全国の取り組み事例
点を打ち続けるのが、僕らの戦略。エクネスが描く「ビジョン共感型」産学連携のあり方
はじめに
イノベーション創出の起爆剤として、スタートアップと大学の連携に大きな期待が寄せられています。しかし、その理想とは裏腹に、多くの企業が「どのように大学へアプローチすればいいのかわからない」という現実的な壁に直面しています。また、伝統的な産学連携の多くは、企業が抱える明確な課題を解決するために大学の知見を求める形で始まります。
今回ご紹介するのは、従来とは少し異なるアプローチからはじまった産学連携の物語です。フードロスという大きな社会課題に挑むスタートアップ・エクネス株式会社と東洋大学の学生団体「Teamベジタクル」との連携は、企業側の課題解決が起点ではなく、学生たちの熱意ある「思い」への共感から始まりました。
1社の「思い」が、いかにして多様な「繋がり」を生み、企業や社会を動かす流れを創り出していくのか。短期的な利益や成果だけではない、スタートアップと大学のもう一つのパートナーシップのあり方を追いました。
手紙と野菜。二つの事業を貫く“社会課題解決”という思想
エクネス株式会社は、ロボットが手紙を代筆する「レターテック事業」、フードロス削減サービス「ロスヘル」からなる、ユニークな事業ポートフォリオを持つスタートアップです。一見、全く異なるこれらの事業は、「ビジネスを手段として環境保護を促し、地球環境課題を解決するために、高品質のサービスを継続して提供する」という、同社の揺るぎないミッションによって繋がっています。
「ロスヘル」事業では規格外などを理由に廃棄されるおそれのある野菜や果物を全国の農家から集め、一般家庭に届けることで、生産者・消費者、そして社会の「三方よし」を実現しています。代表の平井康之氏は、常に事業を社会課題解決のための「手段」と位置づけ、目先の利益に捉われない長期的な視点での活動を重視しています。
※以下、エクネス株式会社 代表取締役・平井様へのインタビュー形式でお話をお伺いします
事業の根幹は、「点を打つ」という経営哲学
御社の事業と、その根底にあるミッションについてお聞かせください
平井様▼
弊社は7年前に「社会の課題を解決する」というテーマで立ち上がりました。その中でも、ロスヘル事業では、2030年までに「フードロスを年間10万トン減らす」という目標を掲げています。企業理念も2年ほど前に「地球環境課題を解決する」にアップデートしましたが、事業はあくまで社会課題解決の手段であるという点は創業以来変わりません。私たちがチャレンジしたいのは、社会をどう変えていけるのかという部分。そのために事業をしているという思いは、常に私たちの活動の中心にあります。
「ビジネスを手段として」「継続して提供する」というミッションが印象的ですが、どのような思いが込められているのでしょうか?
実は、「事業の目的と手段の順番はこっちだ」というメッセージ性を込めて、意識的にこの表現を使っています。活動が単発で終わらないためにも、ビジネスという軸が必要不可欠ですし、この点は常に意識していますね。
東洋大学との連携:きっかけとその本質
東洋大学様との産学連携は、どのような経緯で始まったのでしょうか?
平井様▼
スタートは東洋大学の学生さんからお問い合わせをいただいたことでした。弊社の基本スタンスとして、直接的な利益にならなくてもさまざまな機関とコラボレーションをしていこうという思いがあります。「ロスヘル」を通じた野菜の販売だけでなく、食品ロスを減らすための啓蒙活動も私たちの重要なミッションだと考えており、東洋大学さんからお話をいただいたときは、ぜひご一緒したいとご提案をお受けした形です。
企業側からではなく、大学側からのアプローチだったのですね。学生たちの活動の、どのような点に共感されたのでしょうか?
平井様▼
学生さんたちが真剣にフードロス問題に向き合っている。そのこと自体が、我々として純粋に応援したいテーマでした。私が大学生だった頃とは違い、今の学生さんは社会課題にしっかりと目を向けている。なんとかしたい、という強い思いを持って活動されている。本当に素晴らしいなと感じたのが一番の印象です。
具体的な連携内容を教えてください
平井様▼
学生さんたちは「若者の野菜不足」と「食品ロス」という2つの問題意識を抱えていました。そこで、一人暮らしの学生さんでも野菜をきちんと食べてもらえるような「東洋大学×ロスヘル特別コラボバック」を企画しました。さらに、学生の皆さんには、パッケージの野菜を無駄なく美味しく食べきるための「丸ごと玉ねぎ蒸し」などのオリジナルレシピをご考案いただき、そのレシピを商品に同梱して販売しました。また、学生さんたちと一緒に規格外野菜を使ったチキンライスの試食会も開催したり、私自身も大学に伺って食品ロス削減をテーマにした講演をさせていただくなど、多角的に連携させていただきました。
短期的な成果と、長期的な価値
今回の連携を通じて、どのような「成果」が得られましたか?
平井様▼
一番の成果は、連携を通じてテストマーケティングが実施できた点です。具体的には、今回の一人暮らし向けパッケージを通して、その層にどのくらいニーズがあるのかを調査することができました。その結果、現状一人暮らしの層に大きなマーケットは見込めないと判断し、一旦はこの領域において「本格的な商品化はしない」という選択ができました。企業にとって「やらない」ことの選択は意外と難しいので、連携を通じてこの判断ができたことは、非常に大きな成果だったと考えています。
得られた成果を踏まえて、今回の連携にはどのような価値がありましたか?
今回の連携を通じて、長期的な事業成長に繋がる「点を打てた」ことに大きな価値があったと感じています。今回取材いただけたのも、元を辿れば東洋大学さんとの連携という「点」があったからです。何がどのように繋がっていくかは予測できませんが、精力的にさまざまな活動に取り組んでいった結果、少しずつですが、これまで紡いできた点が繋がり始めているという実感があります。
これから産学連携を考える人たちへ
最後に、これから産学連携を考えているスタートアップ経営者へメッセージをお願いします
平井様▼
多くの企業は目先の利益を追いがちですが、そうではなく、中長期的な視点を持つことが大切だと思います。短期的には利益にならなくても、「点を打っていく」こと。それが1年、2年ではなく、5年、10年というスパンで、巡りめぐってWin-Winの関係を目指せるのではないかと。その意味で、これからの日本を担う学生さんたちと連携することは、非常に重要なことだと考えています。
まとめ
エクネス社の事例は、従来の「課題解決型」とは一線を画す、「ビジョン共感型」の産学連携の可能性を示しています。企業の「思い」を起点とし、短期的な利益に捉われず、未来への「点」を打ち続ける。その点が繋がり、やがて大きな流れとなったとき、企業や社会にとって計り知れない価値を生み出すのかもしれません。このような予期せぬ出会いに積極的に挑戦していくこともまた、産学連携の1つのきっかけになると言えるでしょう。
取材先:エクネス株式会社
- 法人名:エクネス株式会社
- 会社ホームページ:https://www.exness.co.jp/
- 代表取締役:平井 康之
- 設立日:2018年3月
- 資本金:350万円
- 主な事業:レターテック事業 / フードロス事業 / コンサルティング事業