介護現場に「寄り添う時間」を—人型介護助手ロボットを開発するEnacticの挑戦

先端AIロボット事例

関連分野・業種
介護・福祉

公開日 

ヒアリング先
株式会社Enacticヒューマノイド事業部長 内田 耕輔 氏

介護分野の人手不足は日本社会が直面する大きな課題の一つです。自動化やロボット導入への期待が高まる中、株式会社Enactic(エナクティック)は「介護職員が人に寄り添う時間に専念できる世界」を実現するため、人型介護助手ロボットの開発に取り組んでいます。オープンソースの双腕ロボットアーム『OpenArm』は、世界中の開発者コミュニティから注目を集めています。

Enacticとは

株式会社Enacticは、ソーシャルゲーム・フードデリバリー・コンテンツ事業など広範なITサービスを展開する株式会社レアゾン・ホールディングスのグループ企業です。

Enacticはこのグループの新規事業投資として、ロボット事業にフォーカスして独立した事業会社として20257月に設立されました。代表の山本泰豊氏の下、技術者・開発者によるチームが東京都千代田区秋葉原の研究所で開発を進めています。

Enacticは「介護の未来パートナーである人型介護助手ロボットが、介護現場の周辺業務を担い、介護職員が人に寄り添う時間に専念できる世界を創る」ことを目指しています。少子高齢化と介護士の頻繁な離職により深刻化する人手不足に対して、ロボットに介護周辺業務を行ってもらい、介護職員が本来に専念すべき「人との寄り添い」に時間を割く仕組みを目指しています。

OpenArmとは

完全オープンソースの双腕ロボットアーム

OpenArmは、Enacticがリリースした完全オープンソースの双腕ロボットアーム開発プラットフォームです。「人間と共存できる環境で、安全性と実用性を両立する」ことを目指して開発された同プラットフォームは、世界中のエンジニアコミュニティに支持され、国内外の大手機関との協業を実現しています。

技術的特徴として「QDDモーター」の採用が挙げられます。産業用ロボットに使われる強力なモーターは正確な軌道を再現するため、不用意に人間と接触すると大きな力で押し返す危険をもたらします。一方、OpenArmに搭載されるQDDモーターは柔らかい特性を持ち、人間と共存する現場での安全性を大幅に高めています。また、バイラテラル制御(遠隔操作時にロボットが感じた力覚が操縦者に伝わる)機構により、正確かつ安全な作業を実現できます。

人型介護助手ロボットによる介護周辺業務のサポートイメージ

ロボットのスペックと設計思想

介護助手ロボットのスペックは、身長130cm・体重70kg・可搬重量10kgです。ほとんどの介護施設にスムーズに導入できるサイズ設計です。生地と木目調デザインは施設の雰囲気を考慮し、利用者に心理的な不安を与えない配慮がなされています。

ロボットが担う介護周辺業務

多数の介護事業者へのヒアリングと現場調査を重ねて特定したロボットが担う業務は、大きく4分類に整理できます。

生活支援系:配膳/食事介護準備、選択/衣類の整理、荷物受け取り、ベッドメイキングなど

安全・見守り系:夜間巡視、安否確認、消耗品チェック、設備点検など

衛生・管理系:ゴミ出し/分別、トイレ清掃/消耗品補充、消毒/感染症対策作業、リネン類の管理など

利用者サポート系:利用者との会話、体操の誘導、レクリエーションの準備/片付けなど

 

これらの業務の多くは現在、少数の介護士が両立しながら対応しています。ロボットがこうした周辺業務を行うことで、介護士は利用者との信頼関係構築や心身ケアに集中できる環境を実現することが期待されています。

 

株式会社Enactichttps://enactic.co.jp/

コメント

  • 須藤 慎

    記事作成者

    株式会社キャンパスクリエイト・専務取締役・プロデューサー

    本Webサイトの運営担当者です。2005年から、産学官連携や産業振興の業務に携わっています。

    コメント

    ヒアリングを通じて、フィジカルAIの発展が介護分野の課題解決につながっていくという未来像を感じることができました。介護現場では、職員が重要なケアに集中する時間を確保できないまま周辺業務に追われている実態があります。配膳、清掃、夜間巡視などの周辺業務をロボットが代替することで、介護士が本来の「人に寄り添う」仕事に専念できる世界を目指すEnactic様のアプローチは、非常に理にかなった問題設定だと感じました。
    また、オープンソースであることのメリットとプロダクトの意義も、個々の業務ユースケースに沿ったロボットを開発・導入させていく上でのフレキシビリティ/カスタマイズ性の担保という意味でも納得感があるものでした。設計データを公開し、世界中のエンジニアや事業者が同じプラットフォーム上でカスタマイズを行っていく構図は、技術成熟のスピードを大幅に高める戦略として納得できます。
    人手不足課題の解決やQoLの向上という文脈でフィジカルAIを活用していく道筋を描く上で、OpenArmは非常に使いやすいプロダクトと感じました。安全性を考慮した柔らかいモーター設計、介護現場に配慮した外観、筋身の不自由な利用者との共存を意識した設計と、技術面だけでなくヒューマンケアの現場ニーズを理解した開発姿勢が、実際の導入への信頼性を高めています。介護分野のフィジカルAI活用に興味のある方は、まずはEnactic様の取り組みに注目いただくことをお勧めします。

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