「双子・三つ子育児を、あきらめない」 —孤立と負担を、テクノロジーとコミュニティで解決する多胎家庭向けアプリ「moms」—
公開日
- ヒアリング先
- 株式会社pono取締役 古島 夏美 氏
双子だから、三つ子だから、できないことがたくさんある。でも、だからこそ味わえる幸せもある」。双子・三つ子など多胎児の家庭は、日本では全出産の約1%というマイノリティです。情報も、つながりも、居場所も得にくいなかで、当事者だけが知る大きな負担を抱えています。株式会社ponoは、自身も多胎育児を経験した当事者がつくる、双子・三つ子家庭向けウェルビーイングアプリ「moms」を開発・運営しています。
■ 双子・三つ子を育てる家族の課題、そして社会課題
双子・三つ子・四つ子など、一度の出産で同時に複数の子どもが生まれてくることを「多胎児」といいます。多胎児の出産は日本では全体の約1%にとどまり、マイノリティであるがゆえに、必要な情報や支援にたどり着きにくいという情報格差が生まれています。
多胎妊娠は「ハイリスク妊娠」とされ、約5割が早産、約7割が低出生体重児(2,500g未満)として生まれてくるといわれます。出産前から数か月にわたる管理入院を経験する方も少なくなく、母体・胎児の双方にリスクが高まりやすい状況です。
出産後も、体力が十分に回復しないなかで、2人・3人を同時に育てる過酷な日々が続きます。小さく生まれた赤ちゃんは哺乳力が弱く、数十ミリを飲むだけでも長い時間がかかります。それが同時に2人・3人となれば、授乳・おむつ替え・寝かしつけが途切れることなく続き、母親はまとまった睡眠をほとんど取れません。同時に泣く、同時に授乳するといった「同時性」の負担に加え、おむつやミルク、ベビーカーなど育児用品が2倍・3倍必要になる経済的負担、外出のハードルの高さも重くのしかかります。
こうした困難は、社会的な数字にも表れています。多胎家庭の虐待死率は単胎児家庭の約2.5〜4倍、離婚率は約1.5〜2倍高いとされ、当事者が孤立しやすい構造があります。さらに、既存の妊娠・育児アプリには多胎児に特化した情報がほとんどなく、双子・三つ子では応用できないノウハウも多いのが実情です。同じ年齢の子を同時に預けられる託児所が見つからない、悩みを吐き出す場所も理解者もいない——「情報・つながり・居場所」との距離が遠いことが、多胎家庭が直面する根本的な課題だといえます。
■ 「moms」のコンセプトと搭載機能
株式会社ponoは、「〜大好きな、じぶんを。〜」を掲げる会社です。社名の「pono」は、ハワイ語で「自然体・調和・バランス」を意味します。妊娠・出産を経て自分らしさを見失いがちなママたちが、家族や社会との調和を図りながら、ありのままの心地よい自分でいられる。そんな状態を応援したいという願いが込められています。
同社が開発・運営するアプリ「moms」のコンセプトは、多胎家庭が直面する孤立と負担を、テクノロジーとコミュニティで解決することです。「仲間がいない、情報がない、できないことがいっぱい。だけど、多胎育児だからって諦めたくない」、その思いから、双子・三つ子育児の負担を減らし、「楽しい」を増やすサービスを、当事者自身が開発しています。
現在、「moms」には主に3つの機能が実装されています。1つ目は「多胎SOS」。極度の睡眠不足のなかで2人・3人を育てる極限の状況で、「どこに相談すればいいかわからない」という声に応える機能です。郵便番号を入力すると、自分が住む自治体の相談窓口へワンタップで電話がつながります。各自治体に許可を得たうえで窓口情報を掲載しており、安心してSOSを出せる仕組みです。
2つ目は、当事者同士がつながる「SNS(掲示板)」機能。先輩のママ・パパに、いつでもどこでも相談できる場です。3つ目は「ショップ」機能で、先輩ママ・パパがおすすめする双子ベビーカーなどのアイテムを、どこよりもお得に購入できることを目指しています。
「moms」アプリは無料で提供され、運営は当事者視点を生かしたエンゲージメントマーケティング事業などで支えられています。多胎家庭は一般家庭の約1.8倍の消費支出があり、口コミを重視する傾向が強いことから、ponoは「広告」ではなく当事者に役立つ「情報」として商品・サービスを届けることに価値を置いています。加えて、育児中でも学び続けられるオンラインスクール事業も展開し、復職のハードルが高い多胎家庭が在宅で働けるスキルを身につける場を提供しています。
■ 「moms」利用者・現場の声
「moms」が当事者に支持される背景には、リアルな困りごとに寄り添う設計があります。多胎家庭にとって最も大きな負担のひとつが経済負担です。おむつやミルク、ベビーカー、さらには車の買い替えまで、育児にかかる費用が同時期に2倍・3倍に膨らみます。だからこそ「失敗したくない」「実際に使った人の声を聞きたい」というニーズが強く、アプリ内では「このアイテムはどうでしたか」「2人を同時にどう寝かしつけていますか」といったやりとりが活発に交わされています。
ponoはこうした声について、単に商品を安く買えるだけでなく、「情報を検索するコスト」を下げられている点に意義があると語ります。1人ではなく2人・3人を育てるママ・パパの体験談がすぐに聞けること自体が、多胎家庭にとって大きな支えになっているのです。
コミュニティの力は、リアルなイベントでも実証されています。福岡県のある宅食サービス企業が、社員向けの福利厚生として水族館の貸切に多胎家庭を招待したところ、呼びかけからわずか1日で約90組の応募が集まりました。抽選で約50組を招待した結果、「今まで一度も連れて行ったことがなかった」「本当によかった」という声が寄せられたといいます。周囲に気兼ねなく、双子・三つ子であることを理解してくれる人たちと出かけられる——そうした安心できる場が、いかに求められているかを物語っています。
海外での広がりも、口コミとコミュニティの強さを示しています。現在の利用者の多くは海外駐在中の日本人で、日本に次いでアメリカからの利用が多いのは、現地の多胎ママのコミュニティのなかで「moms」が共有されているためと考えられます。世界中の多胎家庭をつなぐプラットフォームへの成長が期待されます。
「双子だから諦める」のではなく、「双子だから楽しい」「双子だから味わえる幸せがある」。その思いを発信したいという当事者の願いが、「moms」というアプリの原点になっています。
▼ 株式会社pono
多胎妊娠育児アプリ「moms」:https://moms-app.com/
コメント
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本Webサイトの運営担当者です。2005年から、産学官連携や産業振興の業務に携わっています。
コメント
今回お話をお伺いし、普段なかなか知ることのない多胎家庭の大変さや、そこにある現状の課題を、改めて深く理解することができました。双子・三つ子の出産は全出産の約1%というマイノリティであるがゆえに、必要な情報やつながり、安心できる居場所との距離が遠く、当事者だけが抱える負担がいかに大きいかを実感しました。
そのなかで、株式会社pono様の「moms」が持つポジティブな考え方と、「〜大好きな、じぶんを。〜」という企業理念に、強く共感しました。とりわけ素晴らしいと感じたのは、孤立を防ぐために、地域コミュニティの「絆」によって支えていくというアプリの在り方を、当事者の視点から徹底して追求し、つくり込んでいる点です。多胎SOSによる相談窓口へのワンタップ接続や、先輩ママ・パパとつながれる仕組みなど、極限の状況にある当事者の「困った」に寄り添う設計には、強い想いとこだわりが込められています。こうした姿勢こそが、利用者の輪が国内外へと広がっている秘訣であり、本当に意義のある取り組みだと思います。
さらに、復職のハードルが高い多胎家庭に学びの場を提供するスクール事業や、当事者の信頼を起点に「広告ではなく情報」として届けるエンゲージメントマーケティング事業など、当事者視点を大切にしたビジネスの広げ方にも大いに着目できます。
多胎家庭の方はもちろん、子育て世代へのマーケティングや社会性の高いブランディングに関心のある企業の方にも、ぜひpono様の活動にご注目いただきたいと思います。このコメントと投稿者はデジタル証明書(VC)によって真正性が保証されています。
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須藤 慎
記事作成者
株式会社キャンパスクリエイト・専務取締役・プロデューサー