トレンド・業界情報
グローバル・スタートアップ・キャンパスの動向と整理
はじめに
「グローバル・スタートアップ・キャンパス」(以下、GSC)が「ステアリング・コミッティ」の設置に伴い本格的に動き始めています。GSCは、内閣府が中心となって推進している、世界中のスタートアップの創業・成長を支援するためのプラットフォームおよび拠点です。GSCは、スタートアップエコシステムの強化と国際競争力の向上を目的に、海外の優秀な起業家やスタートアップを日本に呼び込み、成長支援を行うことを軸にしています。
背景と目的
日本は長年にわたり、イノベーションやベンチャービジネスの育成に課題を抱えてきました。特に、グローバル市場での競争力強化や海外からの投資・人材誘致が重要な課題となっています。
こうした状況を踏まえ、内閣府は「グローバル・スタートアップ・キャンパス」を設立し、次のような目的を掲げています。
1. 海外スタートアップの日本誘致
海外の有望なスタートアップや起業家を日本に招聘し、国内経済の活性化とイノベーション創出を促す。
2. スタートアップエコシステムの国際化
国内外のスタートアップ、投資家、支援機関を結びつけ、国際的な連携を強化する。
3. 多様な人材の集積と交流促進
海外からの起業家や専門人材の受け入れを促進し、多文化共生の環境で新たなビジネス創出を支援。
4. 成長支援と資金調達の促進
スタートアップの成長段階に応じた支援プログラムや資金調達機会を提供し、事業拡大を後押し。
主な取り組み内容
GSCは、単なる物理的な拠点の提供にとどまらず、多様な支援策を組み合わせてスタートアップの成長を加速しています。
1. インキュベーション施設の提供
GSCは、東京都内を中心にスタートアップが活動しやすいオフィススペースやコワーキングスペースを提供します。これにより、海外から来た企業がすぐに事業を開始できる環境を整備しています。
2. ワンストップ支援体制
起業に必要な各種手続きや相談を一元的にサポートする窓口を設置。ビザの取得支援、法務・税務相談、資金調達のアドバイスなど、多面的な支援をワンストップで受けられる体制を構築します。
3. 資金調達支援
GSCは、日本のベンチャーキャピタルや大手企業との連携を強化し、海外スタートアップに対して資金調達の機会を提供します。また、内閣府や関連機関による助成金や補助金制度の案内も行い、資金面のハードルを下げる取り組みを進めます。
4. グローバルネットワーク構築
GSCは、海外のスタートアップコミュニティやインキュベーター、アクセラレーターと連携し、世界各地の起業家と日本のエコシステムをつなぐ橋渡し役を果たします。これにより、日本のスタートアップが海外市場へ展開しやすくなる環境づくりも推進します。
5. 人材交流・コミュニティ形成
多様な国籍やバックグラウンドを持つ起業家が集うことで、異文化交流や知識共有の場を提供。定期的なイベントやセミナー、ワークショップを開催し、コミュニティの活性化を図います。
GSCには様々なニュース報道やWebによる議論がなされていますが、参照すべき情報について、下記のとおり整理します。
GSCに関する参考情報
グローバル・スタートアップ・キャンパス ホームページ(内閣府)
グローバル・スタートアップ・キャンパス ホームページ(内閣府)
→ https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/campus/index.html
※ホームページ上では、GSCについて下記のとおり説明しています
日本政府は、「グローバル・スタートアップ・キャンパス構想」において、グローバルな社会課題の解決と国内の経済成長を目指し、ディープテック分野におけるイノベーションとスタートアップのエコシステムの構築に取り組みます。
東京都心(渋谷・目黒)にフラッグシップとなる拠点を創設し、スタートアップ創出の種となる発見や技術の研究開発とこれらの成果を活用した事業化支援を切れ目なく実施します。
フラッグシップ拠点には世界中からトップの研究者や投資家などが集まりスタートアップ創出へ向けた様々な取組が行われるほか、国内外のスタートアップ拠点とも有機的に連携することで、世界と日本をつなぐ窓口となります。
「グローバル・スタートアップ・キャンパス構想」は、世界を席巻する国内発のディープテック・スタートアップを創出することで、社会的インパクトを生み出します。
推進にあたっては、初期の活動として「ステアリング・コミッティ」が設置されています。
グローバル・スタートアップ・キャンパス構想に関するステアリング・コミッティ
グローバル・スタートアップ・キャンパス構想に関するステアリング・コミッティ
グローバル・スタートアップ・キャンパス(以下、GSC)構想では、国内外の優秀な研究者、スタートアップ、ベンチャーキャピタル(VC)・アクセラレーター・企業を呼び込み、我が国全体のイノベーション・エコシステムの変革を促進し、世界最高水準のイノ ベーション・エコシステムのハブを構築することをミッションとしている。
世界から優れた人材・投資を集める呼び水となるよう、海外大学等とも連携し、
①研究者・投資家等の集積に向けた国際研究、
②事業化支援、
③人材育成(フェローシップ)
を先行的活動として一体的に実施し、これらの取組を通じて、本構想の実現に向けた取 組の具体化・高度化につなげるとともに、ステークホルダーとのパートナーシップを構築する。
「グローバル・スタートアップ・キャンパス構想 先行的活動に関する実施方針(令和 7年6月10日、内閣官房グローバル・スタートアップ・キャンパス構想推進室長決定)」 に基づく先行的活動のプログラム全体の運営、その他GSC構想の推進に係る事項について助言を得るため、外部有識者からなるステアリング・コミッティ(以下、コミッティ) を設置する。
グローバル・スタートアップ・キャンパス構想 先行的活動について
グローバル・スタートアップ・キャンパス構想 先行的活動について
→ https://www8.cao.go.jp/cstp/campus/steering_committee/1kai/sanko2.pdf
※ポイントとしては下記のとおりです。
PDF2ページ目|日米比較(ディープテックスタートアップの立ち上げ・育成)▼
海外のエコシステムに対して日本のエコシステムは下記のとおりまとめられています。
「世界のエコシステムにつながっていない」
⇒ニーズが必ずしも十分に把握できていない/ヒト、カネを惹きつけるテーマの設定が不十分
⇒仮にテーマ設定や創業ができたとしても世界に売り出せない(大学等でのグローバルレベルの支援が不足)
⇒ディープテック創業に必要なPhD-CEOが育っているとは言えない状況
⇒日本の内でもエコシステム形成の視点が脆弱(つなぐ視点が脆弱)
PDF3ページ目|GSCの目指す姿と3つの事業▼
下記3つの事業を通じて、世界のエコシステムとつながるハブの構築 (グローバル・スタートアップ・キャンパス)を目指す姿としています。
①研究者等の集積へ向けたテーマ型国際研究
海外大学等と連携した、世界の研究者、起業家、投資家の呼び込み
②事業化支援
研究者やスタートアップを対象に、世界水準のメンタリング/コミュニティ形成/海外VCへ接続/ギャップファンド等の支援
③人材育成(フェローシップ)
起業意欲の高い若手研究者等を対象に、日本と海外で派遣・受入プログラム提供
PDF5ページ目|事業モデル① 研究者・投資家等の集積へ向けた国際研究プログラム▼
グローバルな人材や資金を呼び込むべく、社会的インパクトの高い革新的テーマの下、 海外大学等とも連携した国際研究を実施。
以下の特徴を有するプログラムを構築 ・世界の研究者や企業にとって魅力的な、ディープテック分野の革新的テーマ設定。
・事業化を見据えたマネジメントを行うVD(Venture Director)がスピーディーに意思決定
・インダストリーアドバイザー(関心のあるVCや企業等)を設置、マーケットフィードバックを導入
・イノベーティブな若者の画期的アイデアを集める仕組みを導入
PDF7ページ目|事業モデル② 事業化支援プログラム▼
国際研究プログラムの研究成果に加え、我が国の大学・研究機関・拠点都市発のグローバル展開を目指すディープテック分野のシードやスタートアップを対象
・大学等の研究成果の事業化の支援に実績を有する国内外機関との連携により、事業化支援(※)を提供
(※)例えば、事業者を目指す研究者に対する経営ノウハウの提供、メンター支援、コニュニティ形成支援、ギャップファンド提供、海外・スタートアップ間でのネットワーキング機会の提供、国内大学との連携体制の構築などを想定
・実績を有する国内外の事業化支援機関を運営支援法人として活用したグローバル水準 のプログラムの実行が特徴
PDF8ページ目|事業モデル③ 人材育成(フェローシップ)プログラム▼
起業家精神の高い若手研究者(ポスドク)等の育成を通じて、PhD-CEOなどエコシステム強化に求められる人材を育成
・海外での長期間のOJTによる人材育成が特徴 ※海外大学の優秀な研究者の受け入れも強化
・実績を有する国内外の外部機関を運営支援法人として活用したプログラムの実行が特徴
<プログラム概要>
①若手研究者(ポスドク)海外派遣・受入
・スタートアップ等を生み出す海外大学研究室に若手研究者を派遣
・海外の優秀な研究者を日本の先駆的なラボに受け入れ、 ネットワーク形成を推進
・最長2年間
②ディープテックの事業化に高い関心のある ビジネス人材の海外派遣
・ディープテックの事業化に高い関心を有するビジネス人等を海外VC等に派遣し、OJT型プログラムを実施
・6か月~最長2年
③ディープテックの事業化に高い関心のあるVD(Venture Director)/運営人材等の養成(海外派遣)
・海外の資金配分機関等に人材を派遣し、社会的インパクトの高い革新的テーマ設定、ディープテック分野における研究支援・マネジメント等に精通した、将来のVDやGSC運営人材の候補となり得る人材を養成
PDF9ページ目|GSCの時間軸(イメージ) ▼
基本的な考え方:
・運営法人設立前及び設立後(初期)は、外部委託も活用したプログラム実施
・運営法人設立後(定常期)は外部委託によって得た知見を踏まえ法人にてプログラムを実施
・運営法人は、海外大学等との連携を通じた運営を確保
第2回グローバル・スタートアップキャンパス(GSC)ワークショップ
第2回グローバル・スタートアップキャンパス(GSC)ワークショップ
→ https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/campus/pdf/summary_report20250604_jp.pdf
グローバル・スタートアップ・キャンパスに関してはワークショップが幾つか開催されています。ワークショップのレポートが公開されているので、理解を深める上で大変参考になります。
ワークショップの目的と参加者▼
「GSC(グローバル・スタートアップ・キャンパス)」は、日本発スタートアップを世界市場へ本気で送り出す“エコシステム構築プロジェクト”。
第1回ワークショップでは、城内大臣をはじめ関係省庁や大学研究者、ベンチャーキャピタル、海外の起業支援専門家など約50名がオンライン集結。
全体像の確認と、これから取り組むべき課題を洗い出しました。
話し合われた主なテーマ▼
- インフラ・プラットフォーム整備
– 国内外のアクセラレーターネットワーク化
– オンライン上でピッチやマッチングができる共通基盤の検討 - 資金調達スキームと規制対応
– 海外投資家を引き込む多様なファンドモデル構築
– 規制サンドボックスの活用範囲拡大で実証実験を促進 - 人材・知見の交流強化
– 大学発研究者を起業家へ育てるプログラム設計
– 海外起業家や投資家を日本に招くインバウンド施策 - ガバナンスと協議体の設置
– 定期ワークショップで成果をフォローアップ
– 政策化へつなげるタスクフォース立ち上げ
今後の進め方▼
- 各論点ごとに年内に「やることリスト」をまとめ、ロードマップ化。
- 関係省庁・自治体・産業界との連携会合を順次開催。
- 海外パートナー都市との協定(MOU)締結に向けた交渉着手。
- 次回ワークショップ(時期未定)で、中間成果の共有と追加課題の洗い出し。
グローバル・スタートアップキャンパス(GSC)ワークショップ(初回開催)
グローバル・スタートアップキャンパス(GSC)ワークショップ(初回開催)
→ https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/campus/pdf/summary_report20241111_jp.pdf
ワークショップの目的と参加者▼
「グローバル・スタートアップ・キャンパス(GSC)」は、日本発のスタートアップを世界へ羽ばたかせるための仕組みづくりプロジェクトです。その第1回ワークショップでは、城内大臣をはじめ関係省庁、大学・研究機関、ベンチャーキャピタルや海外の専門家ら約50名がオンラインで集まり、構想の全体像を共有しつつ、課題や連携策を話し合いました。
話し合われた主なテーマ▼
1. インフラ・プラットフォーム
グローバル展開を支えるアクセラレータープログラムの立ち上げや、海外拠点同士をつなぐネットワーク構築の必要性が確認されました。
2. 資金調達と規制
日本のスタートアップに投資を呼び込む多彩なスキームや、規制サンドボックスを活用した実験的制度の拡充が求められました。
3. 人材交流
大学発研究者を起業家へと育てる仕組みや、海外の起業家を日本に招くプログラムを強化すべき、という意見が出されました。
4. ガバナンス
定期的なワークショップ開催と、提言を政策に結びつけるタスクフォース設置の必要性が話されました。
今後の進め方▼
1. 各テーマごとの提言をまとめ、年内に具体的なロードマップを策定。
2. その後、関係省庁や自治体、産業界と連携強化の会合を重ね、さらに海外パートナー都市との協定(MOU)締結に向けた交渉を開始する計画。
3. こうしたステップで、実際に日本のスタートアップが世界市場で成長できる環境を早急に整える。
また、GSCを実現するにあたり、これまでのワークショップ等を踏まえると以下のような課題が浮き彫りになっています。
1. ガバナンス・組織体制の整備
・関係省庁・地方自治体・大学・民間支援機関の役割分担が曖昧で、意思決定のスピード感を阻害
・プロジェクト全体を俯瞰し、横断調整を担う「中核的な事務局」や常設タスクフォースの設置・権限付与が未完
2. プラットフォーム/インフラ構築の難しさ
・国内外のアクセラレーターや支援拠点をシームレスに結ぶ共通基盤(オンライン・オフライン両面)の仕様・運用ルールが確立せず、分断状態
・多言語対応やデータ連携(マッチング情報・ナレッジ共有等)の仕組み化に技術的・コスト面でのハードル
3. 資金調達スキームと持続可能性
・エンジェル~シリーズAまで一貫支援できるファンドが不足し、グローバル展開フェーズへの橋渡しが弱い
・規制サンドボックスや税制優遇といったインセンティブ策の周知・活用が限定的で、実証実験の拡大・継続に資金面で不安
4. 人材育成・交流の停滞
・博士研究者や企業内起業家(イントレプレナー)が外に飛び出しにくいキャリアパスの不足
・海外トップレベルの起業家・投資家を呼び込み、日本側人材との双方向交流プログラム設計・受け入れ環境が未整備
5. 国内外パートナーシップの構築
・海外主要都市・研究拠点とのMOU締結後の実務協議(リソース配分やプロジェクト推進体制の具体化)が遅延
・各国・地域ごとの法制度や商習慣の違いを乗り越えるための専門支援窓口・ガイドラインが不十分
6. 評価指標・KPIの明確化
・「GSCとして何をもって成功とみなすか」(創出スタートアップ数、資金調達額、雇用創出数など)の統一的なモニタリング指標が未策定
・定量・定性評価を横並びで追える仕組みがなく、政策改善サイクル(PDCA)が回りにくい
以上の課題を解消するためには、政策・制度設計からプラットフォーム技術、人材受け皿整備まで多層的に取り組む必要があります。
ステアリング・コミッティでいよいよGSCも本格的に始動したと言えます。産学官連携/、スタートアップ支援のいずれの観点でも国内最高峰の大型プロジェクトとなるので、今後の成功に期待します。