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自動配送ロボットがもたらす未来:Hakobotと近畿大学が“宅配クライシス”解消を模索②
はじめに
“ものづくりの街”として知られる東大阪市で、配送ロボットの開発に邁進する「株式会社Hakobot」(以下、同社)と近畿大学経営学部経営学科 古殿研究室(古殿幸雄教授)の共同研究は、引き続き進みます。
連載完結編となる本記事では、自動運転機能搭載の配送ロボット「Hakobot」が挑んだ公道での実証実験の概要と、今回の産学連携が生み出そうとしている町工場の未来についてお伝えします。
ものづくり系のスタートアップが開発したプロダクトを用いて収益化するためには、どんな視点が必要なのか…本記事には、スタートアップの多くが抱えるこの課題を解決するためのヒントがあるはずです。
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未知数の可能性を秘めた『Hakobot』
「なんでも載せられる、しっかり運ぶ」をコンセプトに掲げて、自動運転機能搭載の小型モビリティを中心に開発する同社。4輪駆動・4輪操舵で独自設計の走破性が高くシンプルな操作性を実現する配送ロボット『Hakobot』を開発するスタートアップです。
2018年の創業以来、“宅配クライシス”のない未来をかなえるため、自動運転機能搭載の配送ロボットの実証実験を重ねてきました。
そして前回記事でご紹介した近畿大学との連携により、課題とともに新たな需要を見出すことに成功しています。
※以下、同社代表取締役・大山様へのインタビュー形式でお話をお伺いします
「Hakobot」が町工場の助っ人に…活躍の場拡がる
近畿大学との連携は、新たなステップへと進んでいますね
大山様▼
近畿大学キャンパス内や商店街での実証実験を経て、2024年からは町工場や物流センターが点在している東大阪市内の工業地帯で公道を使用した実証実験も始まっています。
具体的には、複数の町工場を結ぶルートを、自動配送ロボット「Hakobot」が自動運転で100kgのネジを積んでピストン輸送するというものです。この実験は、何度も古殿研究室の学生たちと議論を重ねた結果、収益化が見込める選択肢の一つとして取り組んだ内容です。
また、今回実験にご協力いただいたサンコーインダストリー株式会社(以下、サンコーインダストリー)さんは、まさに弊社に東大阪市長をご紹介してくださった企業さんでした。
今後、近畿大学との連携はどのように展開していくのでしょうか?
大山様▼
当初は「公道でロボットを走行させることができれば(今回の産学連携の)目的は達成する」と考えていたのですが、今では「運用の仕方は変えずに運ぶものの単価を上げられれば、工場での需要があるはず」という想定外の収穫もあり、実機の販売も視野に入れています。
大学との連携は、学生たちが入れ替わるため年度ごとに契約する形にはなりますが、「Hakobot」に興味を持ってくれる学生がいる限りはぜひ引き続き連携を続けていきたいです。
※ここからは、同社と共同研究を実施した近畿大学・古殿教授ならびにサンコーインダストリー・奥山社長によるコメントを掲載します
ともに歩む大学と町工場…それぞれの想い
これまで、大学との連携におけるスタートアップ側のメリットについてお伺いしましたが、大学側のメリットについてはどのようにお考えですか?
近畿大学 古殿教授▼
本学は、その建学の理念として「実学教育と人格の陶冶」を掲げているのですが、大学としてスタートアップと連携することで、経営学部で学んだ理論を実学として実践する体験ができるという点がメリットとしてあります。
特に、スケジュールを組んでプロジェクトを進めていく「プロジェクト管理」では、同社やサンコーインダストリー社をはじめ、近隣住民の皆さん、市役所、警察署、消防署などとの交渉や手続きなどのマネジメントを実践できたことも良い経験となりました。
そして、何よりも実際の社会課題に触れ、ビジネスプラン、事業プランを発案できたこと。社会人の方といち早く接触することで、学生の人格形成に良い影響が与えられたことなどもありますね。このように、教育研究機関としては最先端の研究や技術に触れて、学生の教育に大きく役立つことが大きなメリットと言えます。
これらは学生の就職活動や進路選択にも活かされており、志望する会社や大学院に入社・入学できる学生も多くなりました。
「Hakobot」の導入は、“ものづくりの街”にどんな影響を与えると思われますか?
サンコーインダストリー 奥山淑英社長▼
町工場のほとんどは中小規模で、分業化が進んでいます。そのため頻繁に小口での配送があるのですが、荷物自体は少なくても2トントラックで配送しています。それを配送ロボットに手伝ってもらえれば作業効率がよくなりますし、人手が少ないところを助けてもらえる。配送を自動化することは、町工場としてもメリットが大きいわけです。
そうしたシステムをこの街で作ってこの街で導入していけば、製造メーカーがどんどん東大阪市に来てくれるはずです。つまり「Hakobot」を導入することで、東大阪市が“ものづくりの街”としてより活性化していくことが期待できるのではないでしょうか。
これから産学連携を考える人へ
最後に、これから産学連携を考える企業や、行政・支援機関に向けてメッセージをお願いします!
大山様▼
今回の近畿大学との共同研究は、技術開発メインの弊社とはまったく毛色の違う経営学部の研究室との連携でしたが、異分野間の連携によって、多くの新たな発見やシナジーが生まれたと考えています。
学生ならではの柔らかい発想はとても刺激になりましたし、さまざまな意見をいただく中で、東大阪市には「Hakobot」の需要があるという仮説を導き出せたことが、最も大きな収穫でした。
これから産学連携を考えているスタートアップには、特にものづくりスタートアップの場合、単独で開発していてはマーケティングの部分などを客観的に考える機会は限られてしまうこと、それを避けるために、まさに今回の近畿大学との連携のように、自分たちとは毛色の違う分野との連携に積極的に取り組んでいくべきだとお伝えしたいです。
我々のようなものづくりスタートアップは、つい「連携先が理系でないと自社の技術を理解してもらえないのではないか?」と思いがちですが、異分野だからこそ新しい視点を得られることは数多くあります。ですので、まずは固定観念を捨てて広く大学に話を聞いてみることをお勧めします。そうすることで、自分たちが作っているプロダクトの社会需要性がより明確になり、それが今後の事業成長にもつながるはずです。
まとめ
今回ご紹介した同社と近畿大学の連携事例は、「ものづくりスタートアップとマーケティングを学ぶ学生たちの化学反応」が生み出した良例と言えるかもしれません。
その証しとしてこの連携事例は、一般社団法人社会人基礎力協議会主催による「人生100年時代の社会人基礎力育成グランプリ全国決勝大会」(2025年3月)で審査員特別賞を受賞しています。
もちろん、必ずしも思い通りに収益に繋がらないなど、厳しい現実と直面することもありますが、それすらも糧(かて)として次なるステージへと進んでいく同社には、これからも目が離せません。
取材先:株式会社Hakobot
- 法人名:株式会社Hakobot (Hakobot inc.)
- 会社ホームページ:https://hakobot.com/
- 代表取締役:大山 純
- 設立日:2018年5月
- 主な事業:配送ロボットや自動運転機能搭載の小型モビリティ等の開発