触覚センサー「uSkin」がロボットに人の指先を与える ― XELA Roboticsが拓く触覚オートメーションの世界
基盤技術・サービス
- 関連分野・業種
- 製造、物流・倉庫
公開日
- ヒアリング先
- XELA Robotics株式会社CEO アレクサンダー・シュミッツ(博士)
XELA Robotics株式会社が開発する触覚センサー「uSkin(ユースキン)」は、磁気式センシング技術により、ロボットハンドやグリッパーに人の指先のような繊細な触覚を与える高密度・高感度センサーです。1つのセンシングポイントで力の3軸(X・Y・Z)を同時計測でき、0.1グラム重の分解能で微細な接触や滑りを検知できます。従来のロボットハンドが不得意としてきた薄いもの・柔らかいもの・繊細な物体の把持、工場のワイヤーハーネス挿入や倉庫のピッキング作業などにおいて、人の触覚に近い判断をロボットに可能にする、フィジカルAI時代の中核テクノロジーです。
1.多くのロボットハンドが抱える技術的課題 ― “器用に掴む”ことの難しさ
ロボットは工場・倉庫・農業などさまざまな産業で活躍し始めていますが、実際には「人間のように器用にモノを掴む」ことができるロボットは、まだ非常に限られているのが現状です。少子高齢化に伴う労働力不足と人件費の上昇に対応するため、多くの企業が工場・倉庫・農業分野の完全自動化を目指しています。しかし現実には、ロボットはまだ多くの作業を人間のように柔軟にこなすことができず、「掴む・持つ・扱う」というシンプルに見える工程が最大の壁となっています。
XELA Roboticsが指摘するように、この「Grasping Anything Like Humans(人間のようにあらゆるものを掴む)」という課題は、ロボティクスにおいて最も難しい問題のひとつとされてきました。
具体的に、既存のロボットハンドが抱える技術的課題としては、次のような点が挙げられます。
- 耐久性の課題:長時間・多回数の把持動作に耐える堅牢さを維持しつつ、繊細な触覚センシングも両立させることが難しい
- 薄いもの・柔らかいものの把持が困難:折り紙のような薄い紙片、柔らかい食品、繊細な電子部品など、力加減を誤ればすぐに変形・破損してしまう物体を安定して扱えない
- 倉庫ピッキング作業の限界:形状や姿勢がバラバラな未知の物体を、視覚情報だけで安定的に掴むことが難しい
- 工場の組立工程における細やかな作業:ワイヤーハーネスの挿入、電子部品の差し込みなど、力加減と位置微調整が要求される作業は、依然として人手に頼らざるを得ない
多くの企業は視覚データ(カメラ映像)とスマートAIで自動化を進めていますが、「モノを見つける」ためには視覚データで十分でも、「モノを掴む・保持する・操作する」ためには視覚情報だけでは不十分だという事実が、近年ますます明確になってきています。この「Missing Piece(欠けているピース)」を埋めるのが、触覚データ(Tactile Data)なのです。
2.uSkinのコンセプト・技術原理 ― ロボットに“人の触覚”を与える
XELA Roboticsは2018年に早稲田大学発のスタートアップとして創業し、東京に本社を、オーストリアに支社を構え、世界170社以上の顧客にサービスを提供しています。同社が開発する触覚センサー「uSkin」のコンセプトは明快で、「ロボットに人間の触覚(Human Sense of Touch)を与える」というものです。
◆ 磁気式センシングという選択
uSkinは磁気式(Magnetic Sensing)の触覚センサーです。センサーは大きく3層構造で構成されており、表面の外殻(Outer Shell)が滑らかな接触面を作りセンサーを保護し、その内側の柔らかいエラストマー層が接触物体に沿って変形しながら耐荷重性を提供、最深部には3次元変位を測定するチップ(Chip)が配置されています。物体がuSkinに触れると、エラストマー内の磁石が微小に変位し、その変位を磁気センサーが読み取ることで、接触の3次元的な力を高精度に計測できる仕組みです。
◆ なぜ磁気式なのか
触覚センサーには圧力センサー方式、カメラベース方式、力覚センサー(Force/Torque Sensor)方式など複数の方式が存在しますが、XELA Roboticsが磁気式を選択している理由は、他方式に対して以下の優位性を持つためです。
- 高密度・小型化が可能で、限られたスペースに多くのセンシングポイントを配置しやすい
- 1つのセンシングポイントで3軸(X・Y・Z)の力を同時計測でき、シンプルな構造で3次元的な力の分布を把握できる
- 応答が高速で、分解能・感度が高い
- 各センシングポイントがデジタル出力を行うため、多数の点情報を数本のケーブルだけで収集・伝送でき、配線とシステム設計を大幅に簡素化できる
磁気式は一般的に外部磁場や温度変化の影響を受けやすいという弱点があります。この点についてXELAは、独自の温度センサー内蔵と磁気補正アルゴリズム(特許技術)により、-20〜+80℃の温度環境変動と外部磁場の干渉を補正する仕組みを組み込んでおり、産業用途に耐え得る堅牢性を実現しています。
3.uSkinの強み・他方式との違い ― 高密度・高感度・簡素な設計
uSkinの主要な強みは、「高密度」「高感度」「3軸同時計測」「配線の簡素さ」の4点に集約されます。
◆ 高密度なセンシングポイント配置
1つのセンシングポイントは約4×4mmという極めてコンパクトなサイズで、厚さも4mmから利用可能です。センサーモジュールは平面だけでなく曲面にも対応できるため、人間の指先のような曲面や、手のひら・指の側面といった箇所にも自在に配置できます。実際、統合事例では1つのロボットハンド(Allegro Handなど)に368ものセンシングポイントを配置しつつ、必要なケーブルは1〜2本というシンプルな配線を実現しています。
◆ 3軸同時計測 ― 押す力だけでなく“ずれ”も検知
各センシングポイントは、表面に対して垂直な方向の力(Z軸:法線力)だけでなく、表面に沿った方向の力(X・Y軸:せん断力)も同時に計測できます。このせん断力の計測が極めて重要で、以下のような判断がロボットに可能になります。
- 把持している物体の重量を測定する(重力方向のせん断力から)
- 物体の“滑り”の始まり(Onset of Slip)を検知し、把持力を即座に調整する
- 接触面積・重心分布から物体の形状を推定する
◆ 高感度 ― 0.1グラム重の分解能
uSkinの分解能は0.1グラム重(約1mN)と、極めて微小な接触力まで検知可能です。柔らかいスキンセンサーながらヒステリシス(履歴誤差)が極めて低く、産業用途に求められる再現性の高さも兼ね備えています。感度・レンジは顧客ニーズに合わせてカスタマイズ可能です。
◆ 堅牢性と交換性
1点あたり最大1,500グラム重までの法線力を測定でき、柔軟性の高さから最大3,000グラム重までのオーバーロードにも耐える設計となっています。外側のセンサースリーブは、損傷時にセンサー全体を交換することなくスリーブのみ交換できる構造で、長期運用時のコスト効率にも優れています。
◆ 他方式との比較
同社の比較資料によれば、既存の代表的な触覚センシング方式との違いは次のように整理されます。
- 力覚センサー(Force/Torque Sensor)方式:小型化・分散配置・3D計測の点でuSkinが優位
- 他社の磁気式センサー:コンパクトさ・堅牢性・容易な統合性の点でuSkinが優位
- カメラベースの触覚センサー:コンパクトさ・堅牢性・容易な統合性・コスト効率の点でuSkinが優位
uSkinは、コンパクトさ・堅牢性・容易な統合性・分散配置・3D計測・コスト効率の6項目のバランスに優れた触覚センシング方式と位置付けられています。
4.ロボットハンド・グリッパーへのuSkin実装時の用途
uSkinを実装したロボットハンドやグリッパーは、これまで人手に頼らざるを得なかった多様な作業を自動化する可能性を拓きます。代表的な用途を、産業別にご紹介します。
◆ 工場:挿入作業(Insertion Tasks)
視覚センサーだけでは、わずかな位置ズレが挿入時の破損につながります。ケーブルをコネクタに挿す作業、メモリをマザーボードに挿入する作業、電気自動車の充電プラグを差し込む作業など、人間は触覚で「正しい位置に収まっているか」を感知し、必要に応じて位置を調整しています。uSkinを搭載したロボットハンドは、掴んだ対象物の姿勢を把握し、挿入時の力を測定し、位置ズレを検知して微調整することができます。同社の分析によれば、この市場規模は年成長率9%で拡大しており、2025年時点で約2,300億ドルとされる大きな市場です。
具体的なユースケースとしては、ワイヤーハーネス挿入作業や、電子部品組立工程でガイドや傾斜のある差し込み口に力加減しながら組み立てる作業などが挙げられます。
◆ 倉庫:ピック&プレース作業
倉庫ピッキングにおいて、ランダムな向きで置かれた未知の物体を掴む作業は、依然として人手が中心です。従来のロボットハンドはグリッパー内部を「見る」ことができないため、コンテナから何個のネジを掴んだのか判定できないといった問題が生じます。uSkinとuAiソフトウェアの組み合わせにより、以下が可能になります。
- 重量・硬度・質感といった視覚情報以外のパラメータに基づき把持力を制御
- 接触面積と重心分布に基づき、把持位置と“落下しやすさ”を予測
- 滑りを検知し、把持力をリアルタイムに調整
同社の分析によれば、この分野は年成長率31%と極めて高い成長を示しており、2025年時点で約200億ドルの市場規模が見込まれています。
◆ 農業:果実の収穫
農業現場は極めて非構造的で不均一な環境です。照明条件は刻々と変化し、果実は一つひとつ形も色も異なります。視覚で果実の位置を特定した上で、uSkinとuAiにより「果実を傷つけずに収穫する」「重量と熟度に応じて選別する」といった、繊細な扱いが必要な作業が可能になります。市場規模は年成長率33%で、2025年時点で約180億ドルと同社は分析しています。
◆ その他の応用例
上記に加えて、電子部品組立、自動車製造現場の組立工程、家庭用ヒューマノイドや人と協働するロボットへの適用も将来的な可能性として広がっています。ただし家庭用ヒューマノイドについては、安全性の観点も含めて実現には時間を要するとXELA自身は慎重な見方を示しています。現時点では、ファクトリーオートメーション用途が最も引き合いの多い領域となっています。
5.ロボットハンド・グリッパーへのuSkinの実装方法
uSkinは、顧客が使用したいロボットハンドやグリッパーに合わせて柔軟にカスタマイズ可能で、既存のロボットに後付けする形での導入が容易な設計となっています。
uSPa(貼り付けタイプ)は、両面テープや接着で様々な表面に容易に貼り付けることができます。uSPr(スクリューマウントタイプ)はネジ止めで各種グリッパーに取り付け可能です。ロボットハンドの場合は、指先だけでなく、指の他の関節(Phalange)や手のひらにもカバーを付けて触覚センシング化できます。
参考:XELA Robotics株式会社 https://xelarobotics.com/
コメント
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本Webサイトの運営担当者です。2005年から、産学官連携や産業振興の業務に携わっています。
コメント
今回のヒアリングを通じて、ロボット自動化の最大のボトルネックが「掴む・持つ・扱う」という一見単純な動作にあるのだと、あらためて腑に落ちました。視覚AIとカメラ映像の進化には目覚ましいものがありますが、それだけでは「モノを見つける」ことはできても「モノを繊細に扱う」ことはできません。人間が日常的に無意識に行っている触覚フィードバックの重要性を、XELA Robotics様の触覚センサー「uSkin」は、極めて実装可能な形で解決に導いていると感じました。
特に印象的だったのは、磁気式センシングによる高密度・小型化と、1つのセンシングポイントで3軸(X・Y・Z)の力を同時計測できる技術的な合理性です。押す力(法線力)だけでなく、表面に沿った“ずれ”(せん断力)まで捉えることで、物体の重量、滑りの兆し、接触面積の変化まで判定できる。これはまさに人間の指先が行っていることを、シンプルな構造で実現するアプローチです。0.1グラム重という高い分解能を保ちながら、最大1,500グラム重までの荷重に耐え、外側のスリーブだけを交換できる堅牢性を持つ点も、産業現場での長期運用を見据えたバランスの良さを感じました。
応用領域の広さも際立っています。工場のワイヤーハーネスや電子部品の挿入作業のように、わずかな位置ズレが破損につながる工程では、力加減と位置微調整の触覚制御が決定的な役割を果たします。倉庫のピック&プレースにおいても、コンテナ内で何個のネジを掴んだのかを触覚で判定し、把持力を動的に調整できることの意義は極めて大きく、これまで人手に頼らざるを得なかった工程を大きく前進させる可能性を感じました。
そして何より、uSkinが顧客の使いたいロボットハンドやグリッパーに合わせてカスタマイズ可能で、ROS/ROS2にも対応した実装のしやすさを備えている点は、既存の自動化ラインへの導入ハードルを大きく下げると考えます。フィジカルAI時代においてAIが現実世界と本当につながるためには、視覚データだけでなく触覚データが不可欠であるという同社の主張は、今後さらに広く共有されるべき視点だと感じます。触覚オートメーションという新たな地平を切り拓くXELA Robotics様の技術と思想には、大いに期待したいと思います。このコメントと投稿者はデジタル証明書(VC)によって真正性が保証されています。
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それらがシステム上で検証された後に記事にコメントとして表示されています。VCとは
VC(Verifiable Credential)は、デジタル空間で「改ざんが検知可能」かつ「即座に検証可能」な証明書です。
紙の証明書やPDFと異なり、暗号技術により真正性が数学的に保証されており、W3Cにより制定された国際標準規格です。









須藤 慎
記事作成者
株式会社キャンパスクリエイト・専務取締役・プロデューサー