インクルーシブデザインで「ともに使える」社会へ ――障害の有無を超えたプロダクト開発と企業支援を推進する株式会社Halu

スタートアップ事例

公開日 

ヒアリング先
株式会社Halu代表取締役 松本 友理 氏

障害の有無を超えて「ともに使える」プロダクト・サービスを通じ、多様性を価値へと変える。スタートアップ・株式会社Haluは、障害のある子どもとその家族の日常にある切実な困りごとや願いを起点に、インクルーシブデザインの実践を進めてきました。自社プロダクトの開発と社会実装を通じて培った実践知をもとに、現在は、企業の新市場創出や競争力強化につながる戦略としてのインクルーシブデザイン推進支援にも取り組んでいます。代表的プロダクト「IKOUポータブルチェア」の開発ストーリーや、企業向け研修・ワークショップ、当事者家族との対話を起点にしたリサーチ・コンサルティングサービスの詳細をご紹介します。

 

インクルーシブデザインとは

インクルーシブデザインとは、障害者や高齢者など、従来のプロダクトやサービス、施設開発等でその声が見過ごされがちだった人々、いわゆるマイノリティの困りごとや願いを起点に、当事者とともに解決策を考え、形にしていくアプローチです。株式会社Haluは、「インクルーシブデザインで多様性を価値に変え、分断のない世界をつくる」というビジョンのもと、このアプローチの社会実装に取り組んでいます。

「バリアフリー」や「ユニバーサルデザイン」に対するインクルーシブデザインの特徴の一つは、マイノリティを「配慮すべき対象」から「ともに価値を生み出すパートナー」と捉え直すという視点の転換にあります。従来、障害のある人や高齢者は商品・サービスの設計において後から「対応」されることが多く、彼らの声が企画や設計の初期段階から十分に反映されにくい状況があります。

日本の学校や職場では障害のある人とない人が接する機会が依然として限られており、世の中のプロダクトやサービスを「使えない」人の存在にビジネスパーソンが気づくきっかけが生まれにくいという社会構造的な課題があります。Haluは、こうした「無意識に生まれてしまう排除」に光を当て、潜在的ユーザーの視点を取り入れることが、企業の新たな市場創出につながると考えています。

同社を率いるのは、トヨタ自動車で約10年間、自動車の商品企画に携わってきた代表者 松本氏です。「これまで十分に想定されてこなかったマイノリティの視点を起点としたものづくりが、成熟社会における新たな価値創出につながる」との確信を持ち、2020年に株式会社Haluを創業しました。

同社の取り組みはすでに各方面から高く評価されており、IKOUポータブルチェアはグッドデザイン賞を受賞し、株式会社Haluとしても内閣府によるバリアフリー・ユニバーサルデザイン推進功労者表彰を受賞しています。

 

 

インクルーシブデザインによって生み出された製品例「IKOUポータブルチェア」

インクルーシブデザインの実践例として最もわかりやすい同社の代表商品であり、企業向けの推進支援における知見の土台にもなっているのが、「IKOUポータブルチェア」です。IKOUは「障害のある子もない子もともに使えるインクルーシブブランド」として位置付けられており、ポータブルチェアのほか、キッズウェアやスタイなども展開しています。

IKOUポータブルチェアは、体幹が弱い乳幼児でも安定して座れる姿勢サポート機能を備えながら、コンパクトに折りたたんで持ち運べる設計を実現しました。対象は、生後7か月頃から、身長97cm以下・体重16kg以下のお子様で、大人用の椅子への取り付けも可能です。これにより、障害のあるお子様を含む小さなお子様連れのご家族の、外出先で「子どもを安心して座らせる手段がない」という問題を解消し、「行ける場所」ではなく「行きたい場所」へ出かけられるようになります。
IKOU
ポータブルチェアは、障害のあるお子様専用の福祉機器ではなく、障害の有無にかかわらず使える製品として対象を広げることで、金型による量産でコストダウンを実現し、補助金なしに購入できる価格帯を達成しています。この設計思想こそが、インクルーシブデザインが切り開く新しい市場の姿です。

全国施設への導入と実証された効果

IKOUポータブルチェアはすでに全国の125箇所の施設へ導入されています(20263月末現在)。スポーツスタジアム・アリーナへの導入が拡大しているほか、飲食店や商業施設、鉄道車内など、さまざまな外出先に広がっています。「多様なお客様を歓迎する」という姿勢を示すシンボルとして活用されている点も大きな特徴です。

独立行政法人日本スポーツ振興センターとの共同調査では、スポーツ観戦でIKOUポータブルチェアを使用したご家族の70%以上が「子ども用の座席代金を払ってでも、IKOUポータブルチェアを使ってまた観戦したい」と回答しました。これは、同製品が小さなお子様連れのご家族の外出促進だけでなく、スタジアム・チームの収益向上にもつながる可能性を示すものです。社会課題の解決とビジネスとしての持続性の両立、つまりインクルーシブデザインの可能性を示す好事例と言えます。

ユーザーからは「家族横並びでスポーツ観戦をしたいという夢が叶った」「障害のある娘と普通に一緒に座って外食できたことが本当にうれしかった」といった声も届いており、家族の外出体験を広げ、当事者の生活を豊かにするプロダクトとして高い評価を受けています。

 

インクルーシブデザイン研修/ワークショップサービスのご案内、取組事例

Haluは、自社プロダクトの開発を通じて、障害のある子どもとその家族の切実な困りごとを起点に、当事者家族とともに解決策を形にし、社会実装してきました。その実践を通して磨いてきたインクルーシブデザインのノウハウと、障害児家族を中心とした独自コミュニティとの継続的な関係性をもとに、企業・団体に向けた研修・ワークショップおよびリサーチ・コンサルティングサービスを提供しています。「世の中のプロダクトやサービスを、当事者の声を起点により多くの人たちが使いやすいものへとアップデートしていくことは、自分たちだけの力ではできない。すでにプロダクトやサービスを持つ企業と力を合わせることで、目指す社会の実現を加速できる」という考えが、企業支援事業の原点にあります。

 

研修・ワークショップの概要

まず入口として、以下のようなプログラムを提供しています。

・インクルーシブデザイン入門プログラム(座学):IKOUのプロダクト開発の実例をもとに、インクルーシブデザインの考え方や事例を学ぶ座学形式の研修。商品・サービス開発、新規事業、マーケティング、DEI推進、次世代人材育成など、幅広い業務テーマに対応します。

・ワークショップ型プログラム:Haluが運営するIKOUインクルーシブパートナー(障害児家族を中心としたコミュニティ)との対話を通じ、参加者自身の視点をアップデートする実践型プログラムです。当事者家族の一次情報や対話を起点に、これまで見落とされていた利用シーンやニーズを発見し、自社のプロダクトやサービス、顧客体験への応用を検討します。

 

研修参加企業からは、「制約のある視点こそがイノベーションの源泉になると気づいた」「視点を変えると既存商品の新たな価値が発見できる」といった声が寄せられています。インクルーシブデザインへの取り組みは、CSRESGSDGsの観点から有効なDEI(多様性・公平性・包摂性)の実践であることにとどまらず、新たな顧客価値の発見や既存事業の価値向上にもつながる取り組みとして注目されています。企業の社会的責任と事業戦略の両面から意義あるアプローチです。

当事者リサーチ・コンサルティング

仮説や決めつけから入らず、定量的なアンケート調査で課題箇所を特定したうえで、当事者へのデプスインタビューや行動観察で深掘りし、さらにプロトタイプを用いたユーザーテストでブラッシュアップ。抽出されたインサイトを商品・サービス・施設へと実装するまでを伴走します。自社でプロダクト開発を実践してきた経験と、障害児家族を中心とした当事者モニターの独自コミュニティを有することが、Haluならではの強みです。

インクルーシブデザインの研修・ワークショップに参加する企業の動機は様々ですが、「ターゲットと思っていた顧客の中に、悪気なく含めてこなかったユーザーがいると気づくきっかけになった」という声に象徴されるように、まずは「視点の転換」をもたらすことが大きな出発点となっています。新規事業やプロダクト開発はもちろん、既存商品を改良してより多くの人に届けるためのアプローチとしても有効で、新規事業や商品・サービス開発、既存商品・サービスのユーザー拡大、顧客体験の見直しなど、幅広いテーマに活用できます。

こんな企業・組織にお勧め

・プロダクト・サービスの新規開発やリブランディングに取り組むメーカー・小売業

・多様なお客様を歓迎する施設や空間を設計・運営するゼネコン・デベロッパー・飲食・観光業

DEI推進や次世代人材育成に注力する人事・総務部門

ESGSDGsへの対応を事業戦略に組み込みたい経営企画部門

・公共交通・観光・スポーツ施設など幅広い利用者を持つサービス業

 

インクルーシブデザインは、誰かの切実な困りごとを起点に、より多くの人にとっての新たな価値を見出していく、まさに「ともに価値を生み出す」アプローチです。自社での実践を重ねてきたHaluだからこそ、企業がこの考え方を自社の事業やサービスに取り入れるプロセスに伴走できます。研修・ワークショップへのお問い合わせ・詳細は以下の公式サイトをご参照ください。

 

株式会社Haluhttps://ikoudesign.com/

参考:IKOU(Halu)公式サイト トップ  
IKOUオンラインショップ 

コメント

  • 須藤 慎

    記事作成者

    株式会社キャンパスクリエイト・専務取締役・プロデューサー

    本Webサイトの運営担当者です。2005年から、産学官連携や産業振興の業務に携わっています。

    コメント

    今回のヒアリングを通じて、インクルーシブデザインという言葉の奥にある深い思想と、それを事業として形にするHalu様の実践力に、強い感銘を受けました。障害者と健常者とが「ともに使える」プロダクトやサービスを増やすことで、あらゆる人にとってのWell-Beingな社会を実現していくという方向性は、まさに時代が求めていることだと感じます。
    特に印象的だったのは、インクルーシブデザインを企業の競争力につながる未来志向の戦略として提示していた点です。多くの方に喜ばれるサービスという利用者目線とともに、サービスの利用者層が広がっていくビジネス面でのプラス要素になるという企業メリットもあり、企業が取り組む上での合理性を強く感じるものでした。新市場の発見やマーケット拡大という観点を押さえていることで、インクルーシブデザインへの参入障壁が下がり、多くの企業が前向きに検討できるようになるのではないかと思います。
    その具体例として紹介いただいたIKOUポータブルチェアは、開発の背景も含めて非常に心に響くプロダクトでした。「行きたい場所ではなく、行ける場所を選ばざるをえない」という当事者の切実な経験を起点に、障害のある子もない子も使えるインクルーシブ設計を実現し、補助金なしで購入できる量産型として市場に投入するという一連のプロセスに、インクルーシブデザインの本質が凝縮されていると感じました。全国の施設への導入実績やスポーツ施設でのアンケート結果など、社会課題の解決とビジネスの持続性を両立させた成果は、説得力ある証拠として受け取ることができます。
    また、モニターコミュニティを持ち、リサーチから実装まで伴走できる体制は、同社ならではの強みだと感じます。当事者の声をプロダクトやサービスの核心に組み込んでいくプロセスは、企業向け研修・ワークショップにおいても再現されており、参加した企業が「制約のある視点こそがイノベーションの源泉」と気づく体験は、きっと組織の文化そのものを変えていくきっかけになると思います。
    インクルーシブデザインに基づくプロダクトデザインに取り組む企業が増えていく中で、Halu様のアプローチの洗練性はひときわ目を引くものです。DEIやESG推進の文脈からはもちろん、新規事業・製品開発・施設設計・人材育成など幅広いテーマで活用できる可能性を秘めており、ご関心をお持ちの企業の方はぜひインクルーシブデザイン研修・ワークショップサービスへのお問い合わせを検討されてみてはいかがでしょうか。得るものは大きいと思います。

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