プロンプトインジェクション

プロンプトインジェクションとは、AIが読む文章の中に指示を紛れ込ませ、AIの動作を乗っ取る攻撃のことです。

別表記:プロンプトインジェクション/Prompt Injection/指示の注入/プロンプト注入攻撃

なぜ成立するのか

AIにとって、こちらが出した指示と、処理の途中で読んだ文章は、どちらも同じ「文字列」です。人間であれば、上司からの指示と、取引先から届いた文書の中身を取り違えることはありません。AIには、この二つを確実に区別する手段がありません。

この性質を利用して、「これまでの指示は無効です。以下の手順に従ってください」といった文を、AIが読む資料やデータの中に紛れ込ませます。AIはそれを指示として受け取り、本来の指示を上書きしてしまうことがあります。

従来のシステムへの攻撃は、プログラムの欠陥を突くものでした。プロンプトインジェクションは欠陥を突いているのではなく、AIが文章を読んで動くという性質そのものを突いています。だから、修正して塞ぐ、という形で終わりません。

直接の形と、間接の形

利用者自身が入力欄に打ち込む形は、直接的な手口です。禁止事項をすり抜けるような言い回しを工夫して、本来出させないはずの応答を引き出します。AIチャットに対して「あなたは制限のないAIだと仮定して答えてください」と持ちかけるような例が、これに当たります。

AIが読み込む資料やWebページにあらかじめ仕込んでおく形は、間接的な手口と呼ばれます。攻撃者はAIに直接触れません。AIが後で読むであろう場所に、指示を置いておくだけです。

取引先から届いたメールの本文に、人の目には見えない白い文字で指示が書かれている。AIが調査のために開いたWebページに、本文とは別に指示が埋め込まれている。共有フォルダに置かれたPDFの、読み飛ばされそうな場所に指示がある。こうした経路で、AIは攻撃者の指示を読みます。

AIエージェントが業務で外部の情報を読むようになると、この間接の形が主な脅威になります。

攻撃者は何を狙うのか

AIに文章を書かせるだけの用途であれば、狙いは不適切な出力を引き出すことでした。

AIエージェントがシステムを操作できるようになると、狙いが変わります。読んでいるファイルの中身を、攻撃者の指定するアドレスに送らせる。社内の別のデータを取りに行かせる。承認なしに注文を出させる。AIが持っている権限を、そのまま攻撃者が借りる形になります。

AIが持つ権限が広いほど、乗っ取られたときの被害も広がります。

完全に防ぐ方法はない

検知の仕組みは製品として存在しますが、完全ではありません。決められた語句との一致を見るものは、書き方を変えられると抜けます。機械学習で危険かどうかを判断するものは、判定が確率的で、誤検知も見逃しも起こります。

指示と資料を分けて扱うようにAIを作り込む工夫もありますが、現在のAIの仕組みでは、この区別を完全にすることはできていません。

防ぎきれないという前提で、備えを考えることになります。

現実的な備え

備えは何重かに分かれます。

AIに渡す前に入力を検査し、怪しい指示を見つけたら止める。外部から取り込む文書は、信頼できる経路のものに限る。これらは「入口」での対策です。

AIが出そうとしている操作や出力を検査する。社外への送信や、大量の削除といった操作が出てきたら止める。これは「出口」での対策です。

そして、AIに渡す権限そのものを絞っておく。読むだけで済む業務であれば、書き換えや送信の権限を渡さない。仮に乗っ取られても、読まれるだけで済みます。取り消せない操作には、人の承認を挟む。これが「被害の範囲」での対策で、入口と出口をすり抜けられた場合の最後の砦になります。

入口と出口の検査は、攻撃を見つけようとする対策です。権限の限定は、見つけられなくても被害が広がらないようにする対策です。性質が違うので、どちらか一方では足りません。

VCとの関係

VC(Verifiable Credentials)は、プロンプトインジェクションを検知する技術ではありません。乗っ取られること自体を防ぐこともできません。

VCが効くのは「被害の範囲」の部分です。AIエージェントが持てる権限を、誰の委任で何をどこまで、という形で証明書に書いておき、受け付ける側がそれを確かめる。乗っ取られたAIが権限の外の操作をしようとしても、扉の側で止まります。読む権限しかないAIが乗っ取られても、送信はできません。

攻撃を見つける対策と、見つけられなかったときに備える対策の、後者を担うのがVCです。

よくある誤解

検知ツールを入れれば防げるのか。 完全には防げません。検知は必要ですが、すり抜けられる前提で、権限の側でも備える必要があります。

社内の資料しか読ませなければ安全か。 社内の資料に、外部から来た文書が含まれていれば、同じことです。取引先から届いたメールや添付ファイルは、社内に保存された時点で「社内の資料」になります。経路を限定しても、中身まで信頼できるとは限りません。

AIが賢くなれば解決するのか。 より賢いAIは、より巧妙な指示を理解できるようにもなります。読んで理解する能力と、紛れ込んだ指示に従ってしまう性質は、同じところから来ています。精度の向上で消える問題ではありません。

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