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「楽しくなければ、続かない」―アグリテック×エンタメで挑む“食と農の民主化”。プランティオが実践する「共創」の哲学

はじめに

「農業」と聞いて、多くの人は何を思い浮かべるでしょうか。地方の農家、海外の大規模農場、あるいは自動化された栽培工場かもしれません。しかし、そんな農業だけに頼る「生産」と「消費」が乖離した社会に危機感を持ち、「エンターテインメント」のチカラと「民主化」のアプローチで持続可能な農的ライフスタイルを浸透させて世の中を変えようとしているスタートアップがあります。 プランティオ株式会社(以下、同社)は、AIやIoTを活用して誰もが楽しく野菜を育てられる世界、「アグリテインメント」の実現を目指しています。

なぜ彼らは、「楽しさ」を追求するのか。そして、滋賀大学株式会社タニタ、大手建材メーカーなど、業種を超えたパートナーたちと次々に「共創」を生み出せる理由はどこにあるのか。 今回は、同社ハードウェア開発責任者の日野原 錦氏に、産学官連携の舞台裏と、その根底にある「コモンズ(共有財産)」という思想についてお話を伺いました。

AIとコミュニティの力で、都市に「農」を実装する

同社は、ビルの屋上や駅前などの遊休地を活用し、コミュニティ主導型の農園「grow FIELD」を展開するアグリテック企業です。

同社が提供するのは、単なる「場所」だけではありません。野菜栽培をサポートするアプリ「grow」や、土壌環境を可視化するIoTセンサー「grow CONNECT」といったテクノロジーを組み合わせることで、未経験者でも失敗なく、かつ「楽しく」野菜を育てられるプラットフォーム「grow」を構築しています。

効率性や生産性を最優先する従来の農業とは一線を画し、「楽しさ」を起点に持続可能な食と農の営みを生み出す「アグリテインメント」という独自の市場を開拓しています。

目指すのは「食と農の民主化」。テクノロジーで“楽しさ”を実装する

まず、御社の事業概要とミッションについてお聞かせください

日野原氏▼

私たちは「持続可能な食と農をアグリテインメントな世界へ」というミッションを掲げ、「食と農の民主化」を目指しているスタートアップです。 「民主化」と言うと少し難しく聞こえるかもしれませんが、現代の食は、地方や海外の大規模農業に依存しており、消費者はただ「食べるだけ」の存在になりがちです。

しかし、パンデミックや災害が起きれば供給は止まりますし、輸送によるCO2排出やフードロスの問題もあります。 だからこそ、必要な場所で、自分たちの手で育てて食べる。

そんな「地産地消」よりもさらに小さな単位での営みを、テクノロジーの力で誰もができるようにすること。それが私たちの考える「民主化」です。

その実現のために、展開されている「grow」プラットフォームについて教えてください

日野原氏▼

「grow」は、野菜栽培をナビゲーションするスマートフォンアプリ「grow」、畑やプランターに挿すだけで土壌の水分量や温度などを計測できるIoTセンサー「grow CONNECT」、そしてこれらを活用したスマートコミュニティ農園「grow FIELD」で構成されています。

私たちの農園の最大の特徴は、「区画貸し」ではないことです。従来の貸し農園のように「ここは誰々の場所」と区切るのではなく、「コモンズ(共有財産)」として、みんなで一緒に手入れをし、収穫の喜びも分かち合う「シェア型」の運営を行っています。

農というと「大変そう」というイメージがありますが、そこを「楽しさ」に変えている点がユニークですね

日野原氏▼

弊社の共同創業者である芹澤(代表取締役)は、「仕事にも学びにも『楽しさ』がないと続かない」という強い想いを持っています。

自動化された栽培工場や、区画貸しの農園を作るのではなく、みんなでワイワイ楽しみながら野菜を育てる。センサーやアプリの栽培ガイドやチャット機能のようなテクノロジーが楽しさを支える。それが結果として持続可能な営みになる、という「アグリテインメント(Agriculture + Entertainment)」の世界観を大切にしています。

だからこそ、農園のデザインや雰囲気づくりにも徹底的にこだわっています。ジャズが流れていたり、ハーブティーを飲めるスペースがあったり、「行きたくなる場所」であることを重視しているんです。

セッションのように「共創」する。スタートアップ流・産学連携のカタチ

御社は滋賀大学様をはじめ、多くの企業や大学と「共創」されています。なぜこれほど多くのパートナーシップが生まれるのでしょうか?

日野原氏▼

創業当時から、「自分たちの力だけでは限界がある、多くの人と取り組んでこそ新たな価値を生み出せる」という思いで動いてきたことが大きいですね。スタートアップですから、リソースも限られています。だからこそ、フリーランスの方やパートナー企業の皆様と一緒にプロジェクトを進めるスタイルが自然と定着しました。

また、代表の芹澤が元々ジャズミュージシャンを目指していたこともあり、ジャズのセッションのように、即興的に人を巻き込みながら新しい価値を生み出していく文化が根付いています。芹澤自身の「ビジョンを見せる力」と、良い意味での「周りを頼る力」が、多くの共感を集め、多様なパートナーシップに繋がっているのだと思います。

滋賀大学との共同研究―「楽しさ」を科学する。在来野菜×データサイエンスの挑戦

2021年から続けられている滋賀大学様との共同研究について詳しく教えてください

日野原氏▼

滋賀大学の先生から「在来野菜(固定種)の栽培手法を、データサイエンスを用いて確立したい」とお声がけいただいたのがきっかけです。 一般的に流通している野菜(F1種)とは異なり、古くからその土地に根付いてきた「在来野菜」は、種を採って翌年も育てることができる持続可能な品種ですが、栽培の難しさから品種の継承が危惧され、市場から姿を消したり失われてしまった品種も数多くあります。

そこで、私たちのIoTセンサー「grow CONNECT」で取得したデータと、滋賀大学様の持つ農教育・データサイエンスの知見を掛け合わせることで、在来野菜の栽培のナビゲーション精度を上げられないかという研究がスタートしました。これにより、在来野菜をより多くの人が育てることができ、品種の継承や野菜の多様性にもつながると考えています。

異なる分野との連携で、苦労された点はありましたか?

日野原氏▼

一番難しかったのは、「何をもって『良い生育』とするか」の定義と、スピード感の両立ですね。 アカデミックな視点では、あらゆるデータを精緻にとりたくなります。しかし、ビジネスとして実装するにはスピードも重要です。

そこで私たちは、議論の末に「指標を捨てる」という決断をしました。 複雑な病気の判定などは一旦置いておき、まずは「草丈」や「葉の枚数」といったシンプルな指標に絞る。そうやって「諦める部分はクイックに諦める」ことで、研究と実証実験のサイクルを回せるようにしました。

現在も、アカデミックな厳密さとサービスへの実装可能性のバランスをどう取るか、先生方と密に連携しながら進めています。

研究の成果はどのように現れていますか?

日野原氏▼

2025年6月に学会発表を行うことができました。 実は、私たちの研究には「エビデンスを作る」以上の目的があります。それは「楽しさを科学する」ことです。 ただ野菜が育てばいいのではなく、「どうすればユーザーがもっと楽しめるか」「どうすればコミュニティが続くか」。そのための裏付けとしてデータサイエンスを活用しています。

農の研究には時間がかかりますが、単にデータを分析して終わりではなく、その知見を「ユーザー体験(UX)」にどう還元するかという視点で、研究と事業開発を並走させています。

広がる「共創」の輪―都市そのものを実験場へ

滋賀大学様以外にも、ユニークな連携事例が多いですね

日野原氏▼

例えばタニタ様とは、東京大学の先生も交えて「スマートコミュニティ農園での体験がフレイル(虚弱)予防にどう繋がるか」という健康・医療分野の研究を行っています。 また、建材メーカー様とは、街中のスキマに設置できる「モジュール型ファーミングユニット」を共同開発したり、キューピー様とは「渋谷アーバンファーミング」プロジェクトを立ち上げ、生物多様性の勉強会や小学校での探求授業を開催したりしています。

私たちの役割は、プラットフォームや知見を提供し、各パートナー様の強み(食、建材、デザインなど)と掛け合わせること。それによって、単なる「農園」を超えた、新しい都市のインフラやカルチャーを共創していきたいと考えています。

技術だけではない。共創を加速させる「提案力」と「デザイン」

これだけ多様な企業とコラボレーションを実現するには、単に技術を提供するだけでは難しいのではないでしょうか?

日野原氏▼

おっしゃる通りです。実は今、私たちが一番力を入れているのが「提案力」です。以前は代表の芹澤の農やコミュニティ形成に関する知見や発想力に頼る部分も大きかったのですが、今はそれをチームのアセットとして強化しています。

単に「農園を作りませんか?」と提案するのではなく、その場所でどんなイベントを行い、どうコミュニティを盛り上げるか。そして、そこからどんなKPI(重要業績評価指標)を達成できるか。クライアントの課題に合わせて「体験」までデザインして提案できることが、私たちの強みになっています。

なるほど、農園を作った「その先」まで描いているのですね

日野原氏▼

おしゃれなデザインや楽しさの演出も含めて、「人が集まる仕掛け」を作ることが重要です。技術力だけでなく、そうした企画力やデザイン力があるからこそ、多くのパートナー様に選んでいただけているのだと思います。

未来への展望とメッセージ

今後の展望をお聞かせください

日野原氏▼

今、不動産業界や鉄道会社様など、まちづくりに関わる企業様からの引き合いが非常に増えています。私たちの取り組みは「スマート・リジェネラティブシティ」構想として、都市開発の一部になりつつあります。

都市における農(アーバンファーミング)は、非常に「懐の深い」テーマです。 単に野菜を作るだけでなく、コミュニティ形成や防災、フードロスや生物多様性といった環境問題、さらには教育、労働環境、テナント価値向上など、あらゆる社会課題を解決する手段になり得ます。

今後も、点在している研究や農園を線で結び、面へと広げていくことで、都市の中に新しい循環と再生(リジェネレーション)を生み出していきたいですね。

メディアでの注目度も高まっていますね

日野原氏▼

ありがたいことに、先日も代表の芹澤がForbesの「食の未来を輝かせる25人」に選出されたり、テレビ番組にも取り上げていただいたりと、露出の機会が増えています。 メディアを通じて私たちの活動を知っていただき、そこから実際の共創プロジェクトにつながるケースも多いんです。今後も、こうした発信活動には力を入れていきたいと考えています。

最後に、これから産学連携や共創に取り組もうとしている方へメッセージをお願いします!

日野原氏▼

研究はどうしても時間がかかるものです。だからこそ、「早めに、小さく始めること」が大切だと思います。 最初から完璧な成果を求めるのではなく、まずは走り出してみる。そうすることでアウトプットが出るまでのサイクルも早まりますし、走りながら見えてくる景色もあります。

私たちのアセットはいつでも開かれています。もし私たちのビジョンに共感してくださる方がいれば、ぜひ一緒に「セッション」するように、新しい未来を作っていけたら嬉しいですね。

まとめ

「楽しさこそが、持続可能性を作る」。日野原氏の言葉からは、テクノロジー企業でありながら、人間的な感情やコミュニティの熱量を何よりも大切にするプランティオの姿勢が伝わってきました。

滋賀大学との共同研究をはじめとする数々の共創プロジェクトは、単なる技術検証の場を超え、都市に住む私たちが「食」や「自然」とどう関わっていくべきか、その新しいライフスタイルを提示してくれているようです。

取材先:プランティオ株式会社

  • 法人名:プランティオ株式会社
  • 会社ホームページ:https://plantio.co.jp/
  • 代表取締役社長 CEO:芹澤 孝悦
  • 設立日:2015年6月16日
  • 資本金:2億5,532万円
  • 主な事業:IoT/AI、ICTを活用した野菜栽培ガイドシステム(grow)の開発、growを搭載した都市型農園(スマートコミュニティファーム)の企画/設置/運営、growを搭載したホームユース向けアーバンファーミングサービスの展開、農と食を切り口にした体験コンテンツ/教育プログラム等の企画/開発/運営、企業/自治体/行政向けGX(グリーン・トランスフォーメーション)の支援、企業/大学などと連携し、事業共創や、農と食を通じた未来の価値を創る共創研究 等