avatarinが大田区役所で「ローカル5G×DAS×アバターロボット」による遠隔区民サービスの有効性を検証  ~第1回avatarinに聞く、実証の概要と結果、今後の展望~

遠隔操作で顧客支援サービスを行う、avatarin(アバターイン)株式会社(以下、avatarin)はアバターロボット「newme(ニューミー)」をローカル5GとDAS(ダス:分散型アンテナシステム)環境下で活用し、遠隔による区民サービスの有効性や技術面を検証する実証実験を、2024年9~12月にかけて大田区役所本庁舎にて行いました。これは、東京都「次世代通信技術活用型スタートアップ支援事業(Tokyo NEXT 5G Boosters Project)」に開発プロモーターとして採択された株式会社キャンパスクリエイトの支援のもとで行われたものです。

そこで4回に分けて、関係した4社にそれぞれの立場でお話を伺っていきます。第1回は、この実証実験の概要と結果、今後の展望について、avatarinの連携研究部/ソーシャルソリューション部部長 筒 雅博さんに伺いました。

都心の混雑した区役所で、newmeが適切な窓口を案内

―まず、この実証の背景と目的を教えてください。

筒:avatarinでは、東京都の次世代通信技術活用型スタートアップ支援事業のもと、2023年度には八丈島空港にnewmeを置いて、東京から遠隔で来島者や島民にリアルタイムで観光案内を行う実証実験を実施しています。それに次ぐ2024年度には、お客様の数がさらに多い都心の混雑エリアでの実証を行いたいと思い、大田区様に依頼して本実証を進めさせてもらいました。

目指したことは、当社のnewmeをローカル5G環境下で使うことで区民サービスの向上につなげられないかという検証です。さらに技術的には、DASという技術を組み合わせて、ローカル5Gのカバーエリアを少し広げたところでnewmeが適切に運用できるかという検証も行いました。

―実証の概要を具体的に教えてください。

筒:実証期間としては、2024年9月から12月からの3ヶ月間と少し長い期間を設けました。9/26~12/6の期間は、大田区役所本庁舎1階の総合受付案内周辺と戸籍住民課窓口近くにnewmeを配置し、遠隔で東京都中央区の当社オフィスから操作して案内業務を行いました。また、12/9〜12/20の期間ではDASを用いて4階の中央案内板付近にもnewmeを配置し、複数フロアを利用する来庁者に対してシームレスに案内を行いました。

1階戸籍住民課窓口付近で来庁者が案内を受ける様子

―実証の結果はどのようでしたか?

筒:実証開始前は、案内件数1000件程度を目標にしていましたが、実証を終わってみるとその2倍以上を上回る2600件もの案内を遠隔から行うことができました。そして技術面では、ローカル5G通信が安定して確保でき、人の往来が激しい場所でも品質の高い通信が安定的に得られることを確認できました。また、newmeはリアルタイムで映像や音声等のデータを送受信するため大容量のデータ通信を必要としますが、そのような条件であっても低遅延でスムーズにnewmeを操作し、ご案内を行うことができました。それは、DASを活用した場合でも変わらず、複数フロアでのサービス提供もシームレスに実施できました。

安定したローカル5G環境下で、3ヶ月間ほぼ通信トラブルなし

―区民など、利用者からはどのような感想や意見がありましたか?

筒:概ね好評で、「最初はよく分からなかったが、声をかけてくれ、親切に案内してもらえて満足」「画面に顔が映っているので、人が対応してくれているのだと分かり、感じも良く安心だった」といった声がありました。また、多言語対応のできるスタッフが担当したので、外国人の方にも便利だったようです。

意外だったのは、空港などでの実証では若年層にnewmeはよく使われるのですが、区役所ということでそもそも来庁者の年齢層が幅広く、10代から70代まで万遍なく利用していただけました。さらにアンケートによる満足度や信頼性の評価では、20代と60代以上で評価が高く、中間報告時以降はさらに高くなったので、繰り返しご利用いただき、newmeに慣れていただけたようです。

―そのほか、何か発見はありましたか?

筒:今回案内した結果をsucceed(失敗)で判定したのですが、興味深い示唆が得られました。failというのは、声が聞き取れなかった、オペレーターが正解の案内が分からず正しい案内ができなかったというものです。このfail率が、実証の初期には2~4割ほどあったのですが、その原因は、音声や映像の乱れによるものもありますが、9割以上は案内のスキルによるものでした。最初の1週間を過ぎるとfail率は目に見えて減少し、おおよその案内ができるようになっていたことから、ローカル5G環境を構築することでnewme導入の有効性を確認できました。今後、さまざまな場所でnewmeを導入する際の参考になると思われます。

―あらためて、ローカル5Gの技術面で感じられたことは何かありますか?

筒:3ヶ月間運用して通信トラブルがほとんど発生しなかったので、ローカル5Gもここまでレベルアップしたのかと実感しました。普通に使える技術になりましたね。

それにはソフトウェア側のすり合わせも重要で、newmeがいる場所によっては物理的に電波が届きにくいケースもありますが、たとえ電波が弱くても裏側のスループット(一定時間あたりに処理できるデータ量)に余裕を持たせておけば、安定した通信が可能になります。

2階に設置したローカル5Gの基地局(※1)

4階に設置したDAS(※1)

 

newmeで収集した行動データから、庁舎内の掲示・動線の改善も

―今回の実証の結果をふまえ、今後の展望を聞かせてください。

筒:行政サービスの案内業務においてnewmeが貢献できることが確認できました。今後は、本庁舎と出張所、あるいは自治体をまたぐなどして、優秀なオペレーターが幅広く活躍できる機会を創出していければと考えています。行政にとっても、人手不足への対応策として有効だと思います。一般的に人件費が高騰するなかでも行政コストは抑制を求められるので、本格的な業務効率化やnewmeの導入が進む流れにあると思います。当社として、そこでぜひ貢献していきたいですね。

また、newmeの配置場所ごとの案内件数データを分析することで、来庁者の行動パターンを把握することも可能になります。こうしたデータを継続的に蓄積していくことで、今後のより質の高い行政サービスの提供に活かしていけると考えています。そのような取り組みを進めていきたいです。たとえば、データから、案内表示の強化が必要な場所を把握できれば、庁舎内の動線の設計の見直しにも活かせるのではと思います。さらにこうしたリアルなデータをAIの学習に活用することで、新たな形のサービス提供にも繋がるかもしれません。今回、公共性の高い区役所という場所で、多様な来庁者に対応することで、そのリアルなデータ収集の可能性も感じることができました。

―最後に、newmeの活用に興味ある自治体に向けてメッセージをお願いします。

筒:1人のオペレーターが時間を区切って、複数の自治体で案内業務を遂行するモデルは、ぜひ今後推進いきたいと考えています。実際に、今回の大田区役所での実証期間中、別件の地方空港での実証が重なったときがあり、。また、当社では八丈島でも実証を行った経験がありますので、地方でも対応可能です。

加えて、地方自治体からの要望に多いのは災害時対応の支援ですが、平時に行ったことがあれば災害時にもスムーズに対応、運用することができます。さらに言えば、人的リソースを柔軟に投入するのは、アバター技術でなければ難しいでしょう。平時で30台のロボットを活用いただいていれば、30人での有事対応をどこからでもできます。このような取り組みについても、関係機関の皆様と協力して、ぜひ進めていきたいと考えています。

※1:大田区とavatarinのローカル5Gと遠隔操作ロボット「newme」を使った実証実験が第2期に突入しDASを使って複数フロアで展開

[動画] YouTube. https://youtu.be/7yx-3Zo0e_4?si=6KZzt6BWvCN_wOvu

第1回終わり

 

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