ホームページに貼るだけで、窓口が「手話」に対応する 初期費用ゼロで始める、きこえない人のための問い合わせ窓口「手話リンク」
公開日 更新日
- ヒアリング先
- 一般財団法人日本財団電話リレーサービス広報チーム 上村 麻子 氏
「手話リンク」は、総務大臣指定の電話リレーサービス提供機関である一般財団法人日本財団電話リレーサービスが、2025年4月から法人向けに提供を開始したサービスです。公共インフラである電話リレーサービスのひとつとして提供されるもので、企業や自治体の公式サイトに専用の問い合わせボタンを設置するだけで、きこえない人からの手話による問い合わせを、手話通訳オペレータを介して既存の音声電話の窓口で受けられるようになります。問い合わせる側であるきこえない人の事前登録は一切不要で、導入する法人側も初期費用ゼロ・負担は通話料のみと、極めて低い敷居でアクセシビリティ向上を実現できる点が大きな特徴です。すでに自治体や警察の交番、鉄道など、人手が限られる現場を中心に導入が広がっています。
開発に至った背景——「即時・双方向」の電話だけが、長く取り残されていた
手話リンクの背景を理解するには、まずその土台にある「電話リレーサービス」を知る必要があります。世の中には、対面でもメールでもなく、知らない第三者に即時に用件を伝えたい場面が数多くあります。総務省が発表した「通信量からみた我が国の音声通信利用状況 -令和5年度における利用状況-」によれば、国内の音声電話の利用回数は年間およそ600億回にのぼるとされ、電話は今なお社会の最も基礎的なコミュニケーション手段の一つです。しかし、聴覚に障害のある方や、吃音・発声器官の摘出などにより発話が困難な方にとって、この「電話」というインフラは長らくアクセスが難しいものでした。
電話が使えないことの影響は、想像以上に生活の細部にまで及びます。取材の中では、レストランの予約一つをとっても、席の指定やアレルギーの確認、ワインの持ち込みの可否といった細かなやりとりが電話でできないため、わざわざ店舗まで足を運んで対面で交渉するしかなかった、という事例が語られました。また、緊急通報も電話でできなかったため、命の危険にさらされる事例もありました。こういう状況を解消するため、令和2年に制定された「聴覚障害者等による電話の利用の円滑化に関する法律」にもとづき、令和3年(2021年)7月から公共インフラとして始まったのが電話リレーサービスです。通訳オペレータが手話・文字と音声で通訳し、電話で即時双方向につなぐ仕組みで、24時間365日対応し、110番・119番などの緊急通報にも対応しています。電話提供事業者の負担金を原資とする交付金によりサービスが提供されているため、利用者は通訳費用を負担する必要がありません。
ただし、この電話リレーサービスには一つの構造的な制約があります。あくまで「電話」であるため、利用するきこえない人の側が、専用の電話番号をあらかじめ取得・登録しておく必要があるのです。実際、一部の企業のように独自に手話での問い合わせに応じる体制を整える例はあったものの、広く普及されるまで至っていないようです。そこで、この「窓口側」の課題を解消するために、電話リレーサービスを派生させて生まれたのが手話リンクです。
出典:電話リレーサービス公式サイト https://www.nftrs.or.jp/
手話リンクの概要と利用方法——公式サイトのボタンから、登録不要で窓口へ
手話リンクは、法人が保有する音声電話の番号(たとえば代表電話の「03-◯◯◯◯-◯◯◯◯」など)に対して、手話通訳による電話リレーサービスを紐づけるサービスです。これにより、通常の電話窓口で、手話による問い合わせも受け付けられるようになります。利用の入口は大きく二つの形があります。一つは、ウェブサイトに「手話で電話する」というボタン(バナー)を設置する形。もう一つは、ポスターなどに掲示したQRコードを読み取ってもらう形です。
きこえない人の側の利用方法は非常にシンプルです。カメラを搭載したスマートフォンやパソコンで、自治体や企業のサイトにある「手話で電話する」ボタンを押すと、カメラの使用許可や、これは音声の電話ではなく日本の手話で対応するサービスであることなどの確認に同意したうえで、手話通訳オペレータ(以下、オペレータ)にビデオ通話でつながります。あとは手話で用件を伝えれば、オペレータがそれを音声に通訳して、法人の代表電話などへ問い合わせてくれます。重要なのは、このときオペレータは会話を取り持ったり段取りを代行したりはせず、「通訳」だけを担う点です。やりとりの主体はあくまで本人同士であり、間の対等な会話が成立します。問い合わせる側の事前登録は一切不要で、思い立ったその場ですぐに使えます。
法人側の導入も、同じくらい手軽です。最大のポイントは、初期費用が一切かからないこと。ウェブサイトに設置する場合は、WordPressのようなCMSで管理しているサイトであれば、手話リンクのURLを一般的なコードとして1行貼り付けるだけで設置でき、開発費用は基本的に発生しません。導入後の法人の負担は、市民や顧客から実際に問い合わせがあった分の通話料のみで、月額料なしプランで契約した場合は、使われなければ費用は発生しない、対応した分だけの料金体系です。たとえばすでにフリーダイヤルで問い合わせ窓口を設けている企業であれば、そこに手話リンクを紐づけるだけで、追加の請求は発生しません。
法人・自治体のニーズと導入理由——人手不足の現場ほど、開いておく価値がある
手話リンクは、公的な団体の導入が進んでいます。自治体にとっての導入理由は多面的です。鳥取県は、手話言語条例を全国の地方自治体で初めて制定したことで知られますが、「きこえる・きこえないに関係なく、行政にきちんとつながり、誰もがコミュニケーションできることがこれからの時代には絶対に必要だ」という考えのもと、職員が何の抵抗もなく、行政サービスとして当然のものとして導入したといいます。災害時のデマや誤情報が飛び交うなかで、役所とやりとりができることは情報格差の解消にもつながる、という問題意識が背景にあります。
導入者・利用者の声——「諦めなくてよくなった」という安心
現場からは具体的な手応えが寄せられています。とりわけ象徴的なのが、交番での活用です。警察官が巡回中で不在の交番には、しばしば「ただいま巡回中です。お急ぎの方はこちらにお電話ください」と電話番号を記したポスターが貼られています。しかし、きこえない人にとっては、そこに電話をかけること自体ができませんでした。手話リンクのQRコードをポスターに掲示しておけば、スマートフォンをかざすだけで、その交番が指定する連絡先へ手話で問い合わせができます。けがをした、誰かと揉めた、財布を落とした——そうした急を要する困りごとを抱えて交番を訪れたとき、「警察官がいないからと、そこで諦めるしかなかった」状況が変わり、「きこえる人と同じように、諦めることなく問い合わせができるようになったのは安心だ」という利用者の声が、メディアでも紹介されています。
導入する側にとっての効果も明確です。これまで聴覚障害のある方向けの窓口を、専属の手話通訳者にお願いしていたケースでは、通訳者の負担が大きな課題でしたが、手話リンクの導入によってその負担を大幅に軽減できます。手話ができる職員がいない時間帯・体制でも対応できるようになり、組織全体としての対応力が底上げされると同時に、これまで対応を一手に引き受けてきた手話通訳者の心理的負担も和らぎます。この効果は自治体に限らず、聴覚障害のある顧客対応担当がいる企業にも同様に当てはまるものです。
サービス概要・関連リンク
提供機関:一般財団法人日本財団電話リレーサービス(総務大臣指定 電話リレーサービス提供機関)
手話リンク:法人向けサービス(2025年4月提供開始/初期費用なし・負担は通話料のみ)
公式サイト:https://www.nftrs.or.jp/
コメント
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本Webサイトの運営担当者です。2005年から、産学官連携や産業振興の業務に携わっています。
コメント
今回「手話リンク」のお話を伺い、まず強く感じたのは、その導入の敷居が驚くほど低いことです。問い合わせをするきこえない人の側に事前登録を求めず、導入する法人側も初期費用がかからず、ウェブサイトにURLを1行貼り付けるだけで始められる。負担は実際に問い合わせがあった分の通話料のみで、使われなければ費用は生じません。アクセシビリティ向上の取り組みは、ともすれば「コストが大きい」「専用の体制が必要」という懸念が生じがちですが、手話リンクはそうしたハードルをほぼ取り払っており、誰もが気軽に始められる現実的なサービスに仕上がっていると感じました。
次に、業務負荷の改善という観点からも、費用対効果の高さは際立っています。これまで聴覚障害のある方への対応を、限られた担当者や手話通訳者が一手に引き受けていた現場では、その負担が大きな課題となっていました。手話リンクを導入すれば、手話ができない職員でも問い合わせに対応できるようになり、対応できる時間帯や体制も広がります。担当者の業務負荷と心理的負担の両方を軽減しながら、住民・顧客サービスの質を底上げできる点は、導入する側にとって明確なメリットといえるでしょう。
そして、特に自治体においては、人手不足が深刻化するなかでこそ、こうした取り組みを進めていく必要性が高いと考えます。きこえる・きこえないに関わらず、誰もが行政や企業の窓口に等しくアクセスできる社会を、低コストかつ無理なく実現できる点で、手話リンクは、インクルーシブな社会づくりを足元から支える、素晴らしいサービスであると感じました。このコメントと投稿者はデジタル証明書(VC)によって真正性が保証されています。
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須藤 慎
記事作成者
株式会社キャンパスクリエイト・専務取締役・プロデューサー