遠隔操作で顧客支援サービスを行う、avatarin(アバターイン)株式会社(以下、avatarin)のアバターロボット「newme(ニューミー)」をローカル5GとDASの環境下で使い、遠隔による区民サービスの有効性や技術面を検証する実証実験が2024年9~12月に大田区役所本庁舎にて行われました。これは、東京都「次世代通信技術活用型スタートアップ支援事業(Tokyo NEXT 5G Boosters Project)」に開発プロモーターとして採択された株式会社キャンパスクリエイトの支援のもとで行われたものです。(実証の概要については、第1回「avatarinに聞く、実証の概要と結果、今後の展望」をご覧ください。)
そこで4回に分けて、関係した4社にそれぞれの立場でお話を伺っていきます。第4回は、電気通信大学 先端ワイヤレス・コミュニケーション研究センター(AWCC)藤井研究室で行われた、本実証フィールドでの周波数帯域の計測・データ収集に関する報告会の様子をお伝えします。
公共施設におけるキャリア通信環境を把握するとともに、ローカル5Gの設置がnewmeの運用に効果的だと証明
今回の実証実験では、大田区役所本庁舎2階にローカル5Gの基地局を設置して発信し、それを1階のnewmeに送受信させて通信を行い、4階にはDASという分散型アンテナシステムを設置し、ローカル5G通信のエリアを広げてデータの送受信を行いました。
本報告は、実証フィールドである大田区役所本庁舎におけるキャリア通信環境について、電通大 AWCCセンター長である藤井威生教授の協力により、藤井研究室が開発した機器を持ち込んで測定・検証を行ったものによります。測定は2024年12月18日(水)9時~13時に、newmeが来庁者に案内業務を行っている区役所1階の7地点で行われました。
※持ち込んだ測定機材。3個のRaspberry Piおよび受信機(APAL製)、AP(アクセスポイント)から構成され、3キャリアの電波を同時計測可能。
※RaspberryPiにてごく短い時間スループットを測定し、測定後に他のRaspberryPiで測定する過程を繰り返していく。
この測定では、指標として以下のような数値を取得しました。
・RSRQ 参照信号受信品質
電波の受信品質を数値化した値で、基地局の混雑度、ノイズや干渉具合の目安となる
・RSRP 参照信号受信電力
電波強度を数値化した値で、基地局の設置条件や通信エリアの障害物などの影響が分かる
・SINR 信号対干渉雑音比
所望信号がそれ以外の信号([ノイズ+干渉])と比べてどれほど大きいかが分かる
これらの数値を三種のキャリア(docomo、KDDI、softbank)×7地点で測定し、スループット(単位時間当たりに転送されたデータ量)、ジッター(パケット送受信の遅延時間の変動量)、パケロス率(送信されたパケットのうち、受信側に届かなかった割合)で評価を行いました。また、同じ12月18日に区役所中央出入口付近で40分間、docomo SIMを使った定点測定も実施しました。
※測定した大田区役所本庁舎1階の7地点。
※出典:大田区ホームページの大田区役所本庁舎・フロア案内よりフロアガイド
これらの測定により、以下のことが分かりました。
・キャリアの種別と測定地点によって、通信速度は大幅に変わった。
・5Gカバーエリアであってもキャリアによって、5Gへの接続をつかむ場合とつかまない場合がある。
・時間帯でも、5Gへの接続をつかむ時間帯とつかまない時間帯がある。
・建物の入り口付近では5Gをつかみやすいが、屋内に深まるとつながりづらくなり、通信品質も低下する。
・定点測定の結果から、人の混雑度によって通信品質が大きく変わった。
※特定のキャリアのスループットについて、地点6で定点計測を行った結果。11時52分あたりから昼食休憩等で人の出入りが増加したことに起因する人の混雑度の変化によって通信品質が大きく変動した。
一方で、ローカル5G基地局とDASを用いた場合、庁舎内の無線通信環境は非常に良好で、newmeは大きな通信トラブルなく、安定的に稼動していました。
こうしたことから現行のキャリア通信環境と比較すると、ローカル5Gの設置がnewmeの運用上、より効果的であるという結果が、この測定で明らかになったといえます。
さらにいえることとして、全国の庁舎においてもローカル5G基地局の整備などを通じて、庁内全域で常時安定して高品質な5G通信が可能になれば、5Gを活用したロボットやアプリケーションがより運用しやすくなるとともに、年々増加していく通信トラフィック量へも対応していけるでしょう。
また同時に、災害時においても無線通信インフラが切れないことで、遠隔地とのコミュニケーションを取るなど、公共施設の災害強靭性の向上にも貢献できると考えられます。
第4回終わり
【avatarinが大田区役所で「ローカル5G×DAS×アバターロボット」による遠隔区民サービスの有効性を検証 他の連携記事】
(第1回) https://www.campuscreate.com/next5g/407/
~avatarinに聞く、実証の概要と結果、今後の展望~
(第2回) https://www.campuscreate.com/next5g/414/
~大田区役所に聞く、行政における実証の意義や成果、アバターロボットの可能性~
(第3回) https://www.campuscreate.com/next5g/419/
~産業技術総合研究所(産総研)に聞く、遠隔接客業務における実証の意義や成果、newmeの可能性~
※5G SA:5G専用のコアネットワーク設備である5GC(5G-Core)と5G基地局を組み合わせて通信をする方式