全国の取り組み事例
自動配送ロボットがもたらす未来:Hakobotと近畿大学が“宅配クライシス”解消を模索①
はじめに
スタートアップにとって切実な課題のひとつが、「開発したプロダクトを持続可能なビジネスモデルに組み込む」こと。どんなに良い製品を作り出したとしても、それを用いて経営を黒字化することができなければ、やがて事業が成り立たなくなってしまうからです。
そこで今回は、“ものづくりの街”として知られる東大阪市で、配送ロボットの開発に邁進する「株式会社Hakobot」(以下、同社)と近畿大学経営学部経営学科の古殿研究室(古殿幸雄教授)が、そんな切実な課題に前向きに取り組んでいる連携事例を、2記事連続でご紹介します。
手元までのラストワンマイルを自動化する「Hakobot」
同社は、2018年の創業以来、「なんでも載せられる、しっかり運ぶ」をコンセプトに掲げ、自動運転機能搭載の小型モビリティを中心に開発するロボットメーカーのスタートアップです。4輪駆動・4輪操舵の独自設計で、走破性が高くシンプルな操作性を実現する配送ロボット「Hakobot」を開発しています。
同社が目指すのは、自動運転機能搭載の配送ロボットでかなえる、“宅配クライシス”のない未来。そのため会社設立当初から試作機のバージョンアップを重ね、2023年春からは屋外走行可能な試作機による実証実験を進めています。
※以下、同社代表取締役・大山様へのインタビュー形式でお話をお伺いします
“ものづくりの街”で市長からつながれた縁
近畿大学との出会いは、どのようなものだったのでしょうか?
大山様▼
近畿大学との出会いは、弊社の現在の株主であるサンコーインダストリー株式会社の社長から、直々に東大阪市(近畿大学の所在地)の市長を紹介してもらったことがきっかけです。市長からお話をお伺いするうちに、「開発中の配送ロボットをHANAZONO EXPO*の会場で走らせてみないか?」というご提案があり、実際に当時の「Hakobot」をHANAZONO EXPOに出展することになりました。その時、偶然会場で近畿大学の古殿ゼミに所属している学生さんにお声掛けいただいたことがきっかけで、近畿大学とのやりとりが始まりました。
*HANAZONO EXPOは、2025年開催の大阪・関西万博の前イベントとして、東大阪市で2022年と2023年にそれぞれ2日間にわたり実施されました。最先端テクノロジーの体験や地域文化の発信を通じて、万博のテーマである「いのち輝く未来社会」を市民に身近に感じさせることを目的としており、2022年には約7万人、翌2023年には約8万人が来場しました。産学官が連携して地域資源を活かしたこの催しは、まちづくりや技術実証の場としても注目を集めました。
HANAZONO EXPOでの出会いを経て、近畿大学との共同研究が始まった経緯を教えてください。
大山様▼
近畿大学のキャンパスまでは最寄りの駅から7、8分歩くのですが、その間にある商店街に人気の飲食店が数件あって、ランチタイムともなれば学生や教職員で大変にぎわいます。それを受けて、近畿大学では、昼休みの時間を有効活用できるようにという人力の出前サービスを展開していたのですが、当時この取り組みを担当していたのが、HANAZONO EXPOで我々に声をかけてくれた学生さんでした。彼は、モビリティの会社でのインターン経験があり、「『クルメシ。』に配送ロボットが使えるのではないか?」と考えたそうです。
2022年12月当時のプロダクトは屋内専用で屋外での自動運転ができなかったのですが、翌年3月頃は屋外機の完成を見込んでいたので、ラジコンを使いながらまずは屋内機を大学構内で100m~200mほど走らせるデモンストレーションを学内関係者向けに行いました。その後、「自動配送ロボットとしてどのように活用するか?」という学生たちとのアイデアソンと屋外機の登場を経て、正式に近畿大学との共同研究が開始しました。
分野違いの連携が奏功して課題が浮き彫りに
近畿大学とは、配送ロボットの技術を一緒に開発しているのですか?
大山様▼
技術的な開発は弊社が行っています。一方、今回の連携先である古殿研究室は経営学部なので、研究室の学生さんたちには「このロボットを使ってどんなビジネスモデルを作れるか?」「どうすれば収益化できるか?」というビジネス化のサポートをお願いしています。
ちなみに古殿研究室は、アントレプレナー(起業家)教育にも力を入れており、近畿大学の中でもビジネスに対する意識がひときわ高いです。実際、同研究室は「株式会社古殿研究所」として、2022年に近畿大学発ベンチャー企業の認定も受けています。
そんな背景もあり、学生たちは皆積極的に「Hakobot」の活用方法について考えてくれました。
今回の産学連携は、「Hakobot」の開発にどんな影響を与えているのでしょうか?
大山様▼
産学連携に協力的な大学は多い反面、近畿大学ほどしっかりと構内のスペースを実証実験のために貸し出してくれる例は少なく、非常に助かっています。
実際、2023年9月には、大学のオープンキャンパスに来場した高校生向けにミネラルウォーターを配布する実験を行っています。その時も、準備段階で約2カ月かけて広いキャンパス内の地図データを3Dで撮ることができ、その後の自動運転に非常にスムーズに対応することができました。
これらの実証実験を通して、モチベーションの高い学生さんたちからもさまざまな意見を聞くことができ、それを開発に活かすことでロボットの性能をブラッシュアップできているという手ごたえがありますね。
学生たちのモチベーションは、どんなところにあるのでしょうか?
大山様▼
学生たちとしては、先進的なデバイスを使ってどんなビジネスを構築できるのか、自分たちで考え出していくところにやりがいを感じているようです。
彼らは経営学部ですから、この新しい技術で生まれたロボットを使ってどんなビジネスモデルがつくれるだろうと、彼らの中で議論を重ねているようです。
製品視点が中心になりがちな私たちに対して、学生さんたちはマーケティング思考ベースで意見を出してくれるので、とても参考になりますね。
学生たちとの連携や実証実験としては、2023年9月以降、以下の取り組みを行いました。
- 2023年11月:HANAZONO EXPOに近畿大学ともに共同出展(弊社にとっては2回目の出展)
- 2024年3月:商店街から大学キャンパスまでのお弁当配送(『クルメシ。』での活用)
特に、2の実証実験については、実験自体は成功したものの、単価の低いお弁当などを運ぶだけでは収益があまり見込めないというリアルな意見も学生たちから聞こえてきました。
それを受けて、私たちは「お弁当よりも重い荷物を公道で運ぶ」という次のステップを考えるようになりました。これは、結果として次年度(2024年4月)の共同研究のメインテーマとなっています。
次のステップは“ものづくりの街”で「Hakobot」を走らせること
実際、大学の構内にとどまらず、街での実証実験も進んでいるそうですね
大山様▼
古殿研究室の皆さんと実証実験を重ねるうちに、人がたくさんいる場所ではセンサーが反応しすぎて止まってしまう、建物があまりない場所では自己位置の測位がしにくいといったデバイス上での課題が浮き彫りになりました。これらの課題は、2023年に実施した実証実験を受けて、現在ではすでに改良されています。
先ほど述べたように、公道での実証実験も進んでおり、“ものづくりの街・東大阪市”ならではの「Hakobot」の需要も見えてきているところです。
まとめ
今回の同社と近畿大学の連携事例は、同社の想いに賛同する株主会社の社長の存在や、HANAZONO EXPO開催のタイミング、そして起業意識の高い学生たちの行動力などが引き寄せた縁…という側面もあるかもしれません。
一方で、その中心でスタートアップがしっかりとした将来ビジョンを持ち、技術を磨き続けることで求心力が増しているという事実があります。
連携している大学の構内を飛び出して、“ものづくりの街”へと実証実験の場を移した同社。連載第2回目は、スタートアップの新たなる挑戦をご紹介します。
▶ 後編はこちら✨
取材先:株式会社Hakobot
- 法人名:株式会社Hakobot (Hakobot inc.)
- 会社ホームページ:https://hakobot.com/
- 代表取締役:大山 純
- 設立日:2018年5月
- 主な事業:配送ロボットや自動運転機能搭載の小型モビリティ等の開発