フランスのスタートアップエコシステム「フレンチテック」で拓く、日本スタートアップの欧州進出
公開日
- ヒアリング先
- 株式会社NARAFRANCE代表取締役 林 薫子 氏
株式会社NARAFRANCEは、日仏通訳・翻訳、ビジネスサポートを手掛ける企業です。代表の林氏は、明治大学経営学部卒業後、同大学院経営学修士を取得(1996年)。フランス・ニース大学でDESSマーケティング(2001年)およびDEA経営学(2002年)を修了し、2003年から2020年までの17年間、在日フランス大使館貿易投資庁(ビジネスフランス)に上席貿易担当官として勤務し、フランス企業・製品の日本進出支援およびフレンチテックの広報を担当してきた、フランスのスタートアップ政策・エコシステムの第一人者です。
2024年4月には書籍『フレンチテック。伝統からイノベーションへ。変化するフランスとスタートアップ』(一般社団法人金融財政事情研究会)を出版し、現在は日本のスタートアップのフランス市場進出アドバイザーとしても活動されています。本記事では、林氏の知見を基に、日本のスタートアップにとってのフランス市場の魅力、進出時のポイント・留意点、そしてNARAFRANCEが提供する伴走支援サービスについてご紹介します。
1.スタートアップにとってのフランス市場の魅力
フランスの国家戦略「フレンチテック」
フランスは2013年から、国を挙げたスタートアップ支援策「フレンチテック(La French Tech)」を推進しています。フランス経済への危機感、そして若年層の労働意欲を高めることを背景に始まったこの取り組みは、単なる国内支援策にとどまらず、世界のスタートアップをフランスに集めて協業し、グローバルな社会課題を解決するという壮大な目的を掲げてきました。
その成果として、現在、フランス発スタートアップは約18,000社にのぼり、2025年時点でユニコーン企業は29社。2030年までに100社のユニコーン輩出を目指しています。フレンチテックのエコシステムは、サステナビリティ、経済安全保障、人権といったフランスが重視する価値観を共有するスタートアップとの協業を軸に、国際的な広がりを持った成長プラットフォームへと進化しています。
多様な重点分野と「France2030」
フレンチテックの重点分野は、HealthTech(BioTech/MedTech/e-santé)、CleanTech、Mobility、Retail、IoT/Manufacturing、FoodTech、FinTech、Sports、Security/Privacy、EdTech/Entertainment など、極めて多様です。ひとつの産業に偏らない幅の広さが、スタートアップにとっての参入機会を広げています。
現在はさらに国家戦略「France2030」の下で、2030年に向けた最重要テーマに関わるスタートアップへの支援が強化されています。具体的には次のような領域です。
- 原子力の平和利用(核融合エネルギー)
- 水素エネルギー
- 産業の脱炭素化(自然素材の活用)
- 電気自動車
- バイオ医薬品
- サステナブルな食品(発酵食品を含む)
- コンテンツ・クリエイティブ産業
- 宇宙探査・海底資源
推進役は大企業──LVMHに象徴されるオープンイノベーション
フレンチテックを動かしているのは、産官学はもちろんのこと、とりわけ大企業の積極的な関与です。例えばLVMHが主催する「LVMH Innovation Award」では、Omnichannel & Retail/Image & Media for Brand Desirability/Immersive Digital Experiences/Operations Excellence/Employee Experience, Diversity & Inclusion/Sustainability & Greentech という6つの課題を掲げ、世界中のスタートアップと協業を進めています。
選ばれたスタートアップには賞金はありませんが、LVMH傘下の各メゾン(ブランド)との協業可能性、そしてStationF内の「Maison des Startups LVMH」での活動拠点が提供され、すでに世界から150のスタートアップが参加、285のプロジェクトが進行中です。また、2016年から毎年6月にパリで開催される「VIVATECHNOLOGY」は、大企業とスタートアップのオープンイノベーションのショーケースとして世界最大級の規模を誇り、グローバルなマッチングの場となっています。
日本スタートアップにも広がるチャンス
2024年のLVMH Innovation Awardでは、世界1,545社の応募から選ばれたファイナリスト18社の中に、日本から株式会社ヘラルボニーと株式会社ジカンテクノの2社が選出されました。ヘラルボニー社はファイナルステージで「ダイバーシティ&インクルージョン部門賞」を受賞しています。ダイバーシティ、サステナビリティ、伝統と技術の融合といった日本のスタートアップが得意とするテーマは、フランス大企業から高く評価される傾向にあります。
フランス市場が持つ5つの魅力
- フレンチテックによる「スタートアップ推し」の環境(大企業との協業可能性、行政機関からの支援)
- 「France2030」に代表される多様かつ先進的なテーマ
- 産官学の協業スタイルが日本に近く、連携を組み立てやすい
- フランスから欧州市場、さらにフランス語圏を通じたアフリカ市場へのアクセスが可能
- 環境配慮、伝統・文化へのリスペクトなど、日仏で共有される価値観
2.フランス進出におけるポイント、留意点
① 支援機関を徹底的に活用する
フランスのスタートアップエコシステムは、日本国内からでも十分にアクセスできます。ビジネスフランス(在日フランス大使館内、フランス版のJETROに相当)、在日フランス商工会議所(CCI FRANCE JAPON)、French Tech Tokyoなど、フランスのスタートアップエコシステムの出先機関が日本に存在するため、まずはこれらの機関を通じて情報収集を行い、初期のネットワークを構築するのが効率的です。
② フランスのスタートアップ展示会への参加
毎年6月にパリで開催されるVIVATECHNOLOGYや、ディープテック領域の国際展示会Hello Tomorrow(2026年はアムステルダムで開催)に参加し、各種チャレンジ(コンテスト)に応募することが、フランスでの認知獲得・マッチングの近道となります。出展に際しては、JETROや東京都をはじめとする日本の行政機関の出展支援制度を活用することで、コストとリスクを抑えた挑戦が可能です。
③ 「フランス」の進出エリア:パリ/地方都市
フランスは、代表的な都市であるパリはもちろんのこと、フランスの各地方に、地域固有の強い産業・ビジネスが存在します。例えば、第2の都市リヨンはバイオテクノロジーやテキスタイル、第3の都市マルセイユはエネルギー関連に強みを持ちます。フランスの地方都市では、海外スタートアップへの手厚い支援(地元インキュベーション施設の無償利用など)を用意しているケースも多く、事業領域とのマッチングによっては地方が最適な進出拠点となる可能性があります。
④ フランスでは「理屈(哲学)」が決定的に重要
フランスでのプレゼンテーションやミーティングでは、そのスタートアップの技術・ビジネスが「どのような社会課題を解決できるのか」「なぜ起業したのか」「起業家自身の信念は何か」といった問いに、明確に答えることが求められます。売上・数字・効率だけを語るプレゼンテーションでは、フランスのパートナー候補や投資家の心には響きません。ミッションとパーパスを言語化し、社会課題解決のストーリーとして伝えられるかどうかが、商談を前に進める鍵となります。
⑤ コミュニケーションは英語で問題ない
フレンチテックのエコシステムでは英語でのコミュニケーションが十分に通用します。フランス語が堪能でなくとも、英語で質の高い対話ができる体制さえ整えれば、フランス進出は現実的な選択肢となります。
3.NARAFRANCEのフランス進出支援サービス
オーダーメイドの伴走支援
NARAFRANCEが提供するのは、日本のスタートアップ一社一社のフェーズ・目的・事業領域に合わせた、オーダーメイドの伴走支援です。フレンチテックの専門家として、在日フランス大使館ビジネスフランスで17年間にわたりフランス企業・製品の日本進出を支援してきた林氏が、長期的な視点でフランス進出を伴走します。
具体例:ディープテック系スタートアップ支援
天然素材開発のディープテック系スタートアップ(これまでアジア・北米進出の経験はあるがフランス未経験)に対し、継続的に以下の伴走支援を実施しています。
- 在日フランス大使館ビジネスフランスや在日フランス企業への紹介
- フランスでの展示会出展時の現地サポート
- フランス出張時の遠隔サポート(都市の特徴説明・地方自治体の組織説明など)
- フランス向けプレゼンテーション資料のブラッシュアップ
- フランス側担当者とのオンライン面談通訳
その他対応可能な支援
スタートアップのニーズに応じて、フランス市場説明・ニーズ調査、潜在的パートナー探索、現地調査のアテンド、現地通訳の手配なども柔軟に対応可能です。通訳・翻訳はもちろん、講演・セミナー企画、日仏スタートアップと大企業のビジネスマッチングなど、フレンチテックの専門家ならではのサポートを、スポット/継続のいずれのニーズにも合わせて設計します。
参考: https://narafrance.com/
コメント
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本Webサイトの運営担当者です。2005年から、産学官連携や産業振興の業務に携わっています。
コメント
フランスのスタートアップ振興策、とりわけオープンイノベーション振興の考え方については、林様のご説明を伺って驚くことが多くありました。なかでも印象的だったのは、フランスではシード期のスタートアップに対しても、事業会社がきわめて前向きに連携を模索しているという点です。日本では、事業会社がスタートアップと協業を検討する際、一定の売上実績やプロダクトの成熟度を求める傾向が強いのが実情ですが、フランスでは、アイデアやミッションの段階から一緒に社会課題の解を探りに行く、という姿勢が根付いているように感じました。
もう一つ示唆に富むのは、フランスでスタートアップが事業会社に提案する際、「その技術・事業がどのような社会課題を解決するのか」「なぜ起業したのか」「起業家の信念は何か」といった点が重要視されるという話でした。売上・数字・効率といった文脈だけではフランスでは響かない一方、社会課題解決のストーリーとパーパスを言語化できれば、シード期からでも大企業との対話の扉が開かれる。こうした日本との違いに留意さえすれば、むしろ日本のスタートアップがフランス進出を検討する狙いが、よりクリアに見えてくるのではないかと強く感じました。
市場としてのフランスも、改めて魅力的です。欧州内で一定の市場規模を有しており、単一国の市場としてしっかり勝負ができる一方で、フランスで成果を上げることは、そのまま欧州市場全体、さらにはフランス語圏を通じたアフリカ市場への展開の足掛かりにもなります。すなわち、フランスは「ヨーロッパ進出のゲートウェイ」として位置づけることができます。加えて、ラグジュアリー、ヘルスケア、クリーンテック、モビリティ、フードテック、コンテンツ、宇宙・海底資源に至るまで、フレンチテックの重点分野は非常に幅広く、領域を問わずビジネスチャンスが広がっている点も大きな魅力です。
欧州進出というと、ドイツのモノづくり(製造業)との結び付きで検討されがちですが、ドイツが強いのは製造業など特徴的な分野です。それ以外の幅広い領域でヨーロッパ市場を狙うスタートアップにとって、フランスは極めて妥当かつ戦略的な進出検討先になり得ます。サステナビリティ、ダイバーシティ、ディープテック、ライフスタイル、クリエイティブ産業など、日本のスタートアップが強みを発揮できるテーマは、フランスの事業会社・エコシステムがまさに今求めているものと大きく重なっています。
ぜひ本記事を通じて、フランスという国の独特の考え方・文化、そしてスタートアップにとっての事業展開可能性を感じ取っていただき、欧州進出の選択肢にフランスを加えるきっかけとしていただければ幸いです。NARAFRANCE 林様の深い知見と現地ネットワークは、フランスを初めて本格的に検討する日本のスタートアップにとって、心強い伴走者となるはずです。このコメントと投稿者はデジタル証明書(VC)によって真正性が保証されています。
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それらがシステム上で検証された後に記事にコメントとして表示されています。VCとは
VC(Verifiable Credential)は、デジタル空間で「改ざんが検知可能」かつ「即座に検証可能」な証明書です。
紙の証明書やPDFと異なり、暗号技術により真正性が数学的に保証されており、W3Cにより制定された国際標準規格です。






須藤 慎
記事作成者
株式会社キャンパスクリエイト・専務取締役・プロデューサー