「着たい服を、あきらめない」—服を通じて、すべての人が自分らしく生きられる社会を目指す—株式会社キヤスク

スタートアップ事例

公開日 

ヒアリング先
株式会社キヤスク代表 前田 哲平 氏

日本全国で約770万人が「着たい服を選べない」という不自由に直面しています。障害や病気のある方向けに、「着たい服を、あきらめない」という理念を掲げ服のお直しサービスを展開しているのが株式会社キヤスクです。個人向けのお直しサービスからアパレル企業との協業まで、インクルーシブな社会実現に向けた取り組みをご紹介します。

 

1. キヤスクのお取り組みのコンセプト、想い

アパレル業界で約20年の経験を持つ代表の前田哲平氏は、独立起業前の2018年から2020年にかけて、障害や病気のある800人以上にヒアリングを行いました。そこで多くの方に共通していた課題が「着たい服を選べない」という現実でした。既製服は着にくい、着やすい既製服があってもおしゃれじゃない、お直しは高いし、そもそも受付してもらえない。こうした声を受けて、前田氏は2021年に独立し、株式会社キヤスクを設立しました。

キヤスクが掲げるコンセプトは明快です。「着やすい服をつくる」のではなく、「着たい服を選びやすくする」ということです。服はすべての人にとって「生活必需品」であり「自己表現の基盤」です。障害があることでそれが享受できないのは明らかにおかしい、その思いがキヤスクの根幹にあります。日本国内で770万人もの方々(若年肢体不自由者65万人、高齢肢体不自由者168万人、要介護認定高齢者537万人)が直面するその課題に、商業的に持続可能な形で向き合い、アパレル産業全体を変えていくことがキヤスクの長期ビジョンです。

キヤスクの取り組みはメディアの取材や各種表彰を多数獲得しており、「インクルーシブ思想を体現する模範例」として社会的に高い評価を得ています。「まずは自分自身が当事者の方から直接知見を獲得し、それを体系化する」というステップを地道に歩んできたことが、キヤスクの信頼性の源泉になっています。

 

2. キヤスクのお直しサービスの概要

キヤスクの個人向けお直しサービスは20223月に開始しました。「世界初、『着たい服を、あきらめない』を実現するサービス」を標榜するこのサービスは、障害や病気のある方が「着たい服」を自宅からオンラインで依頼できる仕組みです。店舗を訪問する必要はなく、ウェブサイトから希望のお直しメニューとスタッフ(キヤスト)を選び、専用チャットルームで詳細を打ち合わせ、匿名配送で服を送ってお直しを依頼するまで全工程をオンラインで完結できます。

サービスの最大の特徴は、当事者のニーズに特化したメニュー構成です。「ティシャツの前開き」(腕の曲げ伸ばしが難しい方向け)、「シャツのボタン留めをマジックテープ留めに変更」(手先が不自由な方向け)、「パンツの褥瘡対策」(車いすユーザー向け)など、一般的なお直し店では受けてもらえないメニューを「普段着からフォーマルまで」幅広く提供しています。

スタッフ(キヤスト)にも独自の工夫があります。障害のあるお子さんのお母さんなど、利用者と同じ悩みを経験してきた人材が在宅フルリモートで動務しており、専門技術と心の両面で寄り添える方が接客からお直しまでを担当します。

 

3. 企業向けの支援サービスと協業のお取り組み

キヤスクは個人向けサービスで得た知見をもとに、現在はアパレル企業や介護服・医療服・制服・チームウェアなど衣服を扱う企業向けの支援サービスを展開しています。サービスの柱は2つです。一つ目が「インクルーシブな服づくり支援」で、商品企画・開発段階から当事者の声を反映し、売れる確率を高めるインクルーシブな服づくりを支援するものです。二つ目が「インクルーシブなアフターサービス支援」で、購入後の顧客に対して公式アフターサービスとしてキヤスクでのお直しを案内できる仕組みを提供するものです。

服づくり支援のポイントは、既存の人気商品のデザインに当事者の声を反映した機能を後付けするというアプローチです。ゼロからデザインを起こすのではなく、現実的かつ効率的にインクルーシブ対応を進めることができるため、企業側のコストやリスクを抑えながら対応を始めやすいのが特徴です。アフターサービス支援も同様で、新たな商品開発や在庫リスクを増やさず、既存の売場と商品構成のままで、購入後の顧客への公式アフターサービスとしてインクルーシブ対応を実現できる点が大きなメリットです。

アパレル業界でのインクルーシブ対応に取り組みたい意思はあるものの、何から始めればいいか、事業としてどう成立させるかがわからない企業にとって、800人以上へのヒアリングと、お直し実績から得た知見、そしてアパレル実務経験20年の代表が培った現場への落とし込み力は、キヤスクが選ばれる理由になっています。

 

株式会社キヤスク:https://kiyasuku.com/

コメント

  • 須藤 慎

    記事作成者

    株式会社キャンパスクリエイト・専務取締役・プロデューサー

    本Webサイトの運営担当者です。2005年から、産学官連携や産業振興の業務に携わっています。

    コメント

    今回のヒアリングを通じて、「着たい服を選べない」という社会課題さを改めて痛感しました。前田代表の姿勢に印象的だったのは、「着やすい服をつくる」ではなく、「着たい服を自分で選べる」ことへのこだわりです。ここには非常に重要な哲学があると思います。どんな服が着たいかという個人の気持ちを常に尊重する姿勢は、利用者の高い満足度に強く表れていると感じました。
    アパレル業界にはインクルーシブ対応に取り組みたいと思っている企業があっても、「何から始めればいいか」「事業として成立するのか」がわからないケースがあります。キヤスクは、既存の商品に機能を後付けするというアプローチで「ゼロからの大規模投資」を不要にし、アフターサービスでは在庫リスクなしで小さく始められる点が非常に実務的だと感じました。
    アパレル産業全体にインクルーシブの視点を定着させる先導的な取組として強く期待しています。              

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