツが作れ、しかも一度作ったコンテンツが繰り返し再利用できるという点は、現場の人材育成にかかる工数の大きな削減につながります。あらゆる方が快適に仕事を進めていく上での、まさに基幹的なツールとして、今後の普及に大いに期待しています。

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