物流のCO2削減施策まとめ――2024年問題と2040年を見据え、サプライチェーン全体で排出を下げる実務
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はじめに
物流分野のCO2排出は、日本のエネルギー起源排出量のうち無視できない割合を占めています。国際的なパリ協定や国内のカーボンニュートラル目標、荷主企業のScope3(バリューチェーン排出)開示要請が重なり、物流のCO2削減は「環境部署が扱う個別テーマ」から「サプライチェーン戦略の中核KPI」へと位置づけを変えつつあります。2024年問題による輸送能力制約と、2026年4月のCLO(物流統括管理者)制度化、その先の2040年問題が組み合わさることで、効率化とCO2削減は分けて扱える論点ではなくなっています。
本記事では、物流のCO2削減を「環境対応」としてだけでなく、社会インフラとしての物流を持続可能な形で維持するための経営施策として捉え直し、排出の構造、主要施策、推進体制、産学連携の役割までを整理します。倉庫DXナビ編集部として複数の物流DX企業・倉庫運営者・荷主企業を取材し、また「倉庫DXオープンイノベーション推進プロジェクト ホワイトペーパー」やForbesJAPAN BrandVoice「CLO(物流統括管理者)が牽引する倉庫DX」での発信を重ねてきた立場から、できるだけ実務目線でお伝えします。
1. 物流のCO2排出の構造を理解する
1-1. Scope1/Scope2/Scope3とは
企業の温室効果ガス排出は、国際的なGHGプロトコルによってScope1(自社の直接排出)、Scope2(購入エネルギーの間接排出)、Scope3(バリューチェーン全体の排出)の3区分で整理されます。物流のCO2排出は、自社トラック運行はScope1、自社倉庫の電力使用はScope2、委託輸送や取引先倉庫の排出はScope3に該当します。荷主企業にとって、物流関連の排出は多くの場合Scope3が大きな比率を占め、サプライチェーン全体での削減が求められる構造にあります。
1-2. 物流セクターの排出特性
物流セクターの排出は、トラック輸送が大きな比率を占めます。特に長距離輸送、多頻度小口配送、ラストマイル配送、低積載率運行、片道空車回送などが排出を押し上げる主因です。倉庫側でも、空調、照明、フォークリフトや自動化設備の電力使用が継続的な排出源となります。ECの拡大、即日配送の常態化、再配達の発生は、排出を増やす方向に働く要素として無視できません。
1-3. 荷主責任としてのCO2削減
Scope3の開示要請が国内外で広がる中、荷主企業は自社物流・委託物流を含めた排出の把握と削減に取り組む立場に立たされています。2026年4月のCLO制度化によって、荷待ち・荷役時間削減、積載効率向上、共同配送推進といった改善施策が荷主責任として整理され、これらは同時にCO2削減の主要施策でもあります。CLO制度については別稿「CLO(物流統括管理者)とは」で整理しています。
2. CO2削減の主要施策
物流のCO2削減は、単一の施策ではなく複数の柱を組み合わせて進めることが前提となります。主要施策を整理します。
2-1. 積載効率の向上と共同配送
積載率の改善は、輸送コストとCO2排出の両方に直接効きます。片道空車を減らし、複数荷主の貨物を合わせて運ぶ共同配送、異業種・同業種連携、プラットフォーム型マッチングなど、積載効率を底上げする施策がCO2削減の中核です。共同配送の進め方については別稿「共同配送とは」で整理しています。
2-2. モーダルシフト
長距離トラック輸送を鉄道・船舶に振り替えるモーダルシフトは、単位輸送量あたりのCO2排出を大きく下げる施策です。鉄道コンテナ輸送は、長距離幹線でトラック比でCO2排出を大幅に削減できるケースがあり、国土交通省・経済産業省の補助制度も活用できます。モーダルシフトは拠点配置や運用設計の見直しが伴うため、中期ロードマップで進める施策となります。
2-3. EV・水素・再生可能燃料の導入
配送車両のEV化、水素燃料電池車、再生可能燃料(バイオディーゼル、合成燃料など)の導入は、Scope1排出の直接削減につながります。車両の航続距離、充電・充填インフラ、購入・運用コスト、既存車両との混在運用など、複数の実装課題を段階的に解消する必要があります。大手物流事業者・宅配事業者を中心に、都市内配送車両のEV化が先行しており、中長期では幹線車両にも拡大が見込まれます。
2-4. 倉庫省エネと再生可能エネルギー活用
倉庫のCO2排出は、空調・照明・設備電力が中心です。LED照明、断熱強化、空調制御、BEMS(ビル・エネルギー・マネジメント・システム)、自動倉庫やAMRの省電力制御、屋根置き太陽光発電、蓄電池、再生可能エネルギー電力の調達(PPA等)が主要施策となります。自動倉庫については別稿「自動倉庫とは」、AMRは「AMR(自律搬送ロボット)とは」で整理しています。
2-5. 荷待ち・荷役時間の削減とアイドリング低減
ドライバーが荷待ちで停車している時間は、アイドリング排出を生みます。荷待ち時間を削減することで、ドライバー拘束時間の短縮とCO2排出の削減が同時に実現します。Forbes記事で示されている年間125時間規模の荷待ち・荷役時間削減は、CO2観点でも大きな意味を持ちます。荷待ち時間削減の実務は別稿「荷待ち時間削減の進め方」で整理しています。
2-6. 需要予測・ルート最適化・在庫最適化
AI・機械学習を活用した需要予測、ルート最適化、在庫最適化は、過剰輸送・過剰在庫を減らし、物流全体のエネルギー効率を高めます。WMSやTMSの高度化、デジタルツインによるシミュレーション、共同物流プラットフォームでのリアルタイム最適化が、この領域の主要取り組みです。WMSについては別稿「WMS(倉庫管理システム)とは」で整理しています。
2-7. 再配達削減とラストマイル最適化
EC配送で発生する再配達は、追加のCO2排出源となります。宅配ロッカー、置き配、コンビニ受取、ラストマイル共同配送、配送時間指定の柔軟化、AI経路最適化など、複数の施策の組み合わせで再配達を減らすことができます。地域単位・建物単位の共同配送とも親和性が高い領域です。
2-8. 業種別に見る主要施策
業種ごとにCO2削減の主要施策の重みが異なります。加工食品・飲料業界では、大量配送における積載効率向上、業界横断の共同物流プラットフォーム、パレット標準化が中心。製造業では、ジャストインタイム生産との整合を取りながら、モーダルシフトと中継輸送による幹線輸送の再設計が効果的です。EC・小売業では、ラストマイル共同配送、宅配ロッカー、再配達削減、マイクロフルフィルメントセンター活用が焦点となります。医薬品・冷凍冷蔵業界では、温度管理の省エネ化、冷凍倉庫の高効率化、ハイブリッド配送車などが主要施策となります。自社業種の特性に応じた削減施策ポートフォリオを組むことが、効果とコストのバランスを取る鍵です。
3. CO2削減を前向きに進めるための5つの留意点
CO2削減は、コスト増の懸念から現場で後回しにされやすい領域です。前向きに進めるための5つの留意点を整理します。
3-1. CO2指標を他KPIと並列に管理する
荷待ち時間、積載率、コスト、納期遵守率といった既存KPIと並列に、CO2排出量・排出原単位を管理指標として組み込むことで、改善活動が自然にCO2削減につながります。CLOダッシュボードに排出KPIを統合する設計が推奨されます。
3-2. 排出算定の精度と運用のバランスを取る
Scope3排出の算定は、精密にやろうとすると膨大な作業になりますが、業界団体の標準係数や国際的なフレームワーク(GHGプロトコル、SBTi等)を活用することで、実務運用可能な精度で始められます。まずは概算で全社像を捉え、優先排出源から精緻化していくアプローチが現実的です。
3-3. 取引先との連携で排出を下げる
Scope3排出の削減には、取引先(運送事業者、倉庫運営者、取引先荷主)の協力が不可欠です。共通KPI、データ共有、定期的な対話、共同投資の枠組みを整えることで、個社単独では到達できない削減が可能になります。CLOが結節点として三者対話を主導することで、効果が跳ね上がります。
3-4. 経営層・株主・社員への可視化
CO2削減の進捗を、経営会議・IR資料・サステナビリティレポート・社員向け発信で継続的に可視化することが、取り組みの持続性を高めます。数字の改善だけでなく、削減ストーリーを語ることが、社内外のステークホルダーの共感を生みます。
3-5. 補助制度・税制優遇を活用する
モーダルシフト、EV車両、共同配送実証、省エネ設備などは、行政の補助制度や税制優遇の対象となることが多く、これらを活用することで初期投資の負担を軽減できます。CLO主導で行政・業界団体との対話を継続し、制度情報を社内に循環させる仕組みを作ることが推奨されます。
4. CO2削減のロードマップ
4-1. 最初の半年――現状把握と排出算定
自社物流のScope1・Scope2・Scope3排出を、概算でよいので把握します。Scope3は輸送量や燃料消費量から係数を使って推計するのが一般的です。ボトルネック排出源(長距離輸送、低積載運行、電力多消費拠点など)を特定し、優先削減領域を確定させます。
4-2. 半年〜1年――施策計画と目標設定
共同配送、モーダルシフト、EV導入、再エネ調達、倉庫省エネなど、優先施策を組み合わせた削減計画を策定します。短期(1〜3年)、中期(3〜5年)、長期(10年以上)のマイルストーンを設定し、経営計画と整合させます。SBTi認証、カーボンニュートラル宣言、TCFDへの対応など、外部の枠組みへの接続も検討対象となります。
4-3. 1〜3年目――実行と継続改善
パイロット拠点・特定区間で施策を実行し、効果を定量的に測定します。成功事例を横展開しながら、3年で組織全体に施策を定着させていきます。毎年のレビューサイクルで、排出実績、削減効果、投資ROIを更新し、次年度計画に反映します。
4-4. 中長期――社会インフラとしての物流への接続
個社取組の先に、業界横断の共同物流プラットフォーム、フィジカルインターネット、地域エコシステムへの接続があります。フィジカルインターネットの論点は別稿「フィジカルインターネットとは」で整理しています。2040年問題の時間軸では、個社最適を超えた共同設計がCO2削減の主役となります。
5. 産学連携で広がるCO2削減の可能性
物流のCO2削減は、研究領域と深く接続しています。排出算定・ライフサイクルアセスメント(LCA)には環境経済学・環境工学の研究が、ルート最適化・積載最適化には組合せ最適化・強化学習の研究が、需要予測には時系列解析・機械学習が、再生可能エネルギー統合にはスマートグリッド・エネルギーシステム研究が関わります。EV・水素・合成燃料の車両実装には、電気化学・材料工学・制御工学の研究が、倉庫省エネにはビルエネルギー工学・熱工学の研究が関係します。行動科学・組織論の研究成果は、取り組みの現場定着と取引先との合意形成を支えます。
当社は広域TLOとして700テーマを超える産学官連携実績を有しており、物流のCO2削減領域でも、大学・研究機関の研究シーズと現場課題の接続を継続的に進めています。先に紹介したホワイトペーパーや、Forbes記事で言及されている「倉庫DX推進AIの開発および参照データとナレッジベースの構築」は、CO2削減を含む物流戦略の意思決定を支える知識基盤を、産学連携で育てていく取り組みです。2040年問題を見据えた中期的な備えとして、研究シーズを評価・活用する回路を組み込むことは、競争力と社会的価値の両面で大きな差を生みます。関連視点は「なぜなに産学官連携」でも継続的に発信しています。
5-A. 国際動向と日本の位置づけ
物流のCO2削減は、国際的にも加速しています。欧州はCBAM(炭素国境調整メカニズム)、Fit for 55、サステナブルサプライチェーン指令などで、輸出入と物流の排出規制を強めています。米国はIRA(インフレ抑制法)でEV・再エネ投資を大規模に後押ししています。中国でも、2030年カーボンピーク・2060年カーボンニュートラル目標に沿って、EVトラック普及と全国物流デジタル化が進展しています。日本の物流CO2削減は、これらの国際潮流と整合しながら、2024年問題・CLO制度化という固有事情と組み合わせて進められる局面にあります。
5-B. CO2削減と倉庫DXの相乗効果
CO2削減と倉庫DXは、重なりが大きい領域です。WMS・TMSの高度化で無駄を減らし、AMRや自動倉庫で稼働最適化を進め、データ統合で可視化を行うことで、CO2削減とコスト削減・人手不足対応を同時に実現できます。倉庫DX投資の評価フレームにCO2指標を組み込むことで、投資判断の質が一段上がります。ROI評価フレームの実装手順は別稿「倉庫DX投資のROI評価フレーム」で整理しています。
5-C. CO2削減の成功パターン
物流のCO2削減で顕著な成果を出している企業に共通するパターンとして、次の要素が挙げられます。第一に、排出量の算定と可視化を組織的に定着させている。第二に、削減施策を複数の柱(共同配送、モーダルシフト、EV、省エネ、需要予測等)で同時並行に進めている。第三に、取引先(運送事業者、倉庫運営者、取引先荷主)との共通KPIで改善活動を進めている。第四に、経営層・IR・株主・取引先への可視化と対外発信を継続している。第五に、補助制度・業界団体施策・国際枠組み(SBTi等)と連動させている。これらの要素を総合的に組み合わせることが、CO2削減の社会的価値と競争力を両立させます。
6. CLO主導のCO2マネジメント
CLO制度化以降、CO2削減は現場部門の個別課題ではなく、CLO統括下の経営機能として扱われる方向です。物流戦略・投資判断・サプライチェーン再設計の中にCO2指標を組み込み、取締役会レベルでのレビューを制度化することで、取り組みの持続性と実効性が大きく高まります。CLOは、荷主企業・運送事業者・倉庫運営者・行政・研究機関をつなぐ結節点として、CO2削減を業界横断の共同設計に発展させていく役割を担います。
おわりに
物流のCO2削減は、2024年問題・2040年問題・CLO制度化・国際的な気候政策が重なる現在、もはや個別の環境施策ではなく、社会インフラとしての物流を維持するための経営戦略の中核です。効率化とCO2削減を分けて扱う発想から、両者を統合した取り組みとして進める発想への転換が求められます。倉庫DXナビでは、CO2削減を含む物流改善関連の制度・技術・事例・知見を、継続的に発信していきます。
よくある質問(FAQ)
Q1. Scope3排出はどこから算定を始めれば良いですか。
輸送距離、燃料消費量、委託運送金額、取引先の排出原単位といった入手しやすいデータから始めるのが現実的です。国際的なGHGプロトコル、業界団体の標準係数を活用し、まず概算で全体像を捉えることを優先します。精緻化は優先排出源から段階的に進めます。
Q2. 共同配送とモーダルシフトはどちらから着手すべきですか。
自社の物流構造によります。短距離・多頻度配送が多い荷主は共同配送から、長距離幹線輸送の比率が高い荷主はモーダルシフトから始めるのが一般的です。両者は排他的ではなく、同時並行で進めるのが理想です。
Q3. EV配送車の導入効果は見合いますか。
車両の航続距離、充電インフラ、稼働パターンによります。都市内短距離配送ではすでにROIが成立する事例が増えています。幹線長距離では水素や合成燃料との組み合わせが現実的な選択肢です。補助制度の活用と、段階的な車両入替計画が推奨されます。
Q4. 倉庫の再生可能エネルギー調達はどう進めますか。
屋根置き太陽光発電の自家消費、PPA(Power Purchase Agreement)による再エネ電力調達、グリーン電力証書の購入、自家発電設備の導入などが主要選択肢です。拠点規模、契約電力、事業計画、補助制度に応じて組み合わせを設計します。
Q5. 中小荷主もCO2削減に取り組むべきですか。
はい、取り組み価値があります。取引先の大手荷主や業界団体がScope3削減を進める中で、取引継続・強化のための条件として中小荷主にも対応が求められる場面が増えています。クラウド型SaaSやバース予約、パレット荷役など、低コストから始められる施策が多数あります。
Q6. CO2削減とコスト削減は両立しますか。
多くの施策では両立します。積載効率向上、荷待ち時間削減、モーダルシフト、再配達削減は、コストとCO2の両方を同時に下げる効果を持ちます。EV・水素などは短期コスト増を伴う場合もありますが、燃料費変動リスクの低減や補助活用でTCOで見れば競争力を持つケースもあります。
Q7. SBTiやCDPへの対応は必要ですか。
取引先や投資家からの要請、事業戦略上のブランディング観点で検討価値があります。SBTi認証は国際的な科学的根拠に基づく削減目標のフレームワーク、CDPはサプライチェーン情報開示の国際プラットフォームです。CLO主導で、経営戦略・IR戦略と整合させながら判断することが推奨されます。
本記事は、広域TLO(技術移転機関)として大学・研究機関と産業界を700テーマ超の共同研究で結んできた株式会社キャンパスクリエイトが運営する「倉庫DXナビ」編集部が、複数の物流DX企業・倉庫運営者・荷主企業への取材、ホワイトペーパー制作、Forbes JAPAN BrandVoice記事発信を通じて整理した論考です。編集方針・ファクトチェックポリシー・取材依頼は倉庫DXナビ 編集方針をご参照ください。
最終更新日:2026年4月21日
主要出典
- 倉庫DXオープンイノベーション推進プロジェクト ホワイトペーパー
- Forbes JAPAN BrandVoice「CLO(物流統括管理者)が牽引する倉庫DX」
- GHGプロトコル Corporate Value Chain (Scope 3) Accounting and Reporting Standard
- 環境省「サプライチェーンを通じた組織の温室効果ガス排出等の算定に関する基本ガイドライン」
