誰もが自由に移動できる空間へ 「歩導くん ガイドウェイ」と「ガイドレット」が拓くバリアフリーの新しいかたち

インクルーシブ推進・支援団体の取り組み

公開日 

ヒアリング先
錦城護謨株式会社代表取締役社長 太田 泰造 氏

貼るだけ・後付け可能・デザインにも配慮──錦城護謨株式会社の視覚障害者歩行支援製品は、大規模工事なしで誰もが安心して移動できる空間を実現します。

 

会社の事業概要・バリアフリー推進課のお取り組み

錦城護謨株式会社は、昭和11年(1936年)の創業以来、工業用ゴム部品の製造・販売を中心に事業を展開してきた老舗ゴムメーカーです。2025年には創業90周年を迎えます。

 

自動車・家電・医療・食品など幅広い産業分野でゴム製品を供給するとともに、軟弱地盤改良工事の設計・施工も手がけています。大阪・関西万博の会場造成をはじめ、羽田空港や圏央道などの大型インフラ整備にも貢献するなど、ゴムと土木のものづくりを両輪に日本の産業を支えてきました。

 

同社の事業は大きく3つの柱から成り立っています。ゴム事業(工業用ゴム部品の生産・販売)、土木事業(軟弱地盤改良工事の設計・施工・管理)、そして福祉関連のバリアフリー事業です。さらに、デザイナーとのコラボレーションによる自社ブランド「KINJO JAPAN」の展開も行っており、ゴムの素材特性を活かしたシリコーン製グラスなど、BtoCの新製品開発にも取り組んでいます。

バリアフリー推進課設立の経緯

同社が視覚障害者支援事業に踏み出したきっかけは、「第3の事業の柱を立てたい」という経営的な決断でした。中小企業としてリソースに制約がある中で、社会的意義が高く自社の強みを活かせる分野を探していたところ、土木事業のネットワークを通じて、視覚障害者用誘導マットと出会いました。

 

そこで気づいたのが、「点字ブロックの凹凸が、車椅子・ベビーカー・キャリーケースを使う人や高齢者にとってバリアになる」という社会的コンフリクトでした。視覚障害のある方のバリアを解消しようとすればするほど、別の人のバリアが増えてしまう。このジレンマを、長年培ってきたゴムのものづくり技術で解決できると確信し、まず製品の販売支援からバリアフリー事業をスタートさせました。

 

現場での導入経験を重ねる中で見えてきた課題である「めくれ・汚れの目立ち・滑り止めの不十分さ」を解消するため、2015年に製品を大幅にアップデート。視覚障害当事者や車椅子ユーザーの意見を取り入れながら、デザインとものづくりの力で改良を重ねた結果が、現在の「歩導くん ガイドウェイ」です。この流れの中で「バリアフリー推進課」を独立部署として設立し、視覚障害者の歩行をサポートする専門部門として事業を本格化させました。

 

製品の開発経緯とコンセプト

視覚障害者歩行誘導ソフトマット「歩導くん ガイドウェイ」

詳細:https://guideway.jp/

開発背景

視覚障害者の多くは、施設内での移動に不安を感じています。入口からインフォメーションまで点字ブロックが設置されていても、その先の洗面所やエレベーターまでの誘導がない施設は少なくありません。また、法令で必要最低限しか設置されていない施設もあります。しかし、誘導ブロック自体がバリアになるという問題で設置が進まないのが事実です。

凹凸による段差が、車椅子・ベビーカー・ヒール靴・キャリーバッグを使う方や高齢者・幼児にとってつまずきや不快感の原因となる場合があるのです。

 

 

製品コンセプトと特徴

「歩導くん ガイドウェイ」は、視覚障害者が白杖でやわらかいマットを確認して目的地にたどり着ける、特殊ゴム素材の幅30cm誘導マットです。全体がスロープ形状で表面に凸部がないため、車椅子・ベビーカー・ヒール靴・点滴スタンドなどの車輪もスムーズに通行でき、誰もが共存できるユニバーサルデザインを実現しています。

 

視覚障害者がどのようにして誘導路を認識するかについては、全盲の方は白杖や足裏の感触・音で、視覚障害者の89割を占める弱視の方は周囲の床との明度差などでも認識します。製品は床材との輝度比を確保するための6色を標準色として用意し、施設のデザインや景観に合わせたカラー選択が可能です。また、表面のグリッドを活用してピクトグラムや文字を貼り付けることで、視覚障害者以外にも有用な床面サインとして活用できます。

 

4つの主な特徴

見つけやすい:全盲の方は足裏・白杖の感触・音で、弱視の方は床とのコントラストなどで誘導路として認識できます。

スムーズ移動:スロープ形状により、車いす・荷運び台車・点滴スタンド・ベビーカーなどの小さい車輪もスムーズに通行できます。

色が選べる:標準色6色から選べるため、コントラストを確保しながら施設の景観に調和したデザイン性のある導入が可能です。

サイン表示:表面のグリッドを利用し、視覚障害者以外にも有用なピクトグラムや文字などを貼り付けられます。

 

設置の簡便さと法的対応

設置は両面テープによる貼り付けのみで、専用工具も大規模工事も不要です。施工初心者でもマニュアルを見ながら安心して設置でき、既存施設への後付けにも対応しています。高齢者・幼児・肢体不自由者がつまずきにくいスロープ形状は、転倒リスクの軽減にも貢献します。

 

また、20244月に施行された「障害者差別解消法」改正により、民間事業者にも障害者への合理的配慮が義務化されました。「歩導くん ガイドウェイ」はその対応策として有効であり、国土交通省からも法的に誘導路として設置可能と確認されています。国際的にもGerman Design AWARD(2018年)、iF GOLD AWARD2016年)、IAUD AWARD2017年)など多数の賞を受賞しています。

 

視覚障害者用トイレ誘導ライン「ガイドレット」

詳細:https://www.kinjogomu.jp/welfare/guidelet.html

開発背景

建物内のバリアフリーが進み、トイレ入口まで点字ブロックが設置される施設は徐々に見受けられるようになってきました。しかし、トイレ内は目印になるものがなく、同伴者がいてもトイレ内では一人で移動したいという強いニーズがあります。視覚障害者を対象とした調査では、約88%の方がトイレ内での移動に「困る」または「時々困る」と回答し、約62%がトイレ内への誘導設備の設置を「必要」と答えています。

 

また2030年には視覚障害者人口が200万人に達すると推定されており、加齢性眼疾患(緑内障・加齢黄斑変性・白内障)の増加とともに、その対応ニーズはさらに高まることが予想されます。トイレはプライバシーが守られる場であるため、一人で移動したいという当事者の意向が特に強く、「単独でトイレを利用できる環境」へのニーズは切実なものがあります。

 

製品コンセプトと特徴

「ガイドレット」は、トイレの入口からトイレブースまでの「ラスト3メートル」を誘導する、幅5cmのゴム製視覚障害者用トイレ誘導ラインです。「ラスト3m」というコンセプトは、多くの施設においてトイレ入口まではアクセスできても、そこからトイレブースまでの誘導がほぼなされていないという実態を踏まえたものです。

 

5cmというサイズは、広いバリアフリートイレの中でも方向性を示すための絶妙なデザインです。幅が広すぎると便器の方向がかえってわかりにくくなるため、この寸法に設計されています(サイズ:D250mm×W50mm×H5mm)。チャコールブラウンとチャコールグレーの2色展開で、施設の床のデザインに合わせて選択できます。

 

施設や店舗で一般的に使用されているトイレ用クッションフロアに、両面テープで貼り付けるだけで設置が完了します。大規模な工事は一切不要で、施工後も通常の清掃作業で対応でき、特別な管理作業は発生しません。素材はゴムのため、一般的な洗剤や水への耐性も備えています。車椅子の通行にも配慮した形状で、バリアフリートイレの環境を損なわずに誘導機能を加えられます。

 

本製品は一般社団法人UD総合研究ネットワークの田中直人理事長および鳥取環境大学環境学部環境学科の老田智美准教授との共同開発チームによって生み出されました。

 

導入事例として、障害者支援施設リホープ(茨城県/福祉施設)が挙げられます。視覚障害者が多く入所する施設であり、バリアフリートイレ内にガイドレットを設置。車椅子利用者と視覚障害当事者が日常的に利用する施設での採用は、ユニバーサルデザイン製品の信頼性を示すものとなっています。

 

錦城護謨株式会社:https://www.kinjogomu.jp/welfare/

コメント

  • 須藤 慎

    記事作成者

    株式会社キャンパスクリエイト・専務取締役・プロデューサー

    本Webサイトの運営担当者です。2005年から、産学官連携や産業振興の業務に携わっています。

    コメント

    今回のインタビューを通じて、視覚障害をお持ちの方にやさしい施設づくりが、こんなにも簡便に実現できるのだという驚きと共感を覚えました。「歩導くん ガイドウェイ」も「ガイドレット」も、両面テープで貼り付けるだけで設置でき、大規模な工事は一切不要です。施設の床のデザインに合わせてカラーを選べる点や、必要な場所に必要なだけ後から追加できる柔軟性は、導入のハードルを大きく下げてくれます。こうした手軽さが、多くの施設でのバリアフリー化を後押しするものだと感じました。
     インタビューの中で特に印象に残ったのは、「点字ブロックも、設置の仕方によっては他の利用者のバリアになってしまう」という言葉でした。一方の課題を解消しようとすることが別の課題を生む。そのジレンマに、長年培ってきたゴムのものづくり技術とデザインの力で向き合ったのが、この製品群の原点です。凹凸のないスロープ形状により、視覚障害のある方も、車椅子ユーザーも、ベビーカーを押す方も、同じ誘導路を安心して歩ける。その発想こそが、インクルーシブな空間の実現につながっていると腑に落ちました。視覚障害当事者や車椅子ユーザーも開発に携わっているという点にも、ユーザーへの真摯な向き合い方が表れています。
     また、トイレ内での誘導が実は大きな課題であることも、今回初めて意識させられました。点字ブロックが整備されていても、トイレの扉を入った先は誘導のない「空白地帯」になりがちです。ガイドレットはまさにその「最後の3メートル」に手を差し伸べる製品です。一人でトイレに行けるという、多くの方が当たり前のようにできることを、視覚障害のある方にとっても当たり前にしていく。その思いに、気づくたびに強く共感が高まっていきました。
     2024年4月の障害者差別解消法改正により、民間事業者にも障害者への合理的配慮が義務化されました。社会的ニーズが高まる中で、「まず試してみる」という感覚でハードルなく始められるのが、これらの製品の大きな魅力です。施設をお持ちの事業者の方には、バリアフリーへの取り組みの第一歩として、ぜひ検討していただければと思います。

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