全国の取り組み事例
廃棄物×デザイン×技術で新価値創造―東大発スタートアップが美大と新製品を開発
はじめに
大学発スタートアップは近年、年500社前後の純増(※1)を記録するほど活況を呈しています。しかし、大学発スタートアップ企業が他大学と連携した事例について耳にしたことがある人は少ないかもしれません。
今回ご紹介する「fabula(ファーブラ)株式会社」(以下、同社)は、代表の町田氏が東京大学(以下、東大)在学中に得た知見と技術をベースに設立されたスタートアップです。母校との共同研究に加え、2024年からは新たに多摩美術大学(以下、多摩美)と連携し、多摩地域で出た“ゴミ”から新製品を開発しました。大学との協業を熟知しているスタートアップならではの事業の進め方や考え方は、より実践的な知見に満ちています。
ゴミを一番価値の高い状態で世の中に還元する
独自の特許技術を用いてゴミから新素材や新製品の開発に取り組んでいる同社は、これまで”捨てられるはずだった”さまざまなゴミを新素材・新製品に生まれ変わらせてきました。今回は多摩美との取り組みについて、代表取締役の町田紘太氏に具体的な取組内容や成果、スタートアップ企業が大学と連携するメリットについて伺いました。
まずは御社の事業紹介をお願いいたします
町田様▼
僕たちは「ゴミから感動をつくる」をビジョンに掲げ、あらゆる廃棄物から新素材や新製品の開発・製造に取り組んでいます。東大発のスタートアップ企業として2021年に創業し、現在4期目です。
元々は食品廃棄物の取り扱いがメインでしたが、最近は林業から出る木材や海洋プラスチックなども扱っています。特定のゴミを扱いたいわけではなく、「ゴミを価値あるものに変える」ことを何より大切にしています。価値がないと見なされ、ゴミとして廃棄されているものを、どのようにしたら一番価値の高い状態で世の中に還元できるかを常に志向しているんです。
これまでどのような素材や製品が生まれてきたのでしょうか?
町田様▼
代表的なものは、規格外の野菜や食品加工時に出る端材を乾燥させて粉砕し、金型に入れて熱圧縮させた新素材です。なかでも白菜の廃棄物で作ったものは厚さ5mmで30kgの荷重に耐えることができ、コンクリートの約4倍の曲げ強度を誇ります。
各原材料の特性を活かしながら、平皿や平版などの小物から家具、建築材料まで、これまでさまざまな製品を作ってきました。たとえば緑茶の茶葉を用いて作ったお皿やコースターは、お茶のいい香りが長く続くんです。コーヒーかすを原料に、コーヒーの香りがするイスを作ったこともありました。
連携先とは考え方や方向性がとても近かった
多摩美との産学連携は、どのようなきっかけで始まったのですか?
町田様▼
多摩美とは、僕が学生時代に属していた東大の研究室を通じて以前からつながりがありました。昨年、多摩イノベーションエコシステム促進事業(※2)のリーディングプロジェクトへの応募を検討するにあたり、多摩地域なら多摩美の濱田 芳治先生の研究室との連携が良いだろうと、当社からお声がけしたのが大まかな流れです。
※2)以下、多摩エコ。詳細は記事下部に記載。
大学との連携において、難しさを感じた場面はありましたか?
町田様▼
連携先である多摩美の濱田先生はプロダクトデザインがご専門で、「すてるデザイン」という廃棄物の課題に向き合うプロジェクトを進めています。僕が学生時代に所属していた研究室では、どのようにしたら建設瓦礫を価値あるものに変えられるかについて濱田先生と共同研究をしていました。元々のつながりがあったことに加え、そもそもの考え方や方向性がとても近かったため、難しさを感じた場面はなかったですね。
多摩美とのコラボで生まれたのはオリジナリティあふれる鍋敷き
具体的な取組内容について教えてください
町田様▼
多摩エコでは、多摩地域の食品廃棄物を活用した新素材や付加価値ある新製品づくりと、それを通したゴミの地産地消モデルの検証に臨みました。多摩地域で食品廃棄物の活用に興味を持ってくださりそうな企業について運営事務局に相談したところ紹介されたのが、福生市にある老舗酒造会社「石川酒造」さんでした。
お酒を造る工程で大量に出るのが酒粕です。多摩美にはプロダクトデザインを担当してもらいながら、新たな活用方法を模索されている酒粕を使ったオリジナル製品の開発に取り組みました。
連携先とはどのようにコミュニケーションをとっていたのでしょうか?
町田様▼
現場では学生の方々にもご協力いただきましたが、主なコミュニケーション手段は濱田先生とのメールでしたね。今回は互いによく知った間柄であったことに加えてプロジェクト期間が限られていたため、早い段階でデザイン制作に取りかかってもらいました。
研究室で作ったデザインをベースに3Dプリンターで試作品を作ってもらい、送られてきたものに対して僕たちがフィードバックするというのを複数回繰り返しました。そうしてできあがったのが、魚の形をした鍋敷きです。
魚の形をした鍋敷きとは、珍しいですね!
町田様▼
酒粕ならではの素材感を活かしながら、当社で加工が可能な範囲でデザインをしてもらいました。他の製品と同様に板材を加工して作っているのですが、丸みを帯びたデザインなので板材の面影は薄いですね。
横から見ると、魚の尻尾と胴体の間がやや低くなっており、鍋が置きやすいように設計されているんです。鍋の大きさによって必要な魚の数も変わるなど、オリジナリティあふれる製品になりました。
失敗なくして良いものはできない
デザインを製品に落とし込むうえでの難しさはありましたか?
町田様▼
たとえば食品と一括りに言っても、ものすごくバリエーションがありますよね。素材によって、その扱いやすさは大きく異なります。これまでたくさんの原材料から素材を開発してくる中で、いろいろな難しさに直面しました。そうした経験から、ある程度の困難は折り込み済みというか、耐性ができているのかもしれません。
難しさがなかったわけではないですが、それを大変に思わなかったのが正直なところです。失敗するのは当たり前ですし、そもそもどんな分野でも失敗なくして良いものはできません。うまくいかなければ、それを次に活かしていこうと思っています。
できあがった製品には、どのような声が寄せられましたか?
町田様▼
今年の2月に石川酒造さんの敷地内にて今回作った鍋敷きを展示し、ご来店されたお客様にご覧いただきながらお声を伺いました。実際に手に取ったお客様からは、酒粕が鍋敷きに生まれ変わったことへの驚きの声が聞かれましたね。近くに本物の酒粕を置いておいたこともあり、その変化に驚いたようでした。
アンケートでは、「100%天然由来でできているので安心して使える」と言った声が寄せられたほか、すべすべとした手触りの良さに対するコメントも目立ちました。そして何より、「オリジナリティがあるデザインだね」という声がとても多かったです。
今回の産学連携を通して、これまでに得られた成果について教えてください
町田様▼
一番は、東京という地域の枠組みの中で地産地消を実現できたことです。廃棄物を移動させるには、お金もエネルギーも使います。当社ではこれまで、同じ地域内で課題解決することをテーマに掲げてきました。今回の検証結果で得た学びを別の地域でも応用させていきたいと考えています。
また、酒粕は以前も使用したことがあったのですが、板材から削って加工するのは今回が初めての試みでした。同じように板材にしても、原材料が異なれば加工法も異なります。酒粕ならではの加工法や素材の可能性が分かったのは、今後につながる成果だと思います。
当社の社名でもあるfabula(ファーブラ)はラテン語で「物語」を意味します。今回は鍋敷きをつくりましたが、実際に製品を売る際はストーリーの作り込みが必要だと感じました。より価値を感じてもらえる製品を世の中に出せるように、今回新たに認識できた課題にも取り組んでいきたいです。
産学連携はスタートアップ企業と大学双方にメリットがある
あらためて、スタートアップ企業が大学と連携するメリットについてどのようにお考えですか?
町田様▼
産学連携の一番のメリットは、僕たちスタートアップ企業にない技術や知見を大学側から得られることだと思います。今回の僕たちの事例で言えば、連携先の大学にプロダクトデザインや捨てるものをデザインするという分野の第一人者の先生がいました。そうしたピンポイントのニーズにも応えられるのが大学や各研究室ではないでしょうか。
大学としても、スタートアップ企業と連携するメリットは大いにあると思っています。僕も大学の研究室にいた身として、社会実装されずに埋もれてしまった技術をたくさん見てきました。スタートアップ企業との連携によって大学で生まれた技術が社会実装されるのであれば、大学にとっても産学連携はとても有意義なものだと思います。
行政からはどのような支援が必要だと思いますか?
町田様▼
スタートアップ企業からすると、最も負担になるのが研究費です。一度の研究にも、相応の資金調達や計画が必要となり、容易に進められるものではありません。大学との共同研究用に助成金があればいろいろな研究室とコラボレーションしやすくなりますし、産学連携の機運も高まると思います。
また、大学の技術をリスト化し、連携を検討するうえで必要な情報が集約されたハブのようなものをつくってもらえると大変ありがたいですね。現状は、人のつながりで研究室を紹介してもらうことが多いと思います。専門用語が羅列されているものではなく、素人でも理解できるような内容で情報がまとまっていると、大学の技術にもアクセスしやすくなるはずです。
最後に、大学との連携を検討しているスタートアップ企業の担当者にメッセージをお願いします!
町田様▼
大学は、自分たちにないものをたくさん持っている場所だと思います。設備を利用できるのもスタートアップ企業にとっては大きなメリットです。大学としても技術を世に出せるチャンスでもあると思うので、ぜひ積極的にアプローチしてみてはいかがでしょうか。
まとめ
大学、そしてスタートアップ企業の両方に身を置いた経験がある町田様の言葉には、産学連携のリアルな姿が反映されていました。大学ではさまざまな技術が生まれているのに、その多くは世に出るチャンスを得ずに埋もれていってしまう――資金面や情報面においては改善の余地がある一方で、スタートアップが大学と連携する意義を強く感じた取材でした。
取材先:fabula株式会社
- 法人名:fabula株式会社
- 会社ホームページ:https://fabulajp.com/
- 代表取締役:町⽥ 紘太
- 設立日:2021年10月1日
- 主な事業:あらゆるゴミから作る新素材や新製品の企画、開発、製造、販売
「多摩イノベーションエコシステム促進事業」について
東京都では、多摩地域に集積している技術力の高い中小企業や大学・研究機関などが多様な主体と交流・連携し、イノベーションを起こし続ける好循環(エコシステム)をつくる取組を進めています。
▶ WEBサイト:多摩イノベーションエコシステム促進事業