高精度3次元データがフィジカルAIの土台をつくる ― ダイナミックマッププラットフォームが拓く「Data for AI」の世界

基盤技術・サービス

関連分野・業種
製造、物流・倉庫、建設・インフラ、モビリティ、医療・ヘルスケア、介護・福祉、農業・一次産業、小売・店舗、サービス・施設運用、公共

公開日 

ヒアリング先
ダイナミックマッププラットフォーム株式会社管理部部長 近藤 竜太郎 氏、広報課 野村 英倫子 氏

ダイナミックマッププラットフォーム株式会社は、センチメートル級の精度を持つ高精度3次元データのプラットフォーマーです。同社が提供する高精度3次元地図データは、自動運転や先進運転支援システム(ADAS)を中心に、スマートインフラ、物流、シミュレーション、AI学習など、幅広い分野で活用が広がっています。国内外あわせて世界26カ国・180kmという圧倒的なカバレッジを有し、フィジカルAI時代に不可欠な「実世界を高精度に反映したデータ基盤」を提供する存在として、国内外の自動車メーカー、システム開発企業、半導体メーカーなどから選ばれ続けています。近年は、AIでの利用を前提に設計された「AIネイティブデータ」の整備・提供を進めており、「Data for AI」の取り組みを本格化させています。

1.提供する高精度3次元データの概要・特徴

ダイナミックマッププラットフォーム株式会社は、20166月に設立された高精度3次元データのプラットフォーマーです。日本政府によるバックアップのもと、国内自動車メーカー10社等の出資により設立された経緯を持ち、日本をヘッドクオーターに、北米・欧州・中東・韓国に拠点を構え、現在26カ国で事業を展開しています。ビジョンは「Modeling the Earth(地球のデジタル化)」。現実の世界をデジタル空間に高精度に複製し、さまざまな産業分野におけるイノベーションを共創することを目指しています。

高精度3次元データの生成プロセス

同社の高精度3次元データは、LiDAR(ライダー)やカメラを搭載した専用計測車両を走らせ、道路や周辺環境の構造・位置情報を3次元的に取得することからスタートします。取得された点群データはセンチメートル級の精度を持ち、その11点が座標情報を保持しています。この点群データから、道路の路肩や標識、信号など、自動運転に必要な情報を抽出し、線形のベクトルデータへと整形することで、高精度3次元地図データとして提供されます。

主な特徴

  • センチメートル級の高精度:衛星測位・計測・図化・データ統合の各プロセスで培った高い技術力により、デジタル社会の基盤インフラとして機能する精度を実現
  • 多様な産業分野への対応力:自動車業界だけでなく、多様な産業分野からの要求に応じたデータ形式・仕様で提供可能
  • 圧倒的なカバレッジ:世界26カ国・約180kmを整備済みで、国内外の自動車メーカーが求める範囲を網羅
  • 単なる形状データではないセマンティック情報:車線や標識といった意味情報が付与されており、AIによる空間理解を支援できるデータ設計

サービスラインアップ

同社では、下記のサービスを展開しています。

  • 自動運転向けデータ(高精度3次元地図データ):モビリティの自動運転や先進運転支援システムをはじめ、シミュレータ環境構築、インフラ管理などにも活用可能

  • Viewer3Dmapspocket®):ダイナミックマッププラットフォームが計測した全国の高速道路・自動車専用道路・主要幹線道路の高精度3次元点群データとGoogle Photorealistic 3D Tilesを統合し、ブラウザ上で高精度な3D空間の計測・分析・配置など複合的な空間検証を可能にする総合3D空間プラットフォーム
  • Guidance(除雪支援システム「SRSS」):高精度3次元地図データの生成技術を応用したセンチメートル級の高精度ガイダンスサービス
  • 位置情報サービス(空間ID):3次元の位置情報をキーに動的・静的情報を統合し、ドローンやAGV(自動搬送ロボット)等の高度な運用を可能にするサービス

2.フィジカルAI領域におけるサービスの利活用性

フィジカルAIとは、実世界を対象として自律的な判断と行動を行うAIを指します。カメラやセンサーで捉えた現実の情報を解釈し、物理空間で動作するロボットや自動運転車両を制御していくためには、AIが「現実空間を正確に理解する」ための土台となる高精度なデータが不可欠です。ダイナミックマッププラットフォームの高精度3次元データは、この「フィジカルAIの土台」として活用されています。

◆ Data for AI ― フィジカルAI活用に向けた5類型

同社はIR資料等でも公表している通り、フィジカルAI領域で活用可能なデータを大きく5類型に整理し、「Data for AI」として提供しています。学習用データ、評価・検証用データ、法規適合や認証を支えるデータ、AIモデルの判断・推論を支える補助情報、そしてAIの安全機構を支えるデータと、AIシステムのライフサイクル全体をカバーする視点でデータを設計している点が特徴です。

主な活用領域

自動運転・ADAS

同社の中核領域です。国内自動車メーカーの国際基準対応に向けた自動運転ECU開発など、量産化に直結するデータ提供の実績を有しています。既存の車載用地図としての量産ライセンスに加え、AI学習・評価・シミュレーション用途への提供も拡大しています。

スマートインフラ・都市開発

道路や橋梁などのインフラ管理や都市開発、国や地方自治体による防災・減災対策など、実世界のデジタルツインを起点にした社会基盤DXにも活用されています。

物流・ロボティクス

物流分野では、レベル4自動運転トラックの実現に向けた活用が進んでいます。また、物流センター内で稼働するロボットの制御用途など、屋外の走行系だけでなく屋内・敷地内の自律移動系にも活用領域が広がっています。

シミュレーション・AI開発基盤

実走行データだけに依存せず、仮想環境でのシミュレーションを通じたAI学習・評価が急速に重要度を増しています。同社の高精度3次元データは、実環境を高精度に再現したシミュレーション環境の構築に利用されており、Sim2Realギャップ(実環境と仮想環境の差異)の低減にも貢献します。

フィジカルAI時代における顧客ニーズの変化

フィジカルAIの研究開発・事業展開が急速に進む中、同社に寄せられる要望も広がりを見せています。自動車メーカーやシステム開発企業、半導体メーカーからも自動運転システム向け用途でのデータ需要が寄せられています。また、物流トラックや自動運転バス、物流センター内で稼働するロボットなど、量産乗用車以外の領域からの相談も増えています。

同社が新たに立ち上げた「AIネイティブデータ」の取り組みは、こうした顧客ニーズの変化に応えるものです。AIでの利用を前提に設計されたデータとして、点群データ、カメラ画像、高精度位置情報、高精度3次元地図データ、セマンティックアノテーション、3D Gaussian Splatting3DGS)データなどを時間的・空間的に整合させたマルチモーダルデータセットが、その代表例です。20266月には、事故リスクの高い実在の都市交差点を対象としたサンプルデータを、機械学習コミュニティ向けプラットフォーム「Hugging Face」上に公開しています。

参考:Hugging Face公開サンプルデータ https://huggingface.co/datasets/dynamic-maps/hard-intersection-multimodal-sample

AIネイティブデータのサンプルイメージ(点群データ・画像・3DGS等を統合した交差点データ)

グローバル展開時の海外での利用

国内で開発されたフィジカルAI製品をグローバル展開する際、海外でも同社のサービスを利用できる点は、同社の大きな強みの一つです。同社は北米・欧州・中東・韓国にグループ会社を持ち、世界26カ国・約180kmのデータをすでに整備済みです。フィジカルAI製品の海外展開を後押しできる体制を有しています。

加えて、高精度かつ実環境を反映したデータであることも、AI開発において決定的な意味を持ちます。例えば自動車分野では、ドライブレコーダーの実走行映像を用いた学習が一般的に行われていますが、大量のデータ収集にはコストがかかり、レアシーンの取得も難しいという課題があります。ダイナミックマッププラットフォームの高精度3次元データは、こうした実走行データの弱みを補完するデータとして、AI開発における需要が高まっています。

さらに、点群データやベクトルデータだけでなく、カメラ画像や3DGSデータなど多様なデータを同期した形で提供できる点も、同社の強みの一つです。

3.フィジカルAI領域におけるサービスの活用方法(ライセンスモデル)

同社のサービスは、ライセンスモデルによって顧客に提供されています。用途に応じて、大きく次の2種類が整理されます。

自動運転向けの量産ライセンス

従来から提供されている、自動車に搭載する車載用地図としてのライセンスです。国内外の自動車メーカー6社の量産車両38車種(20267月現在)に採用されており、自動運転およびADAS機能の安定運用を支えています。

◆ Data for AI 向けライセンス

近年、需要が急速に拡大している領域です。前述の5類型(学習、評価・検証、認証支援、安全機構、補助情報)に応じて、AI開発企業やシステム開発企業に対してライセンス提供されています。

なお同社は、平和島自動運転協議会の加盟企業に対して共通で利用可能なインフラとしてデータを提供するオープンイノベーションの取り組みも行っています。同協議会には自動車メーカー、自動運転システム開発企業、AI開発企業などが加盟しており、加盟企業間で共通データを活用することで、自動運転システム開発、物流センターでのロボティクス開発、AI学習など、多岐にわたる開発が促進されています。

他社ソフトとの組み合わせによる柔軟な活用

同社の高精度3次元データは、他社の各種ソフトウェアと組み合わせて活用することも可能です。例えば、同社の高精度3次元地図データを、MathWorks社のシミュレーターソフト「RoadRunner」に取り込んで3Dシーンやシナリオを作成し、NVIDIA社のソフトウェアで高品質な動画像を生成する、といったワークフロー構築が可能です。同社はNVIDIA Omniverse Partner Council Japanにも参画しており、他社と連携しながら仮想環境のさらなる高度化に取り組んでいます。

こうした柔軟性により、顧客の既存の開発ワークフローに組み込みやすく、シミュレーション、学習、検証といったAI開発の各フェーズで幅広く活用可能な形での提供が実現されています。

コメント

  • 須藤 慎

    記事作成者

    株式会社キャンパスクリエイト・専務取締役・プロデューサー

    本Webサイトの運営担当者です。2005年から、産学官連携や産業振興の業務に携わっています。

    コメント

    今回のヒアリングを通じて、フィジカルAI時代の到来にあたって「実世界を高精度に反映したデータ基盤」がいかに本質的な役割を果たすかということを、あらためて実感しました。カメラ画像や実走行データだけでは、道路の白線が擦れて読めない場面や見通しの悪い交差点など、AIが判断に迷うシーンが必ず生じます。ダイナミックマッププラットフォーム様が提供するセンチメートル級の高精度3次元データは、こうした場面でAIに「本来ここにこういう車線がある」「この位置にこういう標識がある」ということを正確に伝えられる。安全性を担保する冗長性、いわば社会実装における安心材料としての価値が非常に高いと感じました。
    特に印象的だったのは、世界26カ国・約180万kmという圧倒的なカバレッジです。日本政府バックアップのもと国内自動車メーカー10社等の出資により設立された経緯もあり、日本の高精度3次元データにおける事実上の世界標準を担う存在として、他社の追随を許さない存在感を放っています。国内で開発したフィジカルAI製品をグローバル展開しようとした際にも、海外グループ会社と連携して同社のデータをそのまま利用できるという体制は、日本発のフィジカルAIプレイヤーにとってこれ以上ないほど心強い基盤になるはずです。
    また、AIでの利用を前提に設計された「AIネイティブデータ」の取り組みは、フィジカルAI時代における同社の先進性を象徴するものです。点群データ、カメラ画像、位置情報、高精度3次元地図データ、3D Gaussian Splatting(3DGS)データまでを時間的・空間的に整合させたマルチモーダルデータセットは、AIモデル学習からシミュレーション検証まで一気通貫で活用可能な設計になっており、Sim2Realギャップの低減にも直結する構想と受け止めました。フィジカルAIに取り組むあらゆるプレイヤーにとって、まさに必須の基盤サービスと言えるでしょう。

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