帯域が狭くても、現場は止まらない——ジザイエが実現する遠隔操作の新時代 ~建設・製造・危険環境における業務遠隔化と「現場OS」の可能性~
基盤技術・サービス
- 関連分野・業種
- 製造、物流・倉庫、建設・インフラ、農業・一次産業、公共
公開日 更新日
- ヒアリング先
- 株式会社ジザイエ代表取締役CEO 中川 純希 氏
「現場の通信環境は、こちらの都合では変えられない。ならば映像の届け方を変えればいい」株式会社ジザイエは、独自の超高速映像圧縮伝送技術によって、あらゆる現場を「遠隔で安全に操作できる場所」に変えようとしています。フィジカルAIが現場に進出する時代に、その根幹インフラとして何が必要なのか、中川純希CEOに聞きました。
1.業務遠隔化のニーズが高まっている背景——人手不足と危険環境が変える「働く場所」の常識
建設・製造・インフラ・港湾——日本の基幹産業において、人手不足は深刻な構造問題になっています。建設業では就業者の高齢化と担い手不足が進み、製造業でも熟練技術者の後継者不足が急加速しています。建設現場の重機操作・高所作業、プラントの点検・保守、採掘・災害対応など、そもそも人が立ち入ること自体が危険なシーンが無数に存在します。こうした課題への答えとして「遠隔臨場」「遠隔操作」「遠隔就労」への注目が高まっていますが、実用化の壁となってきたのが「通信の限界」です。
ジザイエの出発点は、東京大学・稲見研究室にあります。同研究室は「第3・第4の腕」や「6本目の指」に代表される人間拡張研究で知られますが、その裏側では、遠隔操作ロボットを支える基盤技術の研究も数多く行われてきました。中川氏が着目したのは、建設機械やロボットの「目」となるカメラ映像を、いかに低遅延・高画質で遠隔地に届けるかという要素技術です。「人間拡張や遠隔操作ロボットのビジョンを実現するうえで、映像を確実に届ける基盤技術がまだまだ世の中に足りていない。ならば、まずそこから社会実装していこうというのが創業の原点です」と中川氏は語ります。フィジカルAIの進展は、この「映像」の重要性をさらに高めています。ロボットや自律機械にAIを搭載し、現場で判断・作業させようとするとき、映像品質はAIの認識・判断精度に直結します。低解像度の映像ではAIが物体を正しく認識できず、高解像度を維持しようとすると帯域が足りないことが、フィジカルAI×遠隔操作の実装を阻む主要な技術的ボトルネックの一つとなっています。
2.映像・操作・制御を統合した「現場OS」——遠隔業務の基盤インフラとは何か
▲ JIZAIE Core Technology:超高速映像圧縮伝送で「低遅延・高画質・途切れない」を実現
ジザイエの核心技術は「超高速映像圧縮伝送」です。現場の機械やロボットに搭載したエッジコンピュータ上で映像を高速に圧縮し、伝送します。一般的なカメラが高品質映像の伝送に15Mbps前後の帯域を必要とするのに対し、ジザイエの技術は同等の画質を1Mbps:最大95%の帯域削減で実現します。山間部・へき地、工場・プラント内部、光回線の敷設が困難な現場でも、低遅延・高画質・途切れない映像を安定して届けることができます。
この技術は現場での実運用を通じて磨かれてきました。創業当初からコベルコ建機と建設機械の遠隔操作システムに関する共同研究を重ね、搭載要件に見合うかどうかの細かな評価を積み上げてきたといいます。「開発で徹底したのは、操作する人に違和感を与えないことと、通信環境の悪い現場でも安定稼働することです。遠隔操作中に映像が止まる・遅れるというのは、操作者にとって重大な危険を意味します。現場の通信環境はこちらの都合では変えられない。だから映像の届け方を変えるしかないんです」(中川氏)
圧縮技術はクラウドAIとの相性も抜群です。映像データが軽くなることでアップロードにかかる時間と必要な通信要件を抑え、映像取得からクラウドAIの推論結果を返すまでのエンドツーエンドの遅延低減に寄与します。さらに、狭帯域でも高解像度を維持しやすくなるため、AI検知に必要な映像品質の確保にも寄与します。中川氏は通信の進化との関係をこう説明します。「ポスト5Gの研究開発プロジェクトにも参画していますが、通信自体が高速化しても、障害物の多い実際の現場で「大容量」と「低遅延」を両立させるのは簡単ではありません。データ量そのものを減らす我々の圧縮技術は、進化する通信と組み合わせることでさらに価値を発揮します」
この圧縮技術を基盤に、ジザイエは「現場OS」というコンセプトを提唱しています。現場OSとは、遠隔監視から遠隔臨場・遠隔操作・遠隔就労まで、現場の遠隔化に必要な機能を統合したプラットフォームです。「現場をデジタル化するとき、映像を見るだけでは不十分です。映像を見て、機械を操作し、AIで状態を判断し、現場の作業を支援する——これらがシームレスに連携して初めて、遠隔で現場を「動かせる」ようになります。現場OSはその統合基盤です」(中川氏)
3.業務遠隔化を支えるジザイエのサービス群
▲ 現場OS アーキテクチャ:JIZAINEE(遠隔就労マッチングサービス)、JIZAIPAD(映像配信)、JizaiEyes/JizaiHands(ハードウェア)
ジザイエの提供形態は大きく2つのパターンがあります。1つは、建機メーカーやロボットメーカーの既存システムに、映像圧縮伝送技術をファームウェア/アプリケーションレベルで組み込んでもらうパターン。もう1つは、現場に設置するカメラからアプリケーションまでをワンストップで提供するパターンです。どちらの形でも導入できる柔軟性が、ジザイエの技術の大きな特徴です。
ワンストップ提供の中核となるのが、「JIZAIPAD」(配信映像GUIプラットフォーム)です。JIZAIPADは複数カメラの映像を一画面で管理し、操作者が現場の全体像を把握しながら遠隔操作できる環境を整えます。ハードウェアでは「JizaiEyes」(屋外対応の固定設置型ネットワークカメラ)と「JizaiHands」(ウェアラブルクラウドカメラ)を提供し、設置型による常時監視から、作業者視点のリアルタイム配信までをカバーします。
もう一つの強みが、現場ごとのカスタマイズ性です。「一口に建機の遠隔操作といっても、メーカーによって搭載要件が微妙に異なりますし、同じジブクレーンでも造成に使うのか港湾に使うのかで求められる要件が違います。最適化すべき要素が非常に多い領域なんです。汎用的に提供する部分とカスタマイズで柔軟性を持たせる部分を切り分けて、カメラの選定を含めて現場に最適な構成を提案できるのが我々のシステムの特徴です」(中川氏)こうした積み重ねの結果、建設機械の遠隔操作における映像伝送では6〜7割のシェア(同社調べ)を持つに至っています。
パートナーシップも広がっています。竹中工務店のタワークレーン遠隔操作システム「TawaRemo®」への採用、アクティオとのバックホー遠隔操作システムの共同開発とレンタル網を通じた展開、シンガポールのH3 Zoom.aiが持つ傷・汚れ検知AIと組み合わせた建物点検、ArchiTwinとのデジタルツイン連携など、映像を入口とした多様なサービスがコア技術の上に築かれています。NEDO「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業/ロボティクス分野におけるソフトウェア開発基盤構築」への採択(2025年7月)や第10回「JEITAベンチャー賞」受賞(2025年2月)など外部評価も高まっており、2025年のシリーズAラウンドでの総額約6億円の調達に続き、2026年には戦略的資金調達ラウンドで総額約4億円を調達するなど、これまでに累計11億円以上の資金調達を実施しています。
4.建設から製造・ロボットへ——ジザイエの技術が現場を変える事例と展望
▲ 独自技術と活用シーン:山間部・工場・特殊環境でも安定した高品質映像伝送を実現
建設は、ジザイエの強みが最も生きる領域です。「建設は重機を使い、安全管理も厳しい業界です。遠隔臨場・遠隔点検と遠隔操作という我々の2つの強みが、ちょうどいいバランスで活きる領域なんです」と中川氏は語ります。地下掘削現場、構造物に囲まれた工事エリア、山間部の道路工事、いずれも電波環境が不安定で従来技術では遠隔操作が困難だった現場に、条件によっては1Mbps程度の帯域でも高品質映像を届けられるジザイエの技術が導入されています。さらに最近では、造船・鋳造・製鉄といった製造業の現場でも、ジブクレーン・天井クレーン・ホイストクレーンなどの遠隔操作案件に関する相談や問い合わせが増えているといいます。
通信インフラ面でも現場への最適化が徹底されています。Starlinkの活用や、携帯キャリア3回線をボンディング(束ねて冗長化)する構成に対応しています。また、制御信号を扱う建機・ロボットの遠隔操作ではセキュリティが担保された通信が必須となるため、VPNによるセキュア通信を標準でサポートしています。海外からの引き合いも増えており、この1年で韓国・シンガポールのタワークレーンや、南米の港湾クレーンなど、遠隔操作に関する相談・検討が広がっています。
▲ 超高速映像圧縮伝送技術:一般カメラ15Mbps → JIZAIE 1Mbpsで同等画質、最大95%帯域削減
解像度とAI検知精度の関係も重要なポイントです。解像度はAI検知精度を左右する重要な要素の一つです。高解像度の映像を安定して届けることで、人・機械・危険物などをAIが認識するために必要な映像情報を確保しやすくなります。ジザイエの技術は、狭帯域でもFHD等の高解像度映像を届けることで、現場でのAI活用を支援します。
そして今、ジザイエはロボティクスへの展開を加速させています。「ヒューマノイド以外のロボットにはすでに着手済みです。ロボットには簡単な頭脳は載っているのですが、現場で必要とされる、例えば遠隔から建物内のメーターを読んだり壁面の傷を確認したりできるレベルのカメラ・映像は不十分なことが多い。そこを我々が提供するイメージです」(中川氏)
ジザイエのモジュールはUSB等のインターフェースでロボットに接続でき、ズーム機能付きカメラ構成など用途に応じた最適化を提案します。さらに、従来は映像伝送用と自律走行用に2台必要だったエッジコンピュータを1台に統合する開発も進行中です。「自律走行技術はLLMやオープンソースの発展で差別化が難しくなりつつありますが、低遅延映像伝送はオープンソース化しづらい領域で、優位性を保ち続けられます。1台のエッジコンピュータで伝送も自律走行もできる構成は、ロボットメーカーからのニーズも大きい」と中川氏は展望します。
▲ 解像度とAI検知精度の関係:FHD・4Kで検知精度95%以上——高品質映像がAI性能を決める
「自律型ロボットが現場を動き回る時代が来たとき、人間のオペレーターは複数の機械を統括的に管理します。そのときに必要なのは、どこにいてもどんな通信環境でも、現場の映像を確実に届け続けられるインフラです。ジザイエの現場OSは、フィジカルAIが現場で当たり前になる時代の根幹インフラとなることを目指しています」(中川氏)
株式会社ジザイエ:https://jizaie.co.jp/
コメント
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本Webサイトの運営担当者です。2005年から、産学官連携や産業振興の業務に携わっています。
コメント
お話を聞き、フィジカルAI時代の遠隔操作・遠隔就労を支える根幹インフラとして、ジザイエ様の技術・サービスが持つ意義の大きさを実感しました。
特に印象的だったのは、「現場の通信環境は変えられないから、映像の届け方を変える」という発想です。一般的なカメラが必要とする15Mbpsの帯域を1Mbpsと、最大95%削減しながら高品質映像を維持する。しかもこの技術は、コベルコ建機との共同研究をはじめとする現場での細かな要件評価を積み重ねて磨かれたもので、建設機械の遠隔操作における映像伝送では6〜7割のシェアを持つに至っています。研究の概念を引き継ぎながら実装をゼロから作り直し、「操作者に違和感を与えない」「悪環境でも止まらない」という現場の本質的要件に応え続けてきた技術・チームであることが、お話の端々から伝わってきました。
展開力にも目を見張るものがあります。竹中工務店のタワークレーン遠隔操作やアクティオとのバックホー遠隔操作にとどまらず、鋳造・製鉄など製造業のクレーン遠隔操作、さらにはロボットへのモジュール搭載、映像伝送と自律走行を1台のエッジコンピュータに統合する構想まで、コア技術を軸に適用領域が着実に広がっています。Starlinkやキャリアボンディングによる通信冗長化、VPNによるセキュア通信など、現場実装のリアリティに裏打ちされた設計思想も、同社の大きな強みです。
フィジカルAI時代において、ロボット・自律機械が現場に出ていくとき、人間は複数の機械を遠隔から統括管理する役割を担います。そのとき、通信環境を問わず確実に映像を届け、安全な操作を保証するインフラは、社会インフラと同等の重要性を持つはずです。ジザイエ様が目指す「現場OS」は、あらゆる産業の遠隔化を支える共通基盤です。建設・製造から海外展開まで視野に入れるジザイエ様の構想と実行力を、フィジカルAI時代の根幹インフラを担う技術として強く推薦します。このコメントと投稿者はデジタル証明書(VC)によって真正性が保証されています。
このコメントと投稿者情報は、「改竄されていないか」や「正当な投稿者か」などを暗号学的に検証できる〈Verifiable Credential(VC)〉によって保証されています。
それらがシステム上で検証された後に記事にコメントとして表示されています。VCとは
VC(Verifiable Credential)は、デジタル空間で「改ざんが検知可能」かつ「即座に検証可能」な証明書です。
紙の証明書やPDFと異なり、暗号技術により真正性が数学的に保証されており、W3Cにより制定された国際標準規格です。









須藤 慎
記事作成者
株式会社キャンパスクリエイト・専務取締役・プロデューサー