船の自動運転システムで、水上モビリティを自律化。船舶自動運転のグローバルプラットフォーマーを目指す~株式会社エイトノット~

「あらゆる水上モビリティをロボティクスとAIで自律化する」をテーマに、2021年3月に設立した株式会社エイトノット。船の自動運転に当たる「自律航行」のシステムを小型船舶向けに展開しています。代表取締役CEO / 共同創業者の木村裕人さんに、製品/サービスの特徴や強み、5Gを活用することで実現できること、目指す世界観などについて聞きました。

カーナビ感覚で目的地を選び、無人で航行

―まず、御社の事業について教えてください。

木村:水上モビリティの自律航行システムを開発しています。船舶自体を造るのではなく、既存の船に後から載せられるシステムを開発しているのが特徴です。

分かりやすいUI/UXで、カーナビの感覚で目的地を選ぶことができ、航行中は乗船者に不安を与えないよう、船が今どこに向かおうとしているか、目の前にどんな障害物があるのかを表示し、それらを回避していく動作を見せていきます。また、船舶では離岸・着岸に慎重な操船が必要ですが、それも適切なルートを設定。このように離岸から着岸まで全てオートで、途中で他船や障害物を発見・回避するのも全て自動です。

2021年に創業して、プロダクトとしての基礎的なPoCは終え、まだ各地で事業実証は行っていきますが、いよいよ事業拡大フェーズに入っています。

―小型船舶に特化しているようですが、それはなぜですか?

木村:日本では 総トン数20トン未満の船舶が小型船舶と定義されており、各種レギュレーションを通しやすいので、技術開発スピードを優先して小型船舶から手がけています。たとえば、20トン未満は日本小型船舶検査機構(JCI)という民間機関が車検に当たる船舶検査を実施しますが、20トン以上は国土交通省(JG)の管轄となり、取り付けるハードウェアなども検査が厳しくなります。

―カーフェリーやコンテナ船などの大型船舶では、大手船舶会社も自律航行に取り組んでいますが、小型船舶との違いはありますか?

木村:求められる技術要素が異なり、大型船舶は水上を2次元的に動くイメージで波の影響をあまり受けないのですが、小型船舶は波や風の影響を受け、船体の傾きという要素もあるので3次元的に制御が必要です。漂流物についても、大型船舶にはさほど影響ありませんが、小型船舶はプロペラなどに当たると動けなくなることもあるので、細かいものも見つけて素早く避ける制御動作が必要です。他の船舶との関係も、大型船舶は警笛を鳴らして他船に避けてもらうのに対し、海上交通安全法では、動力付きの小型船舶が航路において一番優先度が低く、他船を避けなければならないという扱いになっています

―すると、小型船舶の自律航行ビジネスはブルーオーシャンなのでしょうか?

木村:国内では船舶の自律航行はほとんど大型船舶で、小型船舶で積極的に取り組んでいるのは当社くらいですね。海外では出てきていて、特にヨーロッパではEV船を建造して自律化技術を載せ、河川や運河で使われ始めています。また、小型船舶の数も、日本は31万隻ですがグローバルでは3000万隻と、100倍近い差があります。スタートアップとして非連続な成長を目指すため、当社も海外展開の準備を始めています。

離島への24時間水上タクシーや、ドローンとの協調制御で物流革命も

―この自律航行システムにより、どのような課題が解決できますか?

木村:船舶は漁業や水上警備、プレジャーボートなど、多様な使われ方をしますが、国内では小型船舶を旅客や物資輸送など、商用で使っている方々に向けて展開しています。船長の業務負荷を減らし、乗組員の操船技術差を無くし、新人でも安心して業務を行える。この3点で支援します。商用船は事故があれば事業存続が厳しくなるため、安全性への意識が非常に高いもの。そこで操船技術の部分を自律航行システムでサポートし、船長にはより安全航行に専念してもらいたいのです。

―船長業務における負担とは、何が大きいのでしょうか?

木村:操船中は360度全てを見張る必要があります。自動車なら白線や車道、標識など、注意すべき点がある程度決まっていますが、船にはそれがないのです。また、接触や衝突も意外とあり、船舶同士のほか、流木を見落としてプロペラに当たって航行不能になったり、漁師の網に絡まったりなどもあり、これらに備えねばなりません。
操作も船舶独特の操船挙動になるので、一人前になるのに最低1年かかり、新人のフォローも大事。さらに、旅客船だと乗降のサポートや航行中の安全管理も、基本的には船長が全責任を負います。
運行海域の知識も重要で、浅瀬に岩礁があるとか、このあたりは漁師が網を仕掛けているといった状況を把握し、潮の満ち引きや海況の変化に関する知識も必要。ですから自律航行で操船技術面をサポートすることで、他の業務に専念してもらいたいのです。

―具体的な取り組み事例を教えてください。

木村:国や自治体からの採択事業は多数行ってきました。創業直後には、広島県のアクセラレーションプログラムで離島への物資輸送の実証実験に採択。2022年には、国土交通省のスマートアイランド推進実証調査業務に採択された、離島へのオンデマンド水上タクシーの検証に参加。これはフェリー運行のない時間帯にも海上交通を整備することで、住民の利便性向上や移住者増を目指したものです。離島以外でも、24時間水上移動・輸送が可能になれば、世の中に選択肢を増やせると感じた案件でした。
また、広島市内の旅客船事業者に2023年1月に期間限定で自律航行EV船を導入して行った 、観光施設をオンデマンドでつなぐ水上タクシー事業は、日本初の自律航行EV船による営業航行です。そこで衛星測位システム「みちびき」の高精度GPSを活用しましたが、後に内閣府による「みちびき」の実証実験で、自律航行する船舶にドローンを自動で離発着させる協調制御にも取り組みました。これにより、離島などの物流に水圏・空圏を最大限活用することが可能となります。

―広島の水上タクシー事業以外に、営業航行は進みそうですか?

木村:2023年からお客様がつき始めたところで、年度内に4隻納品予定です。クルーズツアーを行う宿泊施設や水産・養殖関係など、決められたルートを航行させるようなケースと相性が良いですね。船舶エンジン商社を営業パートナーとしているので、いろいろニーズを掘り起こしていきたいです。

5G環境下での安定航行で、日本における「無人航行解禁」を目指す

―このサービスに5Gを活用することで実現できることを教えてください。

木村:実はこの自律航行システムには「遠隔モニタリング機能」も搭載しており、リアルタイムで船と通信できるようにして安全航行・安全管理に役立てています。将来的には船舶自体を無人化し、船長が1人、陸から複数の船舶を遠隔で監視する世界を描いているのですが、5Gの低遅延・大容量の通信により、この遠隔モニタリングによる監視がより安全に行えると期待しています。
そして現状では、日本の法規制では無人航行は想定されていないのですが、5G通信環境下で安全性を示せれば、無人航行解禁への大きなステップになるでしょう。
そのほかに、無人航行によるビジネスの広がりとして、エンタメ領域も期待しています。ジャングルクルーズのように決められたルートを行き来しているところに、5G通信で船上にリアリティあるコンテンツを提供できれば面白いと思います。

―事業の今後のロードマップは、どのように考えていますか?

木村:日本における無人航行解禁を2027年に実現するのが目標です。その瞬間に、一気にグロースできるよう、自律航行の価値やさまざまな活用法を多方面に提案していきたいですね。

そして、足元では海外展開を本格化させようとしています。2023年にはリサーチを行いましたので、2024年には海外でPoCを行い、2025年に海外事業を立ち上げるのを目指しています。実際リサーチしてみると、パリ市内では自動車の最高速度が30キロ以下の場所が多くて渋滞しやすいので、定時配達のためにセーヌ川の河川輸送が活用されていたり、ロンドンでもテムズ川が国内輸送量の10%を担っています。このように水上交通が重用されている場所が世界では多く存在するので、そうしたところでぜひ無人航行システムを展開していきたいです。

―では最後に、この技術に興味をお持ちの人へアドバイスをお願いします。

木村:まず、日本で離島にまつわる課題解決に取り組みたいと考えています。創業から数多くヒアリングや視察をしてきましたが、たとえば離島に住む高齢者は本土に通院するために前泊が必要だったりして、コストも時間も体力も負担を強いられます。オンデマンドの水上交通が無人で気軽に提供できれば、本土では当たり前のサービスを離島でも受けられるようになる。そうしたことが人口の分散化にもつながり、国が掲げるデジタル田園都市構想に貢献できると思います。

一方で、無人航行は海事領域を成長産業に導ける可能性がありますので、海や河川、船舶といった業界以外の、外部の方々にぜひもっと注目いただきたいのです。たとえば不動産デベロッパーがウォーターフロントを開発したときには、合わせて水上でエンタメを提供するとか、海辺のホテルや飲食店へのアプローチとして無人の水上タクシーを利用するなど、タッチポイントが増えていけばさらなる可能性を見出せるでしょう。日本で海上・水上交通の価値を再評価させたいので、ぜひ一緒に何か仕掛けていきましょう。

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