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宇宙を身近にする“人工流れ星”が切り拓く小惑星探査 ―ALE×東京大学、未来を動かす産学の共創

はじめに

2029年、地球に最接近する小惑星「アポフィス」をめぐり、世界規模の探査計画が進められています。その中で注目を集めているのが、“人工流れ星技術”を開発する株式会社ALE(以下、同社)と、東京大学大学院理学系研究科 宇宙惑星科学機構による産学連携です。

スタートアップの独自技術は、最先端の宇宙科学とどのように結びつき、新たな研究の可能性を切り拓こうとしているのでしょうか。

本記事では、連携に至った背景から研究の全体像、そして社会に届けたい価値まで、同社代表取締役・岡島礼奈氏にお話を伺いました。

株式会社ALEについて

同社は、「科学を社会につなぎ 宇宙を文化圏にする」をミッションに、また「宇宙を、好奇心に動かされた人類の、進化の舞台にする」をビジョンに掲げ、“人工流れ星”の実現を目指す宇宙スタートアップです。2011年の設立以来、独自の流れ星発生装置の研究開発に取り組み、これまでに複数の人工衛星を打ち上げてきました。

“人工流れ星”というエンターテインメント性の高い技術を軸としながら、その技術を宇宙科学探査や基礎研究へ応用する取り組みも行っており、民間企業として事業性と研究性の両立を図りながら新しい宇宙ビジネスの形を模索し続けている点は、きわめて特異です。

研究と社会をつなぐ場で生まれた連携

まず、御社の事業概要と“人工流れ星技術”について、あらためて教えてください

岡島氏▼

弊社は、人工衛星に搭載した装置から専用の粒を放出し、それを大気圏に突入させることで流れ星として観測させる「人工流れ星技術」を開発しています。人工的に設計された粒を、宇宙空間で安全かつ確実に放出する点が弊社の技術の中核です。

この粒は、単に「落とす」ものではなく、放出のタイミングや速度、方向まで含めて制御されています。もともとは、宇宙を見上げる体験を多くの人に届けたいという思いから始まった技術でした。

科学研究への応用は、どの段階から意識され始めたのでしょうか?

岡島氏▼

会社の設立自体が「科学とビジネスを両立させる」ことを目的にしております。会社設立当初は大気データなどを科学へ応用することはできると考えていたものの、この技術が探査に使えるとは思っていませんでしたね。

宇宙空間で物を放出すること自体が難しく、しかもそれを複数回、安定して行えるという点は他にほとんど例がありません。開発を続ける中で「この技術、かなり特殊だな」と感じるようになり、次第に「これはエンタメだけで終わらせるのはもったいないのではないか」と考えるようになったのです。想像していた以上に、科学への広がりがありました。

今回の共同研究は、どのような背景から始まったのでしょうか?

岡島氏▼

きっかけは「エッセンスフォーラム」(以降、ESフォーラム)という、研究成果の社会実装をテーマとするフォーラムに参加したことです。会場には、大学の先生方や研究者が多く参加されていて、「研究を研究のままで終わらせない」という問題意識が共有されている、ユニークなフォーラムでした。

2024年のフォーラムで橘先生と出会い、その後の会場で立ち話をする中で弊社の技術に関心を持っていただき、「一度きちんと話してみましょう」(ブレインストーミング)という流れになりました。

ESフォーラムの雰囲気はいかがでしたか?

岡島氏▼

すごく面白いフォーラムですね。大学の先生が本当に多くて、しかも「研究をどう社会に出すか」というところを真剣に考えている方ばかりが参加しています。

研究成果を論文で終わらせるのではなく、社会実装まで持っていくにはどうすればいいか、という話が自然に出てくる。私自身、ちょこちょこ参加していたのですが、そのたびに刺激を受けていました。そうした場だからこそ、今回の連携にもつながったのだと感じています。

ESフォーラム自体が「研究と社会をつなぐ」ことを目的にしているので、今回のような事例はすごく自然だったと思います。

その後のブレインストーミングでは、どのような議論があったのでしょうか?

岡島氏▼

最初は本当に自由な議論でした。「この技術で何ができるだろう」「科学的に面白いことは何だろう」というレベルの話です。その中で、橘先生から「人工流れ星を小惑星にぶつけてみたらどうなるだろう」という言葉が出てきました。その瞬間に、「あ、これは本当に新しい研究になるかもしれない」と感じました。

空を彩る技術が、宇宙探査へ踏み出した理由とは?

人工流れ星技術を、宇宙科学探査に応用しようと考えた決め手は何でしたか?

岡島氏▼

決定打になったのは、「世界に同じ装置がない」という事実でした。宇宙空間で物を放出する手法は火薬やレールガンなどいくつかありますが、それぞれ制御が難しかったり、消費電力が大きすぎたりします。

そんな中で、私たちが使っている圧縮空気方式は、真空環境で空気を制御する必要があり、技術的な難易度は非常に高いのですが、その分、精度と再現性を両立できる可能性があります。

大学側は、その点をどのように評価されたのでしょうか?

岡島氏▼

「低エネルギーで、かつ複数回実験できる」という点です。一度きりの大きなインパクトではなく、小さな衝撃を何度も与えることで、より多くのデータが取れる。研究者の立場から見ると、これは非常に魅力的だったのだと思います。

民間企業として大学との研究に参加することへのハードルはありませんでしたか?

岡島氏▼

正直、多少の緊張はありました。ただ、議論を重ねる中で、「面白いことをやりたい」という気持ちは共通していると感じ、最終的には「誰もやっていない実験をやれる」という事実が両者を強く結びつけてくれました。

小惑星に刻む、小さな一撃の大きな意味

「低エネルギーマルチインパクト実験」とは、あらためてどのような手法なのでしょうか?

岡島氏▼

とても簡単に言うと、「小さな粒を、色々な場所に何度も当てる」実験です。一度だけ大きな衝撃を与えるのではなく、特定のエリアに小さなエネルギーで複数回インパクトを与えることで、クレーター形成の違いやばらつきを観測します。

この「ばらつき」が重要で、小惑星表面の不均一さや内部構造の推定につながります。

小惑星に粒を当てるという発想を橘先生から最初に聞いたときは、「確かに、それはやってみたいな」と思いました。流れ星の粒というのは、科学的に見ても面白い素材ですし、それを実際に小惑星にぶつけて、どんなクレーターができるのかを見るというのは、なかなかできない実験です。

世界的にも前例が少ない実験なのでしょうか?

岡島氏▼

ほぼないと思います。そもそも、宇宙空間で複数の粒を安定して放出できる装置が他にないので、我々だからこそできる実験だと考えています。

2029年の小惑星アポフィスの最接近時には、NASAや他国の探査機が同時に観測を行います。私たちの実験は、その中でも「実際に変化を与える側」の役割です。

観測だけでなく、クレーターを作り、その後を観測してもらう。いわば、探査全体の中で「トリガー」のような役割を果たすことになります。

現時点で、特に注力している技術検証は何でしょうか?

岡島氏▼

放出精度と再現性です。粒がどの速度で、どの方向に飛び、どのように衝突するのか。その条件を細かく詰めています。

加えて、宇宙空間での長期運用を前提とした信頼性の確保も重要なテーマです。

地球を守り、宇宙を知るための第一歩

今回の実験がもたらす科学的価値について、どうお考えですか?

岡島氏▼

これまで、小惑星に「何かを当てて、その反応を見る」機会は極めて限られていました。複数回、同条件でデータが取れるという点は、研究として非常に大きな意味があります。表面の性質だけでなく、内部構造を推測するための手がかりにもなります。

プラネタリーディフェンスへの貢献についてはいかがでしょうか?

岡島氏▼

将来、もし本当に地球に衝突する可能性のある小惑星が現れた場合、どの程度の力を、どう与えればいいのかを知っているかどうかは決定的に重要です。

今回得られるデータは、その「基礎体力測定」のような役割を果たすと考えています。

国際的な連携については、どのように感じておられますか?

岡島氏▼

やはり簡単ではないですね。国や機関によって事情が全然違いますし、政権が変わると研究の優先順位が一気に変わることもあります。

実際、海外では政権交代によりとある研究機関の予算が一度ゼロになったという話もありました。

だからこそ、民間が科学を支える意味があると思っています。国の方針だけに左右されずに、研究を続けられる選択肢を持つことが大事だと感じています。

2029年、その先へ―産学連携が描く未来図

スタートアップと大学の連携で、特に力を発揮している点は何でしょうか?

岡島氏▼

意思決定の速さです。「面白い」「やってみよう」と思ったらすぐ動ける。大学の知見と、スタートアップの実装力は、本当に相性が良いと思います。

今後のロードマップと、社会に届けたい価値について教えてください!

岡島氏▼

打ち上げは2028年頃を想定しています。まだ未確定な部分も多いですが、2029年の最接近に向けて、一つずつ準備を進めています。

この研究を通じて、「科学とビジネスは両立できる」ということを社会に示したい。それが私たちの大きなビジョンです。

まとめ

“人工流れ星”というロマンあふれる技術が、小惑星探査やプラネタリーディフェンスといった現実的な科学課題と結びついている点に、強い可能性を感じました。

岡島様の言葉からは、「科学を止めたくない」という強い意志と、民間だからこそ担える役割への覚悟が一貫して伝わってきます。

大学の知見とスタートアップの実装力が重なったとき、新しい研究の形が生まれる…その可能性を、この連携は具体的に示しているように思えました。

また、同社では2026年2月4日(水)に世界初の人工流れ星実証プロジェクト「Starlight Challenge」を始動。

さらに、本プロジェクトの始動とあわせて、株式会社PR TIMESauエネルギー&ライフ株式会社タカラスタンダード株式会社トラスコ中山株式会社の4社と、本プロジェクトにおけるコーポレートパートナー契約の締結を発表しました(※)。

“世界初”の人工流れ星実証プロジェクト「Starlight Challenge」始動!PR TIMES、auエネルギー&ライフ、タカラスタンダード、トラスコ中山の4社とコーポレートパートナー契約を締結

2029年のアポフィス最接近に向けた歩みをはじめ、同社の挑戦は今まさに始まったばかりです。

取材企業|株式会社ALE

  • 法人名:株式会社ALE
  • 会社ホームページ:https://star-ale.com/
  • 代表取締役 / Founder & Chief Executive Officer:岡島 礼奈
  • 設立日:2011年9月1日
  • 主な事業:宇宙エンターテインメント事業「SKY CANVAS」・大気データ事業