全国の取り組み事例
脱炭素社会の実現に向けて。学生と企業・自治体をサポートするEarth hacksの取り組み
はじめに
Earth hacks株式会社(以下、同社)は、「脱炭素(デカボ)を価値に。」をブランドコンセプトに掲げ、Z世代をはじめとする生活者と企業・自治体との共創を通じて脱炭素社会の実現を目指すプラットフォームを運営しています。三井物産株式会社と株式会社博報堂の共同出資のもと、2023年に設立されました。「生活者」の行動変容を促す独自のソリューションを展開しています。
同社が主催し、多数の学生と企業・自治体が参加するビジネスコンテストが「デカボチャレンジ」です。過去8回開催されたコンテストの中から生まれたアイディアの社会実装化に向けた実証実験も行われています。
今回は2024年12月に行われた「デカボウォーターサーバー」の実証実験での取り組みをテーマに、同社マーケティング企画部 部長 山本海斗様に具体的な取り組み内容や同社の役割、今後の展望についてお話をお聞きしました。
社会実装化を目指すのは学生発案のアイディア
まずは、御社の事業紹介をお願いいたします
当社の主要事業としては、「デカボスコア」と「デカボチャレンジ」の2つが挙げられます。デカボスコアとは、脱炭素製品やサービスごとのCO2排出削減率(脱炭素貢献度)をISO規格に沿って測定して可視化したものです。従来の素材や手法を用いた商品などと比較し、環境に配慮した工夫によってどの程度CO2排出量が削減されるかを「削減率」として表示します。生活者が購入や利用を通じて具体的に何%の削減につながったのかを直感的に理解できるようにスコア化されたものが、デカボスコアです。2025年10月現在で260社以上、1,000商品以上の導入実績があります。
デカボチャレンジは企業・自治体と大学生や大学院生が脱炭素をテーマに、社会課題の解決に向けてアイディアを創出するビジネスコンテストです。当社はこのコンテストを主催し、実際に創出されたアイディアの社会実装に向けて伴走支援をしています。2022年から、年2、3回開催しており、「デカボチャレンジ 2025 Summer」で8回目を迎えました。毎回、 4,000人を超える応募の中から選抜された約120名の学生と10社前後の企業・自治体にご参加いただいています。
今回ご紹介いただく「デカボウォーターサーバー」の実証実験も、デカボチャレンジで生まれたアイディアだと伺いました
デカボウォーターサーバーは「デカボチャレンジ 2024 Winter」において、4名の学生チームの発案で生まれたアイディアです。このアイディアに共感された、みずほリース株式会社と株式会社みずほ銀行からオファーをいただき、社会実装化に向けた実証実験を行うことになりました。本実験をするにあたり、設置場所について検討を進めていた中で、取り組みに意義を感じてご協力いただいたのが、慶應義塾大学です。
実証実験の場として大学を選ばれたのには、どのような理由があるのでしょうか?
今回は無料で給水可能なウォーターサーバーと学生のお財布事情の相性や、J-Coin Payのエントリー層が大学生という点におけるマーケティング面の相性の良さを鑑みて、実証実験の場として大学を選びました。
一つの大学で成功事例ができれば、同じモデルを他の大学に横展開しやすいという利点もあります。将来のインフラ化のしやすさを考慮したうえで、企業のオフィスではなく、あえて大学という場所を選んだのです。慶應義塾大学には学内の研究に役立てて頂けるように、今回の実証実験で得られたデータの一部を提供しました。
ウォーターサーバーの利用を通じた脱炭素への取り組み
各社の役割分担はどのようだったのでしょうか?
デカボチャレンジの主催者でもある当社は学生との距離も近いことから、主に学生たちの管理や全体のプロジェクト進行管理を担いました。実証実験を進めるうえでは当社のインターン生である学生もサポートに入りましたが、あくまでも学生がアイディアを主体的に深めていくことを大事にしました。学生たち主導で進めるものを、みずほ銀行や当社がブラッシュアップしていきました。
今回の実証実験で目指したのは、デカボウォーターサーバーの利用促進によるペットボトル削減および環境負荷低減と、デカボスコアを通じた環境貢献度の可視化による利用者の脱炭素意識の向上です。「デカボウォーターサーバーでマイボトルに給水する方が、ペットボトル飲料を購入するよりもCO2排出量が89%off」ということを定量的に訴求したうえで、利用促進を試みました。
実証実験は、みずほ銀行が提供するスマホコード決済サービス「J-Coin Pay」のアプリを用いて行い、利用者には利用のたびにポイントが付与される仕組みにしました。マイボトルの普及は高まっている一方で課題となっていた利用率の向上を図るために、環境配慮に加えてポイント付与を利用者メリットにしたかたちです。みずほ銀行にはJ-Coin Payの実装面でのサポートも担っていただきました。
実証期間中の具体的な取り組みについても教えてください
本実証実験は、2024年12月10日から20日までの平日9日間、慶應義塾大学日吉キャンパス内 協生館3階で行われました。期間中は、デカボスコアによる脱炭素の可視化に加えて、広告を通じた収益モデル確立の可能性についても検証を行いました。広告枠を設けられれば、設置施設側の維持管理費の削減が見込め、ウォーターサーバーそのものの普及も見込めます。今回はウォーターサーバーに取り付けたタブレットモニターで広告を流していたほか、マイボトルの利用促進に関連した試供品の設置を通して、広告枠の可能性を探りました。
実証期間中は学生が中心となりながら、関係者が現場に立ちました。立ち寄られる方々に直接説明をしたことも、後述する脱炭素意識の向上につながったと思います。
※実証実験の概要および結果をまとめたプレスリリースはこちら
利用者の半数近くの脱炭素意識が向上
学生とプロジェクトを進めるうえで、御社が気をつけていたことは何かありますか?
当社では企業と連携しながら、学生が自ら生み出したアイディアの社会実装まで携われる環境を整えています。さらに、学生とプロジェクトに取り組む際は、必ず報酬を支払うようにしています。
企業でのインターン経験を持つ学生からは、「アイディア出しても肝心の実装に関われないまま終わるケースが少なくない」「取り組みそのものの価値が十分に評価されない場面もある」といった声が聞かれました。せっかく熱量をもって取り組んでくれる彼らの取り組みに対して、当社は一企業としてしっかり報いるようにしています。
また、学内外のイベントや就職活動など、学生は1年を通して忙しくしていることが多いです。長期間のプロジェクトはモチベーションを低下させる可能性もあります。気持ちが熱いときに取り組んでもらえるように、スケジュールの組み方も気をつけるようにしています。
今回の取り組みによって得られた具体的な成果と、新たに見えてきた課題があれば教えてください
実証期間中にデカボウォーターサーバーの利用者および未利用者を対象に実施したアンケートでは、計57名から回答を得ることができました。その結果から、利用者の約8割の方が今回提供したサービスを魅力的だと感じていたことや、利用者の3人に1人が「環境に貢献できる」ことを魅力と捉えていたことが分かりました。また、利用者の半数近くが今回のサービスの利用を通して脱炭素意識が向上したと回答しており、ウォーターサーバーの設置が脱炭素意識の向上や生活者の行動変容に一定の効果があると分かったことは想定以上の結果でした。
今回の実証実験では、学生側には無料で給水ができ、かつ脱炭素に貢献できるというWINがあり、企業側はみずほ銀行が進めるJ-Coin Payの普及にもつながるというWINがあり、社会全体としては脱炭素につながるというWINがありました。複数のWINが重なるものをつくることは、今後社会インフラをつくっていくうえでも重要であると同時に、大きな可能性があると感じています。
一方で、今回の実験ではアプリをダウンロードする手間が利用のネックになり得るということが分かりました。一般的には、ウォーターサーバーの設置や水の供給に係るコストも導入ハードルになると言われています。今回のように企業のプロモーション費用で賄える場合を除くと、ウォーターサーバーのインフラ化には一定のハードルがあることも明らかになりました。
産学連携の伴走者から、当事者へ
今回の実証実験を経て、産学連携における御社の今後の展望についてお聞かせください
これまでも、東京大学の教授経由で募集した院生と学部生をインターン生として採用し、デカボスコアの算出技術を身につけてもらう、というように大学と連携することはありました。しかし、産学での共同研究事例はなく、今回の実証実験においても当社は企業と学生の連携をサポートする立場でした。今回の伴走を通してアカデミアとの連携可能性を感じることができ、これからは大学の教授やゼミと連携をしながら脱炭素や社会課題について共同研究・実験をしていきたいと考えています。
大学生との関わりも、さらに深めていきたいと思っています。直近では、2025年11月2日に東京科学大学(旧東京工業大学)大岡山キャンパスで開催された学園祭(工大祭2025)でキッチンカーを出しました。当社が脱炭素に関連して勧めているのが地産地消や旬産旬消。今回はマルシェのようなかたちでお客さんに選んでもらった食材で「もったいない鍋」を作って提供しました。今後は大学生と直接の関わりを大切にしつつ、生活者のみなさんが主体的に楽しみながら、脱炭素や社会課題の解決に取り組める活動をしていきたいです。
新たに、学生向け脱炭素施策「CAMPUS HACKS」のHPも公開しました。プロジェクト#1として、「もったいない鍋」も掲載しています。今後、各大学との取り組みを順次ローンチ予定です。
最後に、大学との連携を検討しているスタートアップ企業の担当者にメッセージをお願いします!
産学連携と聞くと、アカデミアとの共同研究を想像する方も多いと思います。しかし学術的な面以外にも目を向け、学生のやりたいことや学生が熱量をもって取り組んでいることに企業が解決したいと思っていることを持ち込むと、できることの幅が広がることを当社は身をもって知りました。先ほど挙げた当社の「もったいない鍋」のようにカジュアルなものであっても、学生たちと一緒に社会課題の解決に取り組むことができるのです。
表にはあまり出ていないだけで、熱い想いをもっている学生はたくさんいます。これから連携を検討されている企業の方には、ぜひ大学や学生と多くの接点を持つことをおすすめします。
まとめ
今回は産学連携をサポートする側の企業の取り組みをご紹介しました。一般的な産学連携のイメージからは少し毛色の異なる、珍しい事例かもしれません。そうした中でも、社会実装化に向けた実証実験の場として大学を選んだ理由、学生を巻き込む際の配慮など、これまで数多くの学生を間近で見てきた同社だからこその考えは多くの企業にとって参考になるでしょう。
さらに、今回の取り組みを経て産学連携の伴走者から当事者を目指すという同社の展望に、産学連携がスタートアップ企業にもたらすメリットや可能性を改めて感じました。
取材先:Earth hacks株式会社

- 法人名:Earth hacks株式会社(Earth hacks & Co., Ltd.)
- 会社ホームページ:https://co.earth-hacks.jp/
- 代表取締役社長 CEO:関根 澄人
- 設立日:2023年5月16日
- 資本金:8.5億円、資本準備金8.5億円
- 主な事業:環境に配慮した商品又はサービスの提供…①CO2排出削減量の計算/デカボスコア提供・②マーケティング支援・③EC運営・販売・④見本市やイベント開催・⑤新規共創支援 等
