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連携取り組み事例

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学生の成長を第一に。スタートアップ企業と大学が両輪となってプロジェクトを進める株式会社Maenomeryの取り組み

はじめに

産学連携には、企業の担当者と大学の先生が主な窓口となってコミュニケーションを取りながらプロジェクトを進めるケースが多くあります。そうした中で今回ご紹介するのは、教授とのコミュニケーションのみならず、ゼミの活動支援を通じた学生との交流を密に行っている企業の取り組み事例です。

株式会社Maenomery(以下、同社)は、「全ての人々に前のめるきっかけを」をミッションに掲げ、GRIT人材(※)の紹介サービスを提供しています。事業を進めるうえで必要だと感じていた大学とのコネクション。様々な在り方や方法を模索する中で、立正大学との連携が実現しました。

今回は同大学と約4年前からプロジェクトに取り組んでいる同社取締役副社長兼COO山本弘明氏に、連携経緯や具体的な取り組み内容、連携によって得られたメリットについてお話を伺いました。

※GRIT=やり抜く力。Maenomeryは、やり抜く力こそ現代社会において必要な要素の一つと捉え、GRIT人材に特化した人材紹介事業を行っている

アントレプレナーシップ教育を推進するために

まずは、今回の連携経緯について教えてください

山本氏▼

当社が立正大学経営学部の藤井教授と連携について具体的に話し始めたのは、2021年の冬頃です。それから約半年後の2021年8月3日に連携協定を締結しました。

私は同大学のサッカー部出身なのですが、管理会計のプロフェッショナルであり、現在同部の後援会に藤井教授をOBが紹介してくれたご縁で交流が生まれました。採用支援を行っている当社にとって、大学とのつながりは重要です。最初から具体的な手段を描いていたわけではなかったのですが、藤井教授とビジネスや教育について議論を深める中で、行きついた先が産学連携でした。

産学連携の目的としては、どのようなものを掲げられたのでしょうか?

山本氏▼

大学生が学外の社会人と幅広く交流の機会を持つことによるアントレプレナーシップ教育の推進を、一番に掲げました。大学周辺の地元企業や人との関わりを通して、社会に求められる人材の育成を目指したのが出発点です。学生の教育に資するという前提のうえで、学生が社会に目を向け、身近な社会課題解決への企画実行力を高めることを目指しました。

主役は学生。学生主導のプロジェクトをサポートしていく

どのような形で取り組みが始まったのですか?

山本氏▼

連携協定の締結後、まずはゼミのプロジェクトチームごとに理念づくりをしました。藤井ゼミのメンバーで何を目指したいのか、どんなことを成し遂げたいのか、学生たちに考えてもらいました。私はサポートこそしますが、あくまでも主役は学生たち。最初は伴走支援をしましたが、学生たち主導で進められるようになってからは相談役のような立ち位置にいます。

学生とは週に1コマ(105分)のゼミの時間のほか、別途で設けられたミーティングの場やグループチャットでコミュニケーションをとっています。藤井教授と直接やり取りをすることもありますが、私が直接学生たちと関わる機会も多いですね。

具体的な取り組み内容についても教えてください

山本氏▼

藤井ゼミには例年、2年生3年生合わせて36人程の学生が在籍しています。36人がテーマ別に6〜8名程のチームに分かれるのですが、初年度はそのうち2チームを私が担当することになりました。

どんな社会課題の解決を目指したいのかチームごとに話し合ってもらった結果、出てきたのがフードロスの問題でした。チームごとに立ち上げたプロジェクトのうち、現在まで活動が続いているのが「ベジフク」です。ベジフクは「でこぼこ野菜に光を」をキャッチフレーズに掲げ、市場に流通しない規格外野菜に新たな価値を与えることでフードロスの削減に挑戦しています。

味も栄養価も劣らないのに、色や形、大きさが市場で定められた基準に合わないために通常の流通ルートでは出回らない野菜が規格外野菜です。見た目が多少悪くても味は変わらないことを伝えたうえで、安売りせずに正規の値段で販売できれば農家さんにも喜んでいただけますし、フードロスの削減にもつながります。学生たちは農家さんから届いた野菜や野菜を加工したスープやドレッシングをマルシェや文化祭、品川区主催のイベントで販売したり、なじみのお客さんに売りに行ったりしています。

農家とのコネクションはどのように作ったのでしょうか?

山本氏▼

コネクション作りも学生主導で進めていました。SNS発信をしている農家さんにベジフクのアカウントからメッセージを送ったり、ネットで調べて1件1件電話をかけたりメールを送ったり。特に、プロジェクトが始まった当初は実績のない中での地道なアプローチだったので、学生たちも苦労したと思います。でも、学生がやっていることで好意的に話を聞いてもらえたり、休日にお手伝いに伺うと申し出たら喜んで迎えてくださったりと、彼らなりのやり方を築いていました。

学生たちの成長の機会を奪わない

学生からはどんな質問や相談をされることが多いですか?

山本氏▼

企業や農家への連絡手段、営業の仕方からクレーム対応まで、実務に関する質問や相談が多いですね。基本的な動作や対応方法のベースは一般的なビジネスと通ずる部分が多いので、私の経験を踏まえてアドバイスをすることが多いです。金額設定やサービス設計、営業方法など、大事なところはしっかりサポートをして学生たちが動きやすいような状態を作るようにしました。

一方で、私も農家さんへの営業経験はありません。「農家さんがこんなことを言っていて…」という学生たちの話を聞きながら、一緒に新たな知識や学びを得ることも多くあります。

学生たちと接するうえで工夫していることはありますか?

山本氏▼

学生たちには判断がつかないときやリスクが伴うとき、明らかにビジネスとして成立しないと考えられる場合は介入することもありますが、最終判断は彼らに任せるようにしています。自分たちで決断を下すことで、学生がより主体性をもって取り組めるようにしているのです。

きっとここでつまずくだろう、こんな問題が起こるだろうと予想されることはすべて伝えています。そのうえで本人たちがやりたいと言うのであれば、今度はどうやったら実現できるかを一緒に考える。この産学連携ではプロジェクトやビジネスを成功させることがメインではなく、教育がメインです。藤井教授と共通している想いとして、「学生たちの成長の機会を奪わないこと」を特に大切にしています。

学生の成長を第一に考えられていることが伝わってきますね!

山本氏▼

ビジネスをゼロから考えてつくる経験はなかなかできるものではありません。この経験は就活でも活きてくると思います。いつか、ゼミでの経験をきっかけに起業する学生が出てきたら嬉しいですね。

大学との連携は信頼性や権威性を高める

学生たちと一緒にプロジェクトを進めるうえで、苦労したり難しさを感じたりしたことはありましたか?

山本氏▼

大学のゼミなので、毎年半数のメンバーが入れ替わります。ビジネスがどんどん発展していくというよりは年度ごとで何ができるか、どんなことをやりたいかを話し合って進めていくため、通常のビジネスのようには進んでいきません。ゼミの活動に費やせる時間に限りがあることや、学生間の熱量の差があることに難しさを感じることもあります。ただ、先ほど申し上げた学生の成長を大事にする視点に立ち返ると、私の役割はそうした難しさがある中でも柔軟な対応やサポートをすることだと思っています。

今回の連携を通して、御社が得られたメリットとしてはどのようなものがありますか?

山本氏▼

歴史ある立正大学と連携協定を結び、数年に渡って協働している事実は会社の権威性や信頼性の担保になっていますね。特に駆け出しの頃のスタートアップ企業は、この会社は本当に大丈夫だろうか、と営業先で思われることもあると思います。人材会社として営業先や取引先の各企業や大学と話をする際に、立正大学との連携事例は対外的なアピールになるという点で大きなメリットを感じています。

これは当社に限ったことではないですが、連携を通して学生と早期に接点を持つことは実際の採用にもつながる可能性があるほか、IR情報への記載によるメリットも期待できます。大学教育に貢献しているといった記載はIR上でも魅力的に映るからです。

理論と実践の融合

今後の新たな連携構想があれば教えてください

山本氏▼

立正大学の品川キャンパスと当社の地元とも言える五反田エリアで、エリア内の企業とコラボレーションをしていきたいですね。立正大学と企業が1対1で関係を築くというよりは、立正大学と当社がハブになりながら複数の企業とコミュニティーを築いたり協働できたりしたら地域の活性化にもつながるのでは、と藤井教授と話しています。

その他にも、企業のリソースを活かした研究や、共著で論文執筆するなど、企業と大学だからこそできる取組を思案しております。

最後に、大学との連携を検討しているスタートアップ企業の担当者にメッセージをお願いします!

山本氏▼

産学連携の価値の一つとして、理論と実践の融合が挙げられます。スタートアップ企業は、理論よりも実践の割合が多くなりやすいと思うんです。一方で、大学は実践よりも理論の研究が先行する場所。連携を通して企業側は実際に社内で起きている事象を理論と照らし合わせたり、専門家である先生方にアドバイスを求めたりすることができます。大学側は、理論がどこまで実際の現場で適用できるか探ることが可能です。

どちらかが技術や知識を一方的に提供するだけでなく、互いに持ち合わせていないものを融合でき、相互補完できるのが産学連携の魅力です。実践ベースになりがちなスタートアップ企業こそ、産学連携の価値を感じやすいのではないでしょうか。

まとめ

企業側の担当者である山本さんが毎週ゼミに参加したり、グループチャットで直接コミュニケーションを取ったりと、学生たちとの距離がとても近いことが印象的な本連携事例。学生たちの活動を手厚くサポートしている山本さんですが、ご本人は取材中、「こちらが学ばせていただいていることばかりのような気がしています」と語られていました。理論を学んだ学生が、実践の場で試行錯誤を重ねる姿から得る学びも多くあるようです。学生を操縦席に座らせ、大学と企業が両輪となってプロジェクトを進める姿に産学連携の価値を改めて感じました。

取材先:株式会社Maenomery

  • 法人名:株式会社Maenomery(マエノメリ)

  • 会社ホームページ:https://www.maenomery.jp/

  • 代表取締役社長:星野 崇史

  • 設立日:2018年8月

  • 資本金:1,000万円

  • 主な事業:GRIT人材紹介事業 ・合同企業説明会 ・採用アウトソーシング ・採用戦略、企画、立案 ・内定者研修 ・若手向け研修事業/プロアスリート・セカンドキャリア採用支援/アスリートデュアルキャリア ・教育サービス「HEY!」