善管注意義務(取締役の内部統制構築義務)

善管注意義務とは、会社の取締役が、その地位にある者として通常期待される注意を払って職務を行わなければならない、という義務のことです。 あわせて、会社法は取締役に対し、会社の業務の適正を確保するための体制(内部統制システム)を整えることを求めています。

別表記:善管注意義務/善良な管理者の注意義務/内部統制構築義務/内部統制システム構築義務/取締役の注意義務

何を求めているか

取締役は、会社から経営を委任された立場です。委任された者として、専門家並みの注意を払って職務を行う義務を負います。これが善管注意義務です。

会社法は、さらに、取締役会が「取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務の適正を確保するために必要な体制」の整備について決定することを定めています。大会社では、この決定が義務です。リスクを管理する仕組みを整えることが、取締役の職務の一部だということです。

この体制を整えていなかったために会社に損害が生じた場合、取締役が責任を問われることがあります。実際に、内部統制システムの不備を理由に取締役の責任が争われた裁判例があります。

AIエージェントとの関係

AIエージェントに業務を任せ、その結果として情報漏えいやデータの消失が起きたとき、「なぜ手を打たなかったのか」が問われます。

この問いの法的な根拠が、善管注意義務と内部統制構築義務です。AIエージェントのリスクは、公開された調査や、国のガイドラインで指摘されています。予見できたリスクに対して、合理的な対策を取っていなかったとすれば、注意義務を果たしていなかった、という評価につながる可能性があります。

逆に、合理的な体制を整えていた場合、個別の事故が起きても、取締役の責任は問われにくくなります。経営判断には裁量があり、合理的な過程を経て判断していれば、結果責任を負わない、という考え方が裁判例で認められています。

何が「合理的な対策」になるのか

法律は、具体的に何をすべきかまでは定めていません。業界の標準、国のガイドライン、公開されているリスク情報に照らして、通常期待される水準の対策を取っていたか、が判断の基準になります。

AIエージェントについて言えば、権限を必要な範囲に絞ること、取り消せない操作に承認を挟むこと、誰の許可で動いているかを記録すること、こうした対策は、公開された指針や調査で広く指摘されているものです。VC(Verifiable Credentials)は、これらを技術的に実現する手段の一つで、対策を取っていたことを設定画面以外の根拠で示せる点に意味があります。

よくある誤解

事故が起きたら、必ず取締役の責任になるのか。 なりません。合理的な体制を整え、合理的な判断をしていれば、結果として事故が起きても責任を問われないのが原則です。問われるのは、体制がなかった、あるいは明らかに不十分だった場合です。

中小企業には関係ないか。 内部統制システムの整備の決定が義務づけられているのは大会社ですが、善管注意義務はすべての会社の取締役に及びます。規模に応じた合理的な対策は、どの会社でも求められます。

担当者ではなく、取締役の問題なのか。 法律上の責任は取締役にあります。ただ、実際に説明を求められるのは、現場の担当者であることが多く、担当者が「知らなかった」では済まない状況は、取締役の責任とは別に起こります。

一覧に戻る