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社会のOSを実装する─リディラバが描く、4者連携による「体験格差解消」への挑戦

はじめに

複雑な社会課題の解決には、企業の持つリソース、NPOの現場知、そして大学の専門性など、多様なセクターとの連携が不可欠です。しかし、異なる論理で動く組織を束ね、一つの目的に向わせることは容易ではありません。

今回ご紹介するのは、「社会の無関心を打破する」をミッションに掲げる株式会社Ridilover(以下、同社)が事務局となり、アソビュー株式会社花まる学習会(株式会社こういう)慶應義塾大学と共に推進する「子どもの体験格差解消プロジェクト」です。

この野心的な4者連携は、いかにして生まれ、社会をどう変えようとしているのか。

同社代表の安部敏樹氏へのインタビューを通じて、新しい連携のあり方を探ります。

社会の「無関心」を打破する、体験の設計者

同社は、「社会の無関心を打破する」というミッションを掲げ、ソーシャルビジネスの促進に取り組むスタートアップです。

社会課題の現場を訪れるスタディツアー事業を基盤に、メディア、教育、企業研修、政策立案支援など、多角的なアプローチを展開。課題と人々の間に「接点」としての体験を設計し、そこで生まれるさまざまな関心の火を、社会を動かすムーブメントへと育てることを目指しています。

その活動は、単なる課題解決に留まらず、「人類全体のOSをどう作るか」という、より根源的な問いに基づいています。

社会のOSをアップデートする

御社は「社会の無関心を打破する」というミッションを掲げていますが、その原点と現在の多角的な事業との繋がりについて、お聞かせください

安部氏▼

我々は「社会の無関心を打破する」という理念から始まった、非営利のコミュニティを母体としています。

社会問題というのは、例えばホームレスの方が100人集まっても貧困問題が解決しないように、当事者だけでは解決されません。課題解決に必要な資源は、外部の「非当事者」が持っている。では、どうすれば非当事者が社会課題に関心を持ち、関係性を築けるのか。

その問いが我々の原点です。

具体的には、アプリ開発など個別の課題解決に終始するのではなく、あらゆる社会課題に対して、非当事者がその関心や資源をスムーズに投入できるような、社会の根本的な思考や行動の仕組み、つまり「人類全体のOS」そのものをアップデートしていくことを目標としています。

我々の活動は単なる啓発に留まりません。例えば、社会課題の現場に送るスタディツアー事業や、問題の構造を明らかにするための調査・メディア事業。さらには、具体的な課題に対し、NPOのM&Aモデルを構築して解決にまで踏み込むこともあります。

社会の無関心を打破するために必要な手段は無数にあり、その一つひとつを事業として実現させていくのが我々の仕事です。

「体験格差」という社会課題、その根源にあるもの

今回の「子どもの体験格差解消プロジェクト」は、どのような課題意識から始まったのでしょうか?

安部氏▼

私自身、東京大学で教員をしていた頃から、体験の重要性を肌で感じてきました。

例えば、中高時代に海外のサマースクールに参加することができた学生は、大学に入ってからも伸びる。一方で、詰め込み教育でトップの成績を収めても、そこから伸び悩む学生をたくさん見てきました。

また、定時制高校での出前授業では、多くの子どもたちがチャレンジする前に諦めてしまう現実に直面しました。

彼らは、自分が頑張っても社会が応えてくれるという信頼感を持てていない。その根底には、親以外の大人と関わり、信頼されたという「体験」の欠如があると感じていました。

「体験格差」は、単なる機会の不平等ではない、ということですね

安部氏▼

コロナ禍で学校の体験活動が激減し、その格差はさらに広がりました。

体験は、かつては地域や学校、家庭が無償で提供していましたが、その機能が衰え、現在は民間事業者によってその多くが補われています。 しかし、当然そこには経済的な負担が伴うため、お金を払える家庭の子どもしかアクセスしにくい構造が生まれています。

近年の入試や就職活動では、学力だけでなく主体性やコミュニケーション能力といった、いわゆる「非認知能力」が重視される傾向が強まっており、体験の価値は社会的に益々高まっています。その結果、良質な体験を通じて 主体性・意欲、社会性などを育むことができた子どもたちが、後の人生でより有利になりやすい状況が生まれているのです。

この構造的な問題が、「家庭の問題」として見過ごされ、社会全体の「無関心」の中に置かれていることこそが、最大の課題だと考えています。

4者連携の座組み、その必然性と舞台裏

この大きな課題に対し、4者が連携するに至った経緯を教えてください。

安部氏▼

コロナ以降、この問題意識をずっと周囲に話していました。その中で、一般社団法人G1というコミュニティの場で、アソビューの山野さん、花まる学習会の高濱さんと「一緒にやろう」と意気投合したのが直接のきっかけです。

もちろん、彼らもそれぞれの立場で同じ課題意識を持っていました。アソビューさんはプラットフォーム上で体験の機会が富裕層に偏る現実を感じていましたし、花まる学習会さんは塾生以外の子どもたちにどうアプローチするかに課題を感じていた。

そして、以前から研究分野で議論していた慶應義塾大学の中室先生にも加わっていただき、それぞれの問題意識が合流する形でプロジェクトが立ち上がりました。

4者におけるそれぞれの役割について教えてください

安部氏▼

このプロジェクトは、体験機会の提供、良質な体験を定義するための調査研究、そして世論形成や政策提言という3つの柱で成り立っています。

役割分担としては、アソビューさんが資金調達や広報、花まる学習会さんと我々が体験機会の提供、そして中室先生が調査研究を担っており、事務局は我々が担当しました。

ただ、実際には全員が全ての領域に入り乱れて議論はしていたので、明確な役割分担というよりは、プロジェクトの成功に向けて、それぞれができる最大限の貢献をした、という方が実際の活動方針に近いかもしれません。

プロジェクトの実践と、連携のリアル

プロジェクトの具体的な活動内容と、これまでの成果についてお聞かせください

安部氏▼

体験提供については、全国約150のNPOと連携しています。具体的には、現場の支援者が、子どもたちの意欲と自立心を育むためには日常の中では難しく、「多様な大人や新しい世界と出会う体験が必要だ」と判断した際に、機会を届けられる体制を構築しました。これは、一つの大きな成果です。

さらに、「体験格差」という言葉が、メディアでの発信などを通じて社会に広く認知されたことも重要な成果と言えるでしょう。この言葉が共通言語になったことで、他の財団等の間にも連携の種が生まれ、課題解決の輪が広がっています。

複数の組織が関わるプロジェクトを推進する上で、事務局として何を最も重視しましたか?

安部氏▼

まず、トップが全員しっかり時間を割いてコミットし続けること。これが大前提です。

その上で、各組織にはそれぞれの論理や事情があります。例えば、上場を目指す企業と、学術的な成果を求める大学とでは、意思決定のプロセスも時間軸も全く違う。

その一つひとつを丁寧にチューニングし、同じ方向を向けるように調整していく必要があるため、「推進力のある事務局機能」が、重要だと考えます。

産学連携の、その先へ

最後に、これから社会課題解決のために連携を考えている読者へメッセージをお願いします!

安部氏▼

産学連携に限りませんが、異分野の人たちが連携して大きな社会的変化を起こそうとするなら、その中心メンバーたちが相互に信頼し、スクラムを組むことが極めて重要です。

同じ目的に向かっていると言いつつ、それぞれの思惑はある。でも、それを乗り越えてでもやる価値があると信じられるか。そのためには、まず自分から腹を切る覚悟を見せる。お互いが体を痛めつけ合いながら、少しずつ投入する資源を増やしていく。最後は人間的信頼でやりきるしかない。

その覚悟を醸成することが、何より大事なのではないでしょうか。

まとめ

同社が挑むのは、「子どもの体験格差」という社会課題であると同時に、その根底にある「社会の無関心」という大きな壁です。今回の取材を通して、彼らがその壁を壊す最も有効な手段として、人の心を動かす「体験」を何よりも重視していることが伝わってきました。

体験を一社の力に留めず、多様なセクターを巻き込んだ「ムーブメント」として社会に実装しようとする姿勢に、彼らの挑戦の壮大さを感じざるを得ませんでした。

取材先:

  • 法人名:株式会社Ridilover
  • 会社ホームページ:https://ridilover.jp/
  • 代表: 安部 敏樹
  • 設立日:2013年3月28日
  • 資本金:2327万円
  • 主な事業: メディア・コミュニティ事業 / 教育旅行事業 / カンファレンス事業 / 企業研修事業 / 事業開発・政策立案事業