全国の取り組み事例
折り鶴から未来素材へ──カミーノと志ある大学・企業が描く「循環型社会」
はじめに
持続可能な社会の実現を目指し、エシカルな取り組みに共感する大学や企業と連携してきたスタートアップ「株式会社カミーノ」(以下、同社)。
同社が開発した環境配慮型素材「PAPLUS®」は、京都女子大学や下関市立大学などをはじめとする大学のほか、ソフトバンク株式会社など大企業との協業を通じて活用の場を広げています。
今回は、スタートアップが直面しやすい予算的な制約や製品認知の課題を乗り越え、連携を実現した具体的な事例をご紹介します。
紙×プラスチックから生まれた新素材「PAPLUS®」
2015年に創設された同社は、環境配慮型素材のスタートアップ企業です。社名は「紙」と「道」を掛け合わせたもので、“紙のリサイクルから未来へつながる道”を象徴しています。
直近では、「PAPLUS®」を中心に同社によるプロダクトやサービスが、京都女子大学や下関市立大学、携帯キャリア大手・ソフトバンクといった企業との取り組みを通じて広がってきています。
さらに、同社では、環境配慮・デザイン性・社会貢献を三本柱に掲げ、広島の折り鶴を再生した「ONGAESHI(恩返紙)」 の名刺やノートを開発その収益の一部を平和祈念式典やウクライナ支援に充てるなど、社会的な活動にも積極的に取り組んでいます。
※以下、株式会社カミーノ・鍵本様へのインタビュー形式でお話をお伺いします
紙と樹脂の融合──「PAPLUS®」が生まれた背景
まず、御社の事業について簡単にお聞かせください
鍵本氏▼
当社は、環境に配慮した素材開発とデザインを軸に、3つの事業を展開しています。まず、紙とトウモロコシ由来樹脂を組み合わせた環境配慮型素材「PAPLUS®」の開発。次に、「PAPLUS®」の技術を応用しながら、「PAPLUS®」では実現できない、お客様がご要望する機能を備えるバイオプラスチックの展開。そして、広島に毎年、世界中から1000万羽(約10トン)贈られてくる千羽鶴を再生した「折り鶴リサイクル製品」の開発・販売です。
主力商品「PAPLUS®」とは、どのような素材なのでしょうか?
鍵本氏▼
「PAPLUS®」は、紙を30%混ぜ込んだバイオマスプラスチックです。従来の石油由来プラスチックに比べ、CO₂排出量を抑えられるだけでなく、使用後は回収して再び製品に生まれ変わらせることができます。主にトウモロコシ由来の樹脂を活用しており、最終的には水と二酸化炭素に分解されるという特性を持っています。
紙を混ぜることには、どのような狙いがあるのでしょうか?
鍵本氏▼
紙を加えることで、表面に細かな凹凸が生まれ、クラフト感や温かみのある質感になります。環境に優しいだけでなく、手に取った人が「これまでのプラスチックとは違う」と感じられるデザイン性を持たせることができる。ここに私たちのこだわりがあります。
学生の情熱が形に──京都女子大学の挑戦
京都女子大学との連携が始まったきっかけを教えてください
鍵本氏▼
きっかけは、学生から届いた一通のメールでした。京都女子大学では、『らしつよチャレンジ』という学生主導のさまざまなプログラムを実施しているのですが、「大学のカフェテリアで使われる使い捨てカップをなくす」ことをテーマに本プログラムへの応募を検討している学生さんから直接連携の相談を受けました。彼女は、代替素材を模索する中で当社の「PAPLUS®」を知り、本プログラムへの協力を依頼してくれたのです。
予算面ではどうしても不足があったものの、彼女の熱意に共感し、当社でも積極的に学生さんに素材や環境負荷の低減などのアドバイスを実施。結果、公募に採択され、彼女の取り組みに10万円の予算が付与されました。
その後、2022年9月に「PAPLUS®」製カップ100個がカフェテリアに導入が決定。導入後は、学生たちが手作りのPOPを掲示し、「これは環境配慮型素材です」と利用者に伝える工夫を行いました。外見上は一般的なプラスチック製カップと大きな違いがないからこそ、その背景を伝える姿勢が印象的でした。
このとき導入したカップは、今も大学のカフェテリアで使われているのですか?
鍵本氏▼
当社の「PAPLUS®」は、使用後に回収して再資源化できる仕組みを整えています。一方、京都女子大学のカフェテリアで導入された分については、いまだ弊社に戻ってきていません。これは、それだけ長く現場で使われ続けている証しだと考えています。プロジェクトを立ち上げた学生たちはすでに卒業しましたが、導入したカップは今も現場で活躍しているようです。
“海のまち”から発信する下関市立大学との連携事例
下関市立大学でも、学内のベーカリーカフェに「PAPLUS®」が導入されたそうですね
鍵本氏▼
下関市立大学に新設されたベーカリーカフェで本製品が採用されました。こちらのベーカリーカフェは学生が運営に携わるオープンな空間が特徴です。
ベーカリーカフェへの導入にあたっては、本プロジェクトに携わる外部のデザイナーと調整を重ね、元々のクラフト感のある素材にベーカリーカフェのロゴをいれることでオリジナル性を持たせました。学生たちからは「普通のプラスチックと違う手触りで愛着が湧く」といった声があり、利用者からも好評を得ています。
さらに、同大学が位置する下関市は、「海のまち」として海洋プラスチックごみ問題への関心が高い地域です。そのため、今回の導入は大学としても地域に向けて環境への姿勢を示す取り組みとして大きな意味を持ちました。導入後は、地域の人々からも「大学が環境に取り組んでいることを誇らしく思う」と反応が寄せられ、学生と地域が一体となって環境課題に取り組む象徴的な事例となっています。
大企業が選んだ循環──ソフトバンク本社での導入
携帯キャリア大手・ソフトバンクでの導入事例についてお聞かせください
鍵本氏▼
ソフトバンク本社での導入においては、1年以上のテスト期間を経て、全19フロアにあるカフェで「PAPLUS®」製カップを導入いただきました。採用にあたっては、電子レンジや繰り返しの食洗機にも耐えられることが求められていましたが、紙を混ぜずに強度を高めた耐久性の高いパプラスを提供することで、本導入まで漕ぎつくことができました。
導入にあたって、どのような課題がありましたか?
鍵本氏▼
大企業の食堂では既存の仕組みが確立されており、新素材の導入は容易ではありません。たとえば、電子レンジ使用時に紙が焦げるリスクへの対応や、強力な洗剤に耐えられるかといった点で多くの検証が必要でした。
そこで当社は、ソフトバンクおよび食堂運営会社と三者で協議を重ね、色や形状の最適化を繰り返しました。その結果、2025年4月から全フロアでの本格運用が実現しています。
同社では従来、年間350万個の紙コップと116万個のプラスチック蓋を消費し、廃棄費用だけで200万円近くかかっていましたが、リユース可能な「パプラスビズ」に切り替えたことで、環境負荷の削減に加え、年間約1,500万のコスト削減にも繋がったとお伺いしています。
若い世代が動かす──連携がもたらす新しい形
大学や企業と連携する中で、印象に残ったことはありますか?
鍵本氏▼
特に印象に残っているのは、学生たちの行動力です。中高生や大学生から「研究発表で活用したい」「環境について学びたい」といった直接の問い合わせをいただく機会が増えています。自らテーマを見つけ、主体的に取り組もうとする姿勢は、私たちにとっても大きな刺激になっています。
一方で、環境配慮は今や企業にとっても避けて通れないテーマです。かつてはイベントで大量のうちわや紙コップを配布し、使用後に廃棄される光景も珍しくありませんでした。しかし今では、環境負荷を減らす姿勢を示すことが企業の信頼性につながっています。そうした場面で「PAPLUS®」のような循環型素材は、環境配慮のメッセージを届けるための新しい手段になっています。
連携を進める上で、特に意識していることはありますか?
鍵本氏▼
新しい素材を導入するとなると、現場のオペレーションを一部変える必要が出てきます。しかし、大企業や学校法人の現場では、これまでのやり方を大きく変えることへの抵抗感が強く、無理に進めればプロジェクトが停滞しかねません。
そこで私たちは「受け入れやすい提案」を意識しています。たとえば、食洗機の強い洗剤が原因で劣化が早まる可能性がある場合は、より適した洗剤に切り替えることで長く使えるようにするなど、現場とともに具体的な工夫を考えています。
また、スタートアップはつい自社の沢山の魅力を伝えたくなりますが、実際に受け手の印象に残るのは一つか二つに限られます。だからこそ、自分たちのストロングポイントを明確にし、繰り返し伝えていくことが大切です。
当社の場合は「デザイン性と環境性の両立」を軸に据えています。環境に優しいだけでは差別化できませんが、デザイン性を加えることで、多くの人に共感していただけると実感しています。
最後に、大学と連携を検討しているスタートアップへのメッセージをお願いします!
鍵本氏▼
スタートアップにとって大きな課題のひとつは、いかに存在を知ってもらうかという点です。どれだけ優れたプロダクトであっても、認知されなければ社会に届くことはありません。加えて、限られた資金の中で大規模な広告に頼るのは難しいのが現実です。だからこそ、大学や企業との連携を通じて発信の場を得ることが、事業を広げるための大きな一歩になると考えています。
まとめ
学生からの一通のメールをきっかけに始まった取り組みは、大学や地域、そして大企業との連携へと発展しました。その過程を通じて、若い世代の行動力がスタートアップの挑戦を後押しし、社会的価値へとつながっていく姿が浮かび上がりました。
小さな声が確かな変化を生み出し、環境と人を結びつける新たな流れをつくり出している――今回の取材を通じて、その可能性を強く実感しました。
取材先:株式会社カミーノ
- 法人名:株式会社カミーノ
- 会社ホームページ:https://ca-mi-no.jp/
- 代表取締役:深澤 幸一郎
- 設立日:2015年4月
- 主な事業:環境配慮型素材『PAPLUS®(パプラス)』製品の企画・開発・製造・販売 / バイオプラスチック製品の企画・開発・販売 / 紙リサイクル製品の企画・開発・販売