フィジカルAIを動かす通信インフラ — 10年のIoTで鍛えたソラコムのキャリア回線という選択肢
基盤技術・サービス
- 関連分野・業種
- 製造、物流・倉庫、建設・インフラ、モビリティ、医療・ヘルスケア、介護・福祉、農業・一次産業、小売・店舗
公開日
- ヒアリング先
- 株式会社ソラコム テクノロジー・エヴァンジェリスト 松下 享平 氏
株式会社ソラコムは、2015年からIoT向けデータ通信サービスを提供してきた、AI/IoTプラットフォームの専業企業です。LTEや5Gといったセルラー(キャリア)回線をIoT向けに最適化し、「電源を入れるだけで、どこでもつながる」通信を、1回線から大量回線までソフトウェアで自在に管理できる仕組みとして提供しています。フィジカルAIが本格的に立ち上がりつつある今、同社は「現場をデータ化し、AIの判断を物理世界に戻す」までを支える通信こそがAIの神経網になると位置づけ、エッジAI・クラウドAIのいずれにも欠かせない通信基盤として、その役割を一段と高めています。海外売上比率が40%以上に達するなど、グローバルに広がる稀有な日本発スタートアップでもあります。
フィジカルAIで高まる通信の重要性——「動かす」最後のピースを支える神経網
フィジカルAIをめぐる議論は、二足歩行ロボットや自動運転といった、目に見えて派手な「動くもの」に注目が集まりがちです。しかしソラコムは、フィジカルAIをより広く「現実世界を動かす力にAIをうまく使っていく考え方そのもの」と捉えています。同社がよりどころとするのは、人間の行動を「見る・考える・決める・動かす」の循環として捉えるOODAループの発想です。センサーやカメラで現実を「見て」データ化し、基盤モデル(LLMやVLA)やAIエージェントが「考え」「決め」、その結果を物理世界で「動かす」。この一連のループ全体がフィジカルAIであり、ロボットや自動運転はその最終出力としてわかりやすく現れた一部分にすぎない、というのが同社の整理です。
ここで決定的に重要になるのが、デジタル空間と物理世界を行き来する経路、すなわち通信だと同社は主張しています。「考える」「決める」までは生成AIやAIエージェントの進化によってデジタル空間でほぼ完結できるようになってきました。一方で、現実を「見て」データ化する部分と、決まった判断を現場に戻して「動かす」部分は、いずれもネットワークを介してはじめて成立します。ソラコムは、現場のセンサーが触覚、カメラが視覚にあたるとすれば、それらと脳であるAIをつなぐ通信こそがAIの神経網にあたると表現します。フィジカルAIの時代において、通信は付随的な要素ではなく、ループを閉じるための不可欠な前提だという考え方です。
この視点は、同社が掲げる戦略「リアルワールドAIプラットフォーム」にも表れています。現場のデータ(フィジカル)と社内外のデータ(デジタル)のすべてをAIにつなぐという発想のもと、デバイス・IoTコネクティビティ・AI/クラウドの三層を一気通貫で支える構えをとっています。フィジカルAIの現場で「ネットワークの都合でロボットが動かせない」といった事態が起これば、それはそのままビジネスの停滞に直結します。だからこそ、現場が通信を意識せずに動かせる環境を整えることが、フィジカルAIを社会実装するうえでの土台になる——これが同社の一貫したメッセージです。
エッジAIとクラウドAIをどう整理するか——「通信遅延」より「推論時間」で考える
フィジカルAIを実装しようとすると、必ず「AIをどこで推論させるか」という論点に行き当たります。ソラコムは、これを使う場所とシステムの作り方の違いとして整理します。データの発生源(デバイス側)で推論するのがエッジAI、データの集約先(クラウド側)で推論するのがクラウドAIであり、フィジカルAIはそのどちらかに限定されるものではなく、両者を含む考え方だと位置づけています。エッジAIはフィジカルAIにおける実装の一形態にすぎず、クラウド上のAIによる推論もフィジカルAIの構成要素となり得る、というのが同社の立場です。
ここで同社が投げかけるのが、通信に対する見方の転換です。エッジとクラウドを比較する際、しばしば「クラウドは通信の遅延(レイテンシ)があるから不利だ」と語られます。しかしソラコムは、フィジカルAIにおいては遅延以上に推論時間そのものをいかに短縮するかが重要だと指摘します。AIアプリケーションの処理にかかる時間の大半は推論に費やされ、通信の往復遅延が占める割合は相対的にごくわずかです。たとえば、エッジで10秒かかる推論が、より高性能なクラウドなら数秒で終わるのであれば、クラウドへのアクセスに要する数十ミリ秒の遅延は十分に回収できる、という考え方です。遅延だけを取り出して優劣を論じるのではなく、ユーザーがAIの推論結果を得るまでの体験全体、つまりユースケースに即してエッジかクラウドかを選ぶべきだ、というのが同社の主張です。
そしてもう一つ、見落とされがちな事実として同社が強調するのが、「エッジAIであっても通信は必須である」という点です。デバイスの中に基盤モデルを置いたとしても、それを動かし始めた瞬間からモデルは古くなっていきます。モデルを更新し続けなければ、AIは次第に陳腐化してしまう。常時接続している必要はないものの、更新のタイミングでは必ず通信が要る、という意味で、エッジAIにも更新の仕組みと通信環境が欠かせません。クラウドAIであればAPI呼び出しのための通信環境が必要なのは言うまでもなく、結局のところエッジ・クラウドのどちらを選んでも通信は前提になる——通信を提供する立場として、同社が最も強く訴えるポイントです。
ソラコムのキャリア回線通信の特徴——「専用」が生む3つの強み
ソラコムが提供するのは、利用者から見ればLTEや5Gといった一般的なキャリア回線です。普段スマートフォンで使う通信と同じく、配線工事も要らず、電源を入れるだけでどこでもつながります。しかし、その実体はIoT専用に設計された通信であり、一般的な携帯通信とは三つの点で性格が大きく異なります。
第一に、回線を1回線から自分でコントロールできることです。回線の開通・休止といった制御 や、データ通信量や通信状況がどうなっているかの把握まで、利用者自身が管理画面から操作・確認できます。通信事業者を介さずに「今、回線がどうなっているのか」を自分で見える化できることは、現場の通信を活用するビジネスにとって大きな違いになります。第二に、IoT向けに通信量(トラフィック)を抑えるためのサービスを数多く用意している点です。通信料は利用者のサービス原価に直結するため、それを下げることはビジネスの拡大余地につながり、さらにモデムの稼働時間を短くできることから省電力化にも寄与します。
第三が、セキュリティです。スマートフォンは人が持ち歩くため不測の事態にも対応できますが、IoTデバイスは無人の現場に置かれることが多く、盗難や乗っ取りに気づきにくいという課題があります。ソラコムの通信は標準で「閉じた」ネットワークになっており、デバイスはインターネットに直接出ることなく通信します。これは、デバイスからのデータがキャリア網を抜けた先で、インターネットを経由せず同社のクラウド上の専用システム へ専用線で直結する構成によって実現されています。クラウドへアクセスするための認証情報をデバイス内に保存せず、同社の仕組みを経由してクラウドにアクセスできるようにすることで、現場のデバイスを盗まれても重要な鍵が露出しない設計とすることも可能になっています。
さらにソラコムは、交換機にあたる機能を自社開発し、クラウド上で運用しています。これにより、トラフィックが増減した際にも、クラウドの弾力性を生かして処理能力を分単位で柔軟に増減でき、大容量化が進むフィジカルAIの通信需要にもシステム的に追従できます。従来であれば通信機器を物理的に増設する必要があった部分を、ソフトウェアとクラウドの力で吸収している点が、同社ならではの強みです。
通信の安定性をさらに高める仕組みとして、同社は1枚のIoT SIMに複数のプロファイル(接続情報と契約)を格納できる技術(SORACOM Connectivity Hypervisor)も用意しています。平常時はあるキャリアで通信し、その回線の状態が悪化した際には、契約の切り替えや番号の変更といった煩雑な手続きなしに、自動的に条件のよい別キャリアへ切り替えることができます。利用者が気づかないところで安定した通信を確保するこのマルチキャリアの考え方は、特定キャリアの障害がそのまま現場の停止につながりかねないフィジカルAIにおいて、大きな安心材料になります。実際、自動車分野の業界団体AECCと共同で、Mobile World Congress 2026において、一方の回線が切断しても映像が途切れることなくもう一方の回線で継続する遠隔運転のデモを公開し、こうした安定性を実証しています。
フィジカルAI時代にソラコムの通信が役立つ理由——10年のIoTで鍛えた現実解
同社は、フィジカルAIで求められる通信要件を「大容量」「マルチキャリア」「セキュリティ」「管理」の四つに整理しています。エッジAIであれば大きな基盤モデルを素早く配布するために、クラウドAIであれば高精細な映像などを送るために、いずれも大容量・高速の通信が要ります。安定的にAIへアクセスするにはマルチキャリアによる冗長性が、データがどの国を経由するかといった懸念に応えるには自分で通信を把握できるセキュアなネットワークが、そして数万・数十万台規模のデバイスを扱うには大量回線をまとめて管理できる仕組みが、それぞれ必要になります。これらは、まさに同社が10年にわたってIoTの現場で磨いてきた領域そのものです。
特筆すべきは、フィジカルAIの通信ニーズの多くが、最先端の技術仕様ではなく既存のキャリア回線で十分に賄えるという同社の見解です。5Gや、議論が始まりつつある6Gといった話題に関心が集まりがちですが、現場が本当に求めているのは「とにかく安定してつながってほしい」「通信料を抑えたい」といった実利に近い要望が中心だといいます。同社の観測では、現場のデータをクラウドへ送るうえで必要な高速・大容量はLTEの水準でも十分に実現できており、5GのSA/NSAといった技術的な差異が論点になる場面はほとんどないとのことです。フィジカルAIというと特別な通信が必要になると身構えがちですが、実際には既存のセルラー通信をそのまま活かせるという点は、導入のハードルを大きく下げる現実的なメッセージといえます。
現場の通信需要が高まり、ロボットが工場や街中へと広がっていくほど、通信の安定確保は重要になります。同社は、トラフィックの増加にはクラウド上の交換機能を弾力的に増減させて対応し、回線の数や設定で現場ごとの需要に応えられる体制を整えています。「現場の通信を意識しなくてよい状態をつくること」こそが、本来やりたかった「現場を動かし、価値を生むこと」ことへの近道だ、というのが10年のIoTビジネスで培われた同社の哲学です。
加えて、グローバル展開も同社の大きな特徴です。日本国内の会社でありながら、世界200を超える国と地域、500以上 の通信キャリアで利用でき、海外売上比率は40%以上に達しています。海外利用時には、現地で折り返す通信経路(ランデブーポイント)を自動的に適用することで遅延を抑えるなど、IoT時代から寄せられてきた遅延への要望にも応えてきました。利用者は現地キャリアとの契約内容を意識することなく、ソラコムとの契約だけで世界中でつながる通信を使える——この点も、現場が国境を越えて広がりうるフィジカルAIにおいて、同社の通信が選ばれる理由の一つになっています。
会社概要・関連リンク
株式会社ソラコム / SORACOM, INC.(代表取締役社長CEO :玉川 憲/拠点:日本・英国・米国/東京証券取引所グロース市場:147A)
事業概要:AI / IoT プラットフォームサービスの提供
コーポレートサイト:https://soracom.com
コメント
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本Webサイトの運営担当者です。2005年から、産学官連携や産業振興の業務に携わっています。
コメント
フィジカルAI時代において通信が重要となることは、電気通信大学TLOである弊社としては、経験上、疑いようがありません。むしろ、フィジカルAIの発達に通信インフラが追いついていけるかというスピード感や、対応ノウハウの蓄積に懸念を持っていたほどです。今回インタビューをお聞きし、既存のキャリア通信インフラをそのまま用いてフィジカルAIに対応できること、現場の通信需要の高まりに対して回線の数や設定で対応できることなど、フィジカルAIにしっかり対応できる下地を持っていることに感嘆しました。ソラコム様のサービスは聞いたことはあったものの、いざフィジカルAIとの適合性にフォーカスしてお話をしてみると、まさしくこれからの基幹的な通信サービスとなることを確認しました。
そして、海外売上比率が4割を超えていることも素晴らしい実績です。海外の通信会社との提携モデルと、通信プラットフォームの技術的強みを生かした事業展開がかみ合った結果です。スタートアップが海外展開を行うとなると実際にはさまざまな障壁が生じるものですが、ここまで成果を出されたスタートアップはそうそう見当たりません。これからのフィジカルAIの発展を支える素晴らしいサービスであるとともに、海外展開を成功させたスタートアップの代表モデルとして、ソラコム様の今後の発展に期待したいと思います。
フィジカルAIにおいて通信のお話が出てきた折には、キャリア回線の活用性は検討の余地が十分にあることから、ぜひソラコム様にご相談してみてくださいませ。このコメントと投稿者はデジタル証明書(VC)によって真正性が保証されています。
このコメントと投稿者情報は、「改竄されていないか」や「正当な投稿者か」などを暗号学的に検証できる〈Verifiable Credential(VC)〉によって保証されています。
それらがシステム上で検証された後に記事にコメントとして表示されています。VCとは
VC(Verifiable Credential)は、デジタル空間で「改ざんが検知可能」かつ「即座に検証可能」な証明書です。
紙の証明書やPDFと異なり、暗号技術により真正性が数学的に保証されており、W3Cにより制定された国際標準規格です。







須藤 慎
記事作成者
株式会社キャンパスクリエイト・専務取締役・プロデューサー