国士舘大学 理工学部 理工学科 機械工学系 准教授

佐藤 公俊

  • ものづくり
  • エネルギー

表面冷却内部溶融式レーザ樹脂溶着技術

複数のプラスチック部材要素を一体化させる技術は、接合面付近を溶融して一体化する熱溶着に限っても、熱板・熱風接合や、振動溶着など多く存在する。

これらは、概して局所を狙って溶着する技術ではないため、小型・精密な部品に対しては適用に難があり、また、過熱による表面熱損傷やガス化の影響がある部材にはとりわけ温度制御が必要であるが、既存の技術はその対応に劣る。一方、現在普及している近赤外線の半導体レーザを用いての樹脂溶着法は、接合する樹脂部材の一方はレーザを吸収させるために有色(赤外線に対して)にしておかねばならない制約があり、同種の樹脂をそのまま溶着することは不可能である。

しかし、そのような着色を嫌う同種材料溶着の場面が多い半導体製造装置部品や医療機器などで使用されているフッ素系樹脂、オレフィン系の樹脂同士の溶着に困難を極めている。これに対し、精密・クリーンな接合加工ができるものと期待される、赤外線レーザ(主に1.9ミクロン以上の波長)を用いる新しい溶着方法「表面冷却内部溶融式(ヒートシンク式)レーザ樹脂溶着」を提案した。
この「表面冷却内部溶融式レーザ溶着」の具体的なメカニズムを順に説明する。

①赤外線レーザに吸収を示す2枚の樹脂部材を重ね合わせ、その上に光学結晶素材の「レーザ透過ヒートシンク」を設置する。この「ヒートシンク」は、照射されるレーザを透過しながら部材を保持する型である一方、部材で発生した熱を放散し、過熱を抑える役割を担う。

②「ヒートシンク」を置いた側からレーザを照射する。レーザは1層目の樹脂部材により吸収されて熱に変わり瞬時に周囲を溶融していく。

③1層目の樹脂部材の表面近くで発生した熱は、隣り合う「ヒートシンク」へ熱伝導により移動する。それで樹脂部材表面の温度上昇が抑えられ損傷が発生せずに内部を溶融できる。

④部材平面の任意の軌跡にレーザを走査させて部材を溶着できる。レーザが移動した直後に溶融箇所は固化し、待機時間は不要で高速加工が可能である。

当該技術は、基本的に、素材として赤外線吸収性のある熱可塑性樹脂であれば溶着可能である。

これまでにポリエチレンやポリプロピレンといった汎用樹脂をはじめ、ポリカーボネート、アクリル、PETなどの透明素材や、更に高融点のスーパーエンジニアリングプラスチック(PPS, PSF, PEEK, LCPなど)まで幅広く溶着実績が有る。

 

その中で最も注力しているのはフッ素樹脂の溶着である。フッ素樹脂は撥水・耐熱・耐食性が高く半導体製造装置中の薬液配管に多く用いられる。

上記の特徴の裏返しとして接着剤が使えない高融点の難接合素材であるフッ素樹脂製部品の熱溶着加工に対して、作業環境と品質を向上させ、さらに製品設計・成形自由度を上げるため、上述の伝熱技術を応用した「表面冷却内部溶融式レーザ溶着」により、過溶融による形状変形を発生させることなく平滑な外形仕上げを可能にし、かつ、過熱による発泡粉塵発生も回避してクリーン度を保つ樹脂溶着工法を確立することを目的として研究開発を進めている。

これまで、薬液配管に多く用いられるPFA(パーフルオロアルコキルアルカン)を中心に、PFAどうしの溶着の諸条件(重ね合わせ溶着が可能な部材肉厚、肉厚毎の溶着条件範囲(レーザ照射強度・速度)、溶着加工時付与圧力など)の把握を行っい、実用に叶うかの評価を産業界と共同で行っている。更にそれ以外のフッ素樹脂(FEP, PVDF, ETFE, PCTFE, PTFE)についても適用を拡大している。

また、本技術を早期に本格的実用化するために、研究活動を関係企業・大学の協業による相乗効果で飛躍させ、さらなる幅広い展開を図る目的で、2008年より「先端レーザ樹脂溶着技術・推進コンソーシアム(Consortium on Development and Promotion for Laser Advanced Welding of Plastics、略称LAWPコンソーシアム)」を発足させ(2018年より一般社団法人)、会員各社が相互に連携して、課題の改善・応用技術の研究等を共同で取り組んでいる。

▼先端レーザ樹脂溶着技術・推進コンソーシアムHP
https://www.campuscreate.com/law/index.html