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フードロス削減を目指す「ZERO BOX」が、実践女子大学を「Z世代マーケティング」の拠点に変える

はじめに

フードロス削減という社会課題と、Z世代へのアプローチというマーケティング課題。一見、縁のないように見えるこれら2つのテーマを、大学というキャンパスを舞台に同時に解決しようとするスタートアップが、フードロス削減サステナ販売機「ZERO BOX」を展開するZERO株式会社(以下、同社)です。

同社はなぜ、大学をビジネスの重要なパートナーとして選んだのでしょうか。

本記事では、同社の代表取締役である沖杉大地氏の言葉をもとに、社会課題解決とビジネスを両立させる、独自の産学連携モデルを実践女子大学との連携を通じて探ります。

原体験を力に、「もったいない」を価値へ変える

「もったいないを循環させ、やさしい社会をつくる」をミッションに掲げる同社では、賞味期限が近く、通常の販売ルートでは流通できない食品、パッケージの変更などを理由に廃棄される可能性のある食品を、サステナ販売機「ZERO BOX」を通じて消費者に届けるプラットフォームを運営しています。

フードロス削減に向けた取り組みの原点は、代表沖杉氏がバックパッカー時代に目の当たりにした、海外における子どもたちの貧困の現状。その思いを胸に、直近では企業のオフィスをはじめ、駅や商業施設、空港、病院に加え、近年では大学キャンパスへの設置を加速させており、フードロス削減をベースに、大学を起点とした新たなマーケティングや教育の可能性を追求するなど、活動の場所を広げています。

原体験から生まれた「ZERO BOX」

ZERO様の事業と、その根底にあるミッションについてお聞かせください

沖杉様▼

大学時代にバックパッカーとして世界を一周する中で、海外の貧困を目の当たりにしたことが起業の原点になっています。中でも、特に印象的だったのが、アフリカで出会った幼い女の子でした。

アフリカでは、よく子どもたちから「ギブミーマネー」と声をかけられていたのですが、その当時は私も貧乏旅行だったので冗談半分で、「ビスケットでもいい?」と言って渡したところ、その子は目を丸くして「食べていいの?」と聞いてきました。「もちろん」と答えると、嬉しそうにビスケットを食べ、今まで見たこともない素敵な笑顔と楽しそうな声で「サンキュー!」と私に笑いかけてくれました。この時、子どもたちが本当に欲しいのはお金ではなくて、食べ物なのだということを痛感しました。

一方、日本では大量のフードロスが発生しており、そうした廃棄食品を現地に届けるのもなかなか難しい。ならば、フードロスをビジネスに変え、そこで生まれた利益を子どもたちの貧困解決に充てていくのはどうか?その想いからスタートしたのが、本事業です。

ちなみに、この時の笑顔は今もよく覚えていて、事業でうまくいかない時や苦しいタイミングは、いつも彼女の笑顔を思い出しては、事業を前進するためのエンジンにしています。

サステナ販売機「ZERO BOX」というユニークなソリューションは、どのような過程を経て生まれたのでしょうか?

沖杉様▼

最初は試行錯誤の連続でした。農家さんの規格外野菜を通販で販売しようとしたところ、市場価値を下げてしまうと農家さんからお𠮟りを受けたこともあれば、フードロス情報を発信するアプリの開発事業では、事業途中にコロナ禍でとん挫するなど、さまざまな苦労がありました。

しかし、これらの経験を通じて、自分たちで「販売場所と商品をコントロールできれば、確実にフードロスを削減できる」と考え生まれたのが、ECサイトと無人の受け取りボックスを組み合わせた「ZERO BOX」です。

実践女子大学との連携モデル

実践女子大学様とのプロジェクトは、どのような経緯で始まったのでしょうか?

沖杉様▼

実践女子大学様は、SDGsの課題について積極的に向き合い、教育、研究、地域連携・社会連携、課外活動等による取り組みにより、より良い社会の実現に貢献されています。そんな中、「ZERO BOX」設置先の企業への訪問時に我々のボックスを見かけてくださり、「導入に関心がある」とお声がけいただいたのがきっかけです。

「学校法人としてフードロス削減に取り組みたい」「学生に環境問題を考えるきっかけにしてほしい」という学内のニーズがあると伺い、学生にこうした社会課題に目を向けさせたいと考える視点が素敵だと思いました。また、同大学は企業・団体と社会連携プログラムを積極的に行っていますので、連携企業様から「自社の商品やサービスがZ世代である学生にどのように認知されているのか等、リアルなデータが欲しい」というニーズが寄せられているともお伺いしました。このように、今回の取り組みでは、このように大学側のニーズと、大学との連携先企業のニーズ両方を満たす必要がありました。

そこで、アンケートに答えるとフードロスの商品が無料でもらえる、という仕組みを「ZERO BOX」に組み込むことで、二者の課題解決が図れることに加えて、フードロスに対する弊社の思いも実現できるのではないかと考え、今回の連携がスタートしました。

過去にも複数の大学連携を行っていますが、その学びは本事例にどのように活かされましたか?

沖杉様▼

実を言うと、過去の大学連携すべてが必ずしもスムーズに進んだわけではありません。例えば、ある大学で就活意識調査のアンケートを実施したとき、導線設計に課題があり、「アンケートに答えるぐらいだったらフードロスなんて取り組まなくていい」と、学生にかえってマイナスなイメージを想起させてしまったこともあります。

さらに、別の女子大学様から「ZERO BOX」を設置することで関係者以外の人が学内に侵入したら困ると、セキュリティ面で懸念するお声を頂戴し、残念ながら導入に至らなかったケースもありました。

こうした過去の失敗を活かし、UI/UXの改善やインセンティブ設計のブラッシュアップを繰り返し、今では多くの大学様でご導入いただいています。

ZERO株式会社が大学と連携する根源的理由

そもそも、御社が大学との連携を重要視しているのはなぜでしょうか?

沖杉様▼

ある調査で、フードロスへの関心度が最も高いのは50〜60代ですが、その次に高いのが実は10代というデータがあります。私自身、大学時代の旅の経験が今の事業に繋がっているように、今の学生さんたちにもSDGsや社会課題を考える何らかの「きっかけ」を提供したいという想いが強くあり、大学との連携を通じてその機会提供に取り組んでいきたいと考えています。

大学との連携は、御社の事業にどのような価値を生み出しているのでしょうか?

沖杉様▼

まず、大学にとって「ZERO BOX」の設置は、対外的、そして学生向けにSDGsへの取り組みやフードロス削減に貢献しているというアピールになるというメリットがあります。弊社としては、大学としてのこうしたニーズをベースとしつつ、連携企業先のニーズを組み合わせることで、「ZERO BOX」を使った「企業のZ世代向けマーケティング施策サポート」という付加価値が生まれる。このように、大学との連携を通じて「ZERO BOX」の用途がこれまで以上に拡大していく点が、大学連携が生み出す価値の一つだと考えています。

産学連携の、その先へ

大学との連携を通じて、今後どのような新しい価値を生み出していきたいとお考えですか?

沖杉様▼

現在、すでにいくつかの新しい構想が動いています。例えば、学生寮にZERO BOXを設置することで、親御さんがシステム上で商品を注文して、学生さんが受け取るという「新しい仕送りの形」です。親御さんにとっては、子どもからの商品受け取り通知が、子どもたちの安否確認にもつながります。

もう一つは、大学のSDGs関連学部と連携し、「ZERO BOX」から得られるデータをゼミの研究材料として提供することです。こうした活動を通じて、学生さんたちによりリアルな社会課題解決の現場に触れてもらう機会を創出したいと考えています。

ただ、大学に関わらず、大企業でもベンチャーでも「やりたいこと」に差はないと思っていて、そこに全力で応えていきたい。自分自身の生き方として、そのようなスタンスで取り組んでいきたいと考えています。

最後に、これから産学連携を考えている読者へメッセージをお願いします!

沖杉様▼

【スタートアップの方へ】

産学連携というと、堅苦しいイメージがあるかもしれませんが、それを吹き飛ばすのがスタートアップだと思っています。学生と関われることは非常に価値があるので、ぜひ積極的にチャレンジしてほしいと思います。

【大学関係者の方へ】

「こんなことはできないだろう」と最初から諦めずに、まずは何でもぶつけてみてください。「できますよ」とお答えするのが我々スタートアップの面白さであり、課せられた役割です!

まとめ

同社における産学連携は、これまでの無人販売機の設置ではなく、フードロスという社会課題を接点に、学生の社会貢献への意識、企業のマーケティングニーズ、そして大学の教育目標というそれぞれの思いを繋ぐ試みです。沖杉氏のアフリカでの原体験から生まれた一台のBOXは、大学という場所で、社会と企業、そして未来を担う若者たちをつなぐ、ユニークな接点として、一つの社会課題が新しいビジネスや教育の機会を生み出すきっかけとなり得ることを示唆していると言えるでしょう。

取材先:ZERO株式会社

  • 法人名:ZERO株式会社
  • 会社ホームページ:https://www.nofoodloss.com/
  • 代表取締役:沖杉 大地、四辻 弘樹
  • 設立日:2022年3月
  • 主な事業:フードロス削減BOX「ZERO BOX」の開発