あらゆる「まちの移動」をひとつのアプリで——RYDE株式会社が描く公共交通デジタル化の未来

スタートアップ事例

公開日  更新日 

ヒアリング先
RYDE株式会社プロダクトマネージャー 原田 智彦 氏

RYDE PASSは、公共交通のIC化が難しい乗車券や紙券・磁気券をデジタル化し、鉄道・バス・フェリー・シェアサイクル・タクシーまで、あらゆる移動を「ひとつのアプリ」で提供するモビリティプラットフォームです。直感的なUI/UXと、目検・QR改札など柔軟な認証方式、そして交通事業者や自治体が利用実態を可視化できるデータ分析機能を兼ね備えています。2021年の正式リリース以来、38都道府県・160以上の交通事業者・自治体に導入が拡大し、15万人以上のユーザーが日常的に活用しています。

1. RYDE株式会社とRYDE PASSとは

RYDE株式会社は、「世のため、ひとの移動のため。」をビジョンに掲げ、20199月に設立されたスタートアップ企業です。デジタルの力を通じて、二次交通や地域交通といった「まちの移動」をわかりやすく・簡単に・楽しくすることで、一人ひとりの毎日をより良く、まちの未来もより良くできると信じ、日々事業に取り組んでいます。

同社が展開するRYDE PASSは、公共交通において従来IC化が難しかった乗車券や、現在も紙券・磁気券での運用が続いているチケット類を、スマートフォンアプリを通じてデジタル化するサービスです。利用者にとっては使いやすく、交通事業者や自治体にとっては管理しやすい環境を一つのアプリケーションで実現することを目的に開発・提供されています。

20212月の正式リリース以来、着実に導入エリアを拡大10代から70代以上まで幅広い年齢層が日常的に利用しています。特定の層に偏ることなく広く受け入れられていることが特徴です。

2. RYDE PASSの特徴と解決する社会課題

RYDE PASSには、現代の公共交通が抱える複数の課題を解決する3つの中核機能があります。

公共交通のデジタル化

1日乗車券や往復券、観光施設と連携した企画券、定期券・回数券など、「交通」分野の様々な乗車券・乗船券をわかりやすく・使いやすいデジタルサービスとして実現できます。従来、お客様が窓口に並んで紙券を受け取り、都度管理するという手間がかかっていたものを、スマートフォンの中ですべて完結させることができます。

通常の通勤定期はもちろん、通学定期や障がい者用定期など、従来は窓口でなければ発行できなかった証明書が必要なチケット類にも対応しています。お客様がスマートフォンで証明書の写真を撮影・申請するだけで手続きが完了するため、窓口業務の負担軽減にもつながります。

様々な移動を1つのアプリで提供

近年、移動に関わるサービスが多様化し、交通手段ごとに別々のアプリをインストールしてアカウントを登録するという手間がユーザーに生じています。RYDE PASSは、鉄道・バス・フェリーのほか、シェアサイクルやタクシーなど、移動に関わるあらゆるサービスを1つのプラットフォームで提供することを目指しています。シェアサイクルでは、利用したいポートをアプリの地図上で選択し、予約から返却・決済までをRYDE PASSで一括管理することができます。

認証方式についても、乗務員への目視確認(目検)に加え、全国で普及が進むQR改札との連携にも対応しており、導入先の予算や目的に合わせた柔軟な取り組みを可能にしています。不正防止の観点から、画面キャプチャや動画撮影ができない仕組みを組み込むなど、交通事業者が安心して採用できるよう細部までこだわって設計されています。

利用状況の可視化とデータ活用

これまで公共交通事業者や自治体は、紙券や磁気券の販売状況については把握できていても、実際に誰がどのように利用しているかという詳細なデータをほぼ持ち合わせていませんでした。RYDE PASSでは、利用者の属性や利用実態の詳細を定量データとして提供するBI機能を管理画面上で利用できます。事業者はリアルタイムの売上サマリーや購入者属性(性別・年代・居住地域など)を確認でき、このデータをマーケティングやCRM活動に活用することが可能です。

また、売れる商品・売れない商品が明確にデータとして現れるため、お客様のニーズに合わせた企画の改善や新商品の開発にも役立てることができます。データに基づいた意思決定ができることが、RYDE PASSの大きな強みの一つです。

3. RYDE PASSの主な利用用途

観光・インバウンド対応

旅行者向けの1日乗車券やフリーパスは、RYDE PASSが最も活用されているシーンの一つです。観光地では、交通機関のデジタル化を進めることで窓口業務の負担を減らしながら、旅行者の利便性を向上させることができます。インバウンド需要への対応として、日本語・英語・韓国語・繁体字・簡体字の5言語に対応しており、利用者のスマートフォンの言語設定に自動的に対応するため、外国人旅行者がわざわざ言語を切り替える手間がなく、日常と同じ感覚でアプリを利用できます。

離島や観光地への移動においても、現地に電波が届く環境であれば問題なく使用できます。船の乗車前にチケットを購入しておき、乗務員に画面を見せるだけで利用できるため、移動中に電波が届かない場面があっても安心して使用することが可能です。

住民の日常利用・地域交通の活性化

観光目的だけでなく、地域住民の日常の移動手段としての活用も広がっています。路線バスやコミュニティバスにおいて、定期券・回数券をデジタル化することで乗車手続きを簡便にし、沿線住民の公共交通利用を促進する効果が生まれています。

利用データの可視化により、どのバス停・路線に需要があるかが定量的に把握できるようになり、「バス停からシェアサイクルへの乗り継ぎを整備しよう」といった交通インフラの最適化にもつながっています。デジタルチケットをきっかけに、地域の交通体系全体を見直すための基盤データとして活用されているケースも出てきています。

イベント・地域振興への活用

地域のイベントやまちおこし施策に合わせた期間限定チケットの発行にも対応しています。たとえば特定のイベント開催日だけの参加者向けシャトルバスチケットなど、必要なときに必要な分だけ販売できる柔軟性があります。参加者がどこから来たのかといったデータも取得できるため、イベント主催者にとってもマーケティング上の価値ある情報を得ることができます。

デマンド交通との連携

新たなメニューとして、デマンド交通(予約型の乗合交通)との連携も開始しています。利用者はRYDE PASSアプリから配車予約を行い、決済も含めてアプリ内で完結できます。これにより、定路線バスが走っていないエリアとの移動データを一元的に管理することが可能となり、地域の移動の全体像を把握するための重要なツールになっています。

. 交通事業者・自治体が得られる価値

RYDE PASSは、利用者(エンドユーザー)・交通事業者・自治体のいずれにとっても「無理なく使える」BtoBtoCモデルを採用しています。交通事業者や自治体は、システムの開発や保守を自ら行う必要なく、管理画面から簡単にサービスを利用することができます。

RYDE PASSの主な導入メリットをまとめると、以下のとおりです。

  • 窓口業務や紙券管理の負荷軽減により、運営コストの削減が見込まれます。
  • デジタル化により、販売・利用データをリアルタイムで把握できるようになります。
  • 利用者属性のデータを活用したマーケティングや、新たな企画乗車券の開発が可能になります。
  • QR改札連携など、導入先の状況に合わせた柔軟なシステム構成を選べます。
  • デマンド交通との連携により、地域交通全体の一元管理に向けた第一歩を踏み出すことができます。

また、ある交通事業者のクーポン活用事例では、定期券利用者に対して沿線施設で使えるクーポンを一斉配布したところ、これまで知られていなかった周辺サービスの利用につながり、地域経済の活性化にも貢献した事例が報告されています。RYDE PASSは、単なるデジタル乗車券にとどまらず、地域全体のモビリティと経済の活性化を支えるプラットフォームへと進化しています。

まとめ

RYDE PASSは、IC化や完全なシステム投資が難しい地域の公共交通においても、低コストかつ迅速にデジタル化を実現できるサービスです。直感的なUI/UX、多様な認証方式、そして充実したデータ可視化機能を兼ね備え、利用者・事業者・自治体の三者すべてにとっての利便性向上を目指しています。

少子高齢化や労働力不足、インバウンド需要の拡大、交通空白地域の解消など、日本の公共交通が直面する課題は多岐にわたります。RYDE PASSは、デジタルの力でこれらの課題に正面から向き合い、「世のため、ひとの移動のため。」というビジョンの実現に向けて、全国各地での展開を加速させています。

RYDE株式会社:https://ryde-inc.jp/

コメント

  • 須藤 慎

    記事作成者

    株式会社キャンパスクリエイト・専務取締役・プロデューサー

    本Webサイトの運営担当者です。2005年から、産学官連携や産業振興の業務に携わっています。

    コメント

    公共交通のデジタル化は「チケットをスマホに置き換える」だけではうまく進まず、利用者にとって迷わず使える体験設計と、事業者・自治体にとって無理なく運用できる仕組みづくりが要になります。今回RYDE様にヒアリングして最も強く感じたのは、まさにこの点に対するこだわりの強さでした。鉄道・バス・フェリー・シェアサイクル・タクシーまで、移動手段ごとにアプリが分断されがちな現状に対し、「ひとつのアプリで、わかりやすく・使いやすく」という思想を、UI/UXから認証方式、運用設計、データ活用に至るまで一貫して貫いている点が印象的です。
    特に、訪日外国人に対するユーザインタフェース性の高さは大きな価値だと感じました。多言語対応はもちろん、スマートフォンの言語設定に自動追従する設計や、直感的に迷わず購入・利用できる体験は、観光地の窓口混雑の緩和や、現場スタッフの負担軽減にも直結します。また、離島や山間部など、IC化や大規模な改札投資が難しいエリアでも、目視確認(目検)やQR改札連携など、地域事情に合わせて導入形態を選べる柔軟さがあり、二次交通のような“現場の制約が大きい領域”でこそ活きるサービスだと感じました。
    さらに重要なのが、交通手段間の連携を前提にしている点です。単体のデジタル乗車券にとどまらず、乗り継ぎや回遊を意識した設計、そして利用実態を可視化できるデータ基盤として機能することで、自治体や事業者が「次に何を改善すべきか」をデータで判断できるようになります。
    記事タイトルにある「あらゆる移動を」というキーワードは、まさしく地域交通の基盤システムとしての方向性そのものを象徴していると腹落ちできる内容でした。

    このコメントと投稿者はデジタル証明書(VC)によって真正性が保証されています。

    このコメントと投稿者情報は、「改竄されていないか」や「正当な投稿者か」などを暗号学的に検証できる〈Verifiable Credential(VC)〉によって保証されています。
    それらがシステム上で検証された後に記事にコメントとして表示されています。

    VCとは

    VC(Verifiable Credential)は、デジタル空間で「改ざんが検知可能」かつ「即座に検証可能」な証明書です。
    紙の証明書やPDFと異なり、暗号技術により真正性が数学的に保証されており、W3Cにより制定された国際標準規格です。

    本WebサイトのVC運用ポリシー