ロボットに「心」を宿す感情解析技術 ――日本発・KIBI理論が拓く、人に寄り添うフィジカルAIの世界

基盤技術・サービス

関連分野・業種
介護・福祉、小売・店舗、サービス・施設運用、公共

公開日 

ヒアリング先
株式会社エモーショナル・テクノロジーズ代表取締役CTO 山本 洋平 氏

株式会社エモーショナル・テクノロジーズは、15年以上の産学共同研究によって培った独自の感情解析技術「KIBI理論」を核としているスタートアップです。本記事では、同社の感情解析技術の概要と強み、他のデータとの連携が生む価値、そしてロボット・フィジカルAIへの活用イメージをご紹介します。

1. 感情解析技術とは何か

「空気を読む」をAIで実現する

日本では古くから「空気を読む」という文化が根づいています。言葉として表に出てこない相手の感情や意図を察し、適切に対応する能力は、日本社会において特に重視されてきました。

現在のAIは論理的なタスク処理では目覚ましい成果を上げています。一方で、こうした「心の機微」を理解することは大きな課題として残っています。AIやデジタル技術が進化するほど、人間同士、そして人間とAIとの間のコミュニケーションギャップがむしろ深刻化するというパラドックスも生じています。

感情解析技術とは、表情・声・発話内容といった複数の情報からリアルタイムに人の感情状態を推定・定量化する技術です。テキストや属性情報(性別・年齢・職業など)、行動履歴といった外形情報だけでは捉えきれなかった「人の感情・表情・動作」をAIで可視化し、コミュニケーションや意思決定の精度を高めることが目的です。

フィジカルAIでは、ロボットが人に寄り沿うことが求められていくと考えられます。介護・接客・製造現場といった「人が主役であり続ける領域」でロボットが十分に受け入れられる上で、感情解析技術は重要なキーテクノロジーになると期待されます。

2. KIBI理論が生む、世界初の感情解析エンジン「KDE」の強み

15年以上の産学共同研究が生んだ「KIBI理論」

エモーショナル・テクノロジーズの感情解析技術の核心は、独自の「KIBI理論」にあります。同社は2012年より感情の定量化手法の研究開発に着手し、東京大学・東京工科大学・千葉工業大学などとの産学連携によって感情データの収集を続け、2022年にKIBI理論を確立。翌2023年に会社を設立しました。

KIBI理論は、人の繊細な心の動きを捉え、多様な感情を定量化する試みです。15年以上の基礎研究を通じて35万件以上のデータを蓄積し、感情解析精度80%を達成しています。

マルチモーダル×40感情指標:他社を圧倒する解析力

同社の感情解析エンジン「KDE(KIBI Dynamics Engine)」の最大の特徴は、声・表情・発言の3つのモーダルを同時並列に解析する「マルチモーダル解析」と、業界最多水準の「40感情指標」への対応です。

  • 声(音量・スピード・トーン):話し声の高低・速度・音量などから感情状態を推定します。
  • 表情(眉・目線・口元・変化の大きさ):顔の筋肉の動きや姿勢変化を詳細に分析し、非言語的な感情表現を読み取ります。
  • 発言(発話内容・行間・文脈):言葉の意味だけでなく、言葉と言葉の間合いや文脈から、言外の意図やストレスを検知します。

競合他社と比較すると、解析できる感情数としてKDEは40以上の感情指標に対応しています。単一の情報源に依存するAIとは異なり、隠れたストレスや感情の濃淡まで高精度に検知できる点が大きな差別化要素です。

日本的コンテクストへのチューニング:ハイコンテクスト文化への対応

KDEのもう一つの強みは、「婉曲表現」「沈黙」「遠慮」といった日本特有のハイコンテクストなコミュニケーション文化にチューニングされている点です。欧米で開発されたAIが苦手とする「言葉にしない感情」を読み取る能力は、日本市場を起点にアジア圏・高コンテクスト文化圏へと展開できる競争優位です。日本で「空気を読む」AIとして磨かれた技術は、グローバルスタンダードになりうると同社は考えています。

3. 感情データと他データとの連携が生む価値

「モデリング技術」による暗黙知の形式知化

感情解析技術の価値は、感情データ単体にとどまりません。行動データや業務データと掛け合わせることで、これまで「勘や経験」に依存してきた暗黙知を形式知化する「モデリング技術」が生まれます。

同社の取り組み事例を見ると、その応用範囲の広さがわかります。

  • コールセンター・カスタマーサポート:顧客とオペレーターの感情交流を通話ログで解析し、優秀なオペレーターの対話術を抽出。顧客満足度の向上・解約防止・離職防止に貢献します。
  • 営業・セールス:オンラインセールス時の感情交流を可視化し、「なぜ契約できたか・できなかったか」を定量的に把握。営業ノウハウを組織知として蓄積・再現できます。
  • マーケティング:コンビニやドラッグストアのAIカメラに感情解析ソフトウェアを組み込み、顧客ニーズの把握・新たな顧客価値の発見・空間最適化を実現します。

属性・行動・感情の三層統合がもたらす意思決定の革新

従来のCX・UX向上の取り組みは、属性情報(性別・年齢・職業など)と行動・購買履歴の組み合わせが中心でした。ここに感情・表情・動作という「人の内形情報(Emotional data)」を加えることで、なぜその行動をとったのかという「動機の層」にまで踏み込んだ分析が可能になります。これは、単なる「何をしたか」の記録から、「どのような心理状態でそれをしたか」という深層理解へのパラダイムシフトです。

4. ロボットへの感情解析技術の組み込みと活用イメージ

 

例えば、下記のような用途への市場展開・普及を目指しています。

介護・医療における活用:利用者の「不安」を察知する

介護・医療の現場では、利用者の状態変化を早期に検知し、スタッフの負担を軽減することが急務です。KDEをロボットに組み込むことで、声のトーンや表情の微細な変化から利用者の不安を検知し、状況に応じて声かけのトーンを変える「配慮のある介入」が実現します。従来の物理的な見守りセンサーでは捉えられなかった心理状態の変化を、感情解析技術によって可視化できます。

接客・公共サービスにおける活用:「戸惑い」を察知し、自らサポート

接客・公共サービスの分野では、多言語案内やクレームの予兆検知、日本的なおもてなしの実現が課題です。感情解析を組み込んだロボットは、相手の戸惑いや困惑を察知して自らサポートを申し出ることができます。窓口対応や商業施設での案内業務において、単なる情報提供にとどまらない「心に響く」対話が可能になります。

まとめ

フィジカルAIの進化は著しいですが、人に寄り添う存在になるためには「感情を読む力」が不可欠です。超高齢社会・少子化・労働力不足という構造的課題に直面する日本は、世界に先駆けて「人とロボットの共生」を実装しなければならない「課題先進国」です。エモーショナル・テクノロジーズは、日本で培った感情と対話の技術を武器に、世界のロボティクスの方向性をシフトさせる挑戦を続けています。

 

株式会社エモーショナル・テクノロジーズ

URL:https://emotional-tech.jp/

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