超伝導コイルを用いた液体水素向け静止型磁気冷凍技術
技術・ノウハウの基本情報
| 組織・研究者 | 自然科学研究機構 核融合科学研究所 研究部 超伝導・低温工学ユニット 平野直樹 教授 |
|---|---|
| 種類 | 大学の技術・ノウハウ |
| 分野 | その他 |
| 概要 | 液体水素の保管等に必要な極低温では、従来のヒートポンプなど、気体の圧縮膨張を原理とする冷凍機は冷却効率が低く、設備の大型化や高コスト化が課題となっています。 自然科学研究機構 核融合科学研究所 平野直樹教授は、強い磁場を発生できる超伝導コイルを用いた静止型磁気冷凍システムを開発しています。従来の超伝導磁気冷凍では、磁場変化のための駆動機構や大型のコイル励磁電源が必要でした。本技術では、超伝導コイルに蓄えたエネルギーを活用して複数のコイルを励磁・消磁し、磁石や磁気作業物質を動かすことなく磁場を変化させます。これにより、駆動系や電源を簡略化し、コンパクトで省エネルギーな磁気冷凍システムを実現します。 |
【背景】
水素は、利用時に二酸化炭素を排出しないクリーンエネルギーとして期待されており、将来的なエネルギーインフラの中核を担うことが期待されています。その一方で、水素を大量に貯蔵・輸送するためには高いエネルギー密度を実現できる液体水素として保管することが望ましく、そのためには約20K(約−253℃)という極低温を維持する必要があります。この温度域では従来の気体冷凍機は冷却効率が低く、設備の大型化や消費電力の増加が課題となっています。そのため、より高効率な冷却方式として、磁気作業物質に磁場変化を与えて冷却する磁気冷凍の応用が期待されています。
▼磁気冷凍の基本原理
室温域では、永久磁石と磁気作業物質の位置関係を機械的に変化させる磁気冷凍装置が開発されています。しかし、液体水素の冷却など、極低温域で大容量の冷却を行うには、永久磁石では十分な磁場強度を得ることが難しく、より強い磁場を発生できる超伝導コイルの利用が必要となります。
一方、超伝導コイルを用いる従来方式では、磁場を変化させるための駆動機構や、コイルを励磁・消磁するための大型電源などが必要となり、装置の大型化や消費電力の増加が実用化に向けた課題となっています。
【技術内容】
本技術では、複数の超伝導コイルを組み合わせ、それぞれが発生する磁場を重ね合わせることで、磁気作業物質に加わる磁場を変化させます。
複数のコイルが同じ方向の磁場を作れば、それぞれの磁場が足し合わされて強い磁場になります。反対に、互いに逆方向の磁場を作れば磁場が打ち消し合い、弱い磁場になります。これを利用して、各コイルに流す電流の大きさや向きを切り替えることで、コイルや磁気作業物質そのものを動かさずに、「強い磁場」と「弱い磁場」を繰り返し作り出します。
また、磁場を切り替えるために必要なエネルギーを毎回外部から供給するのではなく、超伝導コイルに蓄えられたエネルギーを再利用します。超伝導コイルは、超伝導状態では電気抵抗がないため、電流を維持するための電力消費を抑えながら、電気エネルギーを磁気エネルギーとして蓄えることができます。
本技術では、この特性を活かし、超伝導コイル、コンデンサー、スイッチを組み合わせ、コイルとコンデンサーの共振を利用してエネルギーを相互に移動させます。コイルの電流を減らす際には、蓄えられていた磁気エネルギーをコンデンサー側へ移し、再び電流を増やす際には、そのエネルギーをコイル側へ戻します。一度蓄えたエネルギーを捨てずに繰り返し利用することで、外部からの大きなエネルギーの出し入れを抑えながら、磁場を繰り返し切り替えることが可能です。
また、スイッチによって磁場変化と熱交換媒体の往復運動のタイミングを合わせることで、冷却と放熱を繰り返します。これにより、機械的な駆動機構や大型の励磁電源を簡略化し、コンパクトで省エネルギーな磁気冷凍システムの実現を目指しています。
実用化に向けては、超伝導コイルのAC損失を測定・解析し、システム全体の冷却効率や実現可能性についても評価を進めています。
【技術・ノウハウの強み(新規性、優位性、有用性)】
・磁石や磁気作業物質を機械的に移動させない静止型磁気冷凍方式であり、可動部のないシステム構成が実現可能
・高温超伝導コイルへの通電制御のみで磁場を変化させるため、従来の駆動機構を簡素化し、高い信頼性や保守性の向上が期待できる。
・超伝導コイルのエネルギー貯蔵特性を活用し、コイル間で電流を転流させることで、磁場変化に必要な外部エネルギーの低減可能な独自のシステム構成。
・超伝導コイルのAC損失を測定・解析による、実用化に向けた設計・評価技術を有する。
【連携企業のイメージ】
水素エネルギー関連企業
液体水素の製造・貯蔵・輸送設備への適用を通じて、省エネルギー化や水素損失低減を目指す企業
極低温機器・冷凍システムメーカー
磁気冷凍システムの製品化や既存冷却システムとの組み合わせを検討する企業
超伝導機器・電力機器メーカー
超伝導コイルや電流制御技術を活用し、超伝導応用機器やエネルギー貯蔵システムの開発を進める企業、電力安定化用貯蔵システム冷却用
プラント・システムインテグレーター
水素関連プラントや極低温設備への組込み、実証設備の設計・構築を担う企業
新規用途・共同研究パートナー
極低温冷却を必要とする産業分野で、新たな用途開発や実証試験を共同で進める企業
【技術・ノウハウの活用シーン(イメージ)】
液体水素の貯蔵・輸送システム
液体水素タンクや再凝縮装置に適用することで、省エネルギーな極低温維持に貢献。
水素サプライチェーン関連設備
水素製造設備、液化設備、輸送・供給設備などにおける高効率な極低温冷却技術
超伝導機器の冷却システム
超伝導マグネットや超伝導電力機器など、極低温環境を必要とする装置の高効率冷却への応用
先端研究・大型研究設備
核融合装置や加速器、量子コンピューターなどの冷却システムへの展開。
次世代エネルギー・宇宙分野
液体水素などの極低温流体を利用する宇宙機器や先端エネルギーシステムなど、極低温技術が求められる分野への応用
【技術・ノウハウの活用の流れ】
以下は、連携をスタートする時の参考例です。実際には連携の流れは様々です。
Step1.NIFSにあるデモ装置で性能確認、または過去の研究成果の紹介
Step2.その後、企業の用途に合わせた研究開発を共同で実施
Step3. 研究成果を実装した試作機開発
【専門用語の解説】
超伝導コイル:低温にすることで電気抵抗がゼロになる超伝導線材で巻いたコイル。大電流を流しても発熱せず、強力な磁場を効率的に発生できるため、MRI装置や核融合装置などにも用いられています。
静止型磁気冷凍:磁石や磁気作業物質を機械的に動かすことなく、コイルへの通電制御だけで磁場を変化させて冷却を行う方式。従来の磁気冷凍のように可動部を持たないため、故障しにくく保守性に優れています。
磁気作業物質:磁場をかけたり取り除いたりすると温度が変化する性質(磁気熱量効果)を持つ磁性物質。磁気冷凍では、この物質に磁場変化を与えることで熱を吸収・放出させ、冷却サイクルを作り出します。
励磁・消磁:コイルに電流を流して磁場を発生させることを「励磁」、電流を減らして磁場をなくすことを「消磁」といいます。本技術では複数のコイルの励磁・消磁のタイミングを制御することで、磁石やコイル自体を動かさずに磁場の強弱を作り出しています。
AC損失:超伝導体に直流電流を流す場合は、超伝導状態では電気抵抗はゼロですが、交流電流や変動する磁場が加わると、渦電流やヒステリシスなどに起因するエネルギー損失が生じることがあります。この損失をAC損失(交流損失)といい、冷却効率を左右するため実用化に向けた重要な評価項目となります。





