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AVADが「自発共創」で描く教育の未来。四国大学との連携から生まれる学びの可視化と社会実装

はじめに

誰かに与えられた正解に合わせるのではなく、一人ひとりの“想い”から学びが立ち上がり、周囲と共創していく状態をつくりたい――。そんな願いから「自発共創(じはつきょうそう)」を社是に掲げ、教育現場に向けたプロダクトを展開しているのが株式会社AVAD(アバド)です。同社が開発する「SPACEBLOCK®(スペースブロック)」は、直感的な操作で高度なプログラミングを可能にする教育用マイコンボードとして、全国の教育機関やワークショップで導入が進んでいます。

会社経営だけでなく、農家と研究者の顔も併せ持っている代表の谷山氏。現場と研究、理論と実装を往復しながら、自社プロダクトの開発や産学連携を進めています。今回は谷山氏に、四国大学との連携を通じた共創の歩みや日頃から大切にしていること、産学連携がもたらす価値についてお聞きしました。

一人ひとりの「想い」から、学びを立ち上げる

まずは、御社の事業概要と主力プロダクト「SPACEBLOCK®」について教えてください

谷山氏▼

当社は、クラウドを通じてAIやIoTを活用したソリューションの提供と、自社プロダクトの開発を行っています。主力の「SPACEBLOCK®」は、専用のマイコンボードとPCやタブレットを使いながら、ブロックを組み立てる感覚で直感的にプログラミングを学べる教材です。 徳島県が推進する「次世代LEDバレイ構想(※)」のもと、LEDを光らせたりセンサーで計測したりと、手触りをもって「動く、測る、制御する」を体験できる点にもこだわっています。

ゴールはプログラミングコードを覚えることではなく、子どもたちが「こうだったらいいのに」という自分の想いを形にしてみること。プログラミング的思考の先にある「探究の入り口」、つまり仮説・検証・改善のサイクルを自然に回せるような設計を大切にしています。

次世代LEDバレイ構想

「自分で学び、自分で理解する力」を重視されるのはなぜでしょうか?

谷山氏▼

技術が変化し続ける時代においては特定の知識よりも、自分で問いを立てて試し、失敗し、理解したうえで直せる力が重要だと考えているからです。 私は大学で情報工学を学び、10年程前からは農家として農業にも携わっています。スマート農業を実践する際、既存の道具がブラックボックス化されていることに限界を覚え、オリジナルの道具を作る重要性を感じました。

仕組みを理解し、自分の想いを形にするための道具を自ら作る。そうした「学びの自走」こそが、これからの社会にとって必要な力になると確信しています。

現場と研究の往復でプロダクトを磨く

産学連携に取り組むことになったきっかけを教えてください

谷山氏▼

大学卒業後も仕事をしながら研究を続けていた私は、とあるご縁で四国大学の学長と知り合う機会に恵まれました。2017年頃、「徳島光・アート教育人材育成事業(T-LAP)」というプロジェクトが立ち上がる際、学長からお声がけいただいて構想作りから携わったことが産学連携のきっかけです。T-LAPは2018年度に徳島県が公募した事業に提案、採択され、2018年度から5年間、研究が進められました。

2019年、私は以前から開発を進めていたマイコンボードをつくり、AVADを設立しました。大学には当時から、プロダクトを試す実践の場を提供してもらっています。四国大学は文理融合の大学ですが、情報系の分野を得意とする教授や児童学科などの専門の先生もいらっしゃるのが強みです。大学が地域貢献の一環として出前授業をする際に「SPACEBLOCK®」を使用してもらったり、大学や関係先で実際に使用してもらったりしています。

教育現場や研究者からはどのようなフィードバックがありましたか?

谷山氏▼

現場での検証を繰り返す中で、「この機能があれば授業の流れがよりスムーズになる」「この反応なら子どもたちが主体的に動ける」といった、運用のリアリティに根ざしたフィードバックを数多くいただきました。机上で「良い」と思った機能も、実際の教育現場で機能しなければ意味がありません。現場のニーズをもとに、開発の優先順位を変更することもありました。

こうした「現場と研究の往復」があったからこそ、「SPACEBLOCK®」は属人的なものではなく、再現性の高いものになったと思います。教育ツールとしての完成度を高めることもできました。

目的の言語化とコミュニケーションが信頼を築く

大学と連携するうえで日頃から大切にされていることはありますか?

谷山氏▼

早い段階で「何を成果とするか」を言語化し、大学側と共通認識を持つことを大切にしています。大学は学術的意義を重視する一方で、企業にとっては継続的な事業運営や価値創出、プロダクトの社会実装も重要です。双方の考えにズレが生じている状態では、どんなに良い関係でも途中で失速してしまうでしょう。 契約やデータの取り扱いについて、早い段階で丁寧に整理しておくことが互いの権利を尊重し、中長期的な信頼関係を築くための基盤になると考えています。

日頃から丁寧にコミュニケーションをとられている様子が目に浮かびます

谷山氏▼

大学と企業では組織の形態も異なれば、重きを置くところも異なります。そうした中で連携を単なる「依頼」で終わらせず、双方が納得した状態でプロジェクトを進めるには、密なコミュニケーションが欠かせません。私は自分の置かれている状況や研究の意図を包み隠さずお伝えし、お互いのリソースの狭間でいかに最善の調整ができるかを常に模索しています。

また、得られた知見や知識をオープンにし、大学側もメリットを感じやすい設計をすることも重要です。スタートアップのスピード感と、大学の持つ深い知見をいかに「共創」の形に昇華させるか。そのためには、一過性のイベントで終わらせるのではなく、連携が終わった後も現場で仕組みが回り続けるような、再現性のある設計を意識しています。

理論と実装が噛み合う「共創」の瞬間を求めて

近年、大学では学部を越えた「学際融合」が注目されています。御社の活動とどのように繋がっていくのでしょうか?

谷山氏▼

大学は今まさに再編成の時期にあります。情報学という軸がすべての学問領域に関わるようになる中で、学部を越えて知を再統合する「学際融合」は不可欠な流れです。弊社では今後、「SPACEBLOCK®」を通じたプログラミング教育を探究学習の軸にしながら、防災、農業、環境、福祉といった多様な地域課題と結び付けた教材・プログラムの開発を強化していきたいと考えています。

国産プロダクトとして、日本の教育現場のフィードバックを即座に反映できることは当社の強みです。現場の先生方からいただくフィードバックのおかげで、学習評価や学びの可視化にも長けています。今後は学術データをもとに、学習者の多様性に対応するインクルーシブな学習設計を大学とともに深めていきたいと考えています。

学校内に閉じない「社会と繋がる探究」は、大学の専門知識と組み合わせることで、より高い教育効果を発揮します。私たちは、複数の大学や研究室と連携しながら、教育の質を再現性のある形で向上させ、誰もが自分の「想い」から新しい価値を生み出せる土壌を耕していきたいと思っています。

最後に、大学との連携を検討しているスタートアップの担当者へメッセージをお願いします!

谷山氏▼

私たちが産学連携を通して実現したいのは、誰か一部の人だけが“つくれる”のではなく、誰もが「こうしたい」という想いから、新しい価値(新しいSPACE)を生み出せる社会です。このように、連携の目的や目指す姿が端的に伝わるメッセージがあると、連携先を探すうえでも役立つと実体験をもって感じています。産学連携を検討しているスタートアップの方には、まず「何のために連携するのか」を一文で言える状態をつくることをおすすめします。

産学連携は、単なる「お願い」ではありません。理論と実装が噛み合ったとき、社会実装は加速します。最初は小さく、短い仮説検証から始めてください。成果物と次の打ち手が残る形で積み上げていくことで、大学にとってもスタートアップにとっても、そして社会にとっても価値のある「共創」が生まれるはずです。

まとめ

谷山氏への取材を通じて最も印象的だったのは、教育という一筋縄ではいかない現場に対して誠実かつロジカルに向き合う姿勢でした。情報工学の研究者としての知見と、農家として自ら道具をつくった実践。多角的な視点を持つ谷山氏だからこそ、大学との連携を単なる「依頼」や「箔付け」ではなく、社会実装を加速させるための「共創」へと昇華させられるのだと感じました。

取材先:株式会社AVAD

  • 法人名:株式会社AVAD(AVAD K.K.)
  • 会社ホームページ:https://avad.co.jp/
  • 代表取締役:谷山 詩温
  • 設立日:2019年10月31日
  • 資本金:1,500,000円
  • 主な事業:教育用マイコンボード「SPACEBLOCK®」の開発、AI/IoTを活用したソリューションの提供