福岡工業大学 工学部 電気工学科 准教授

田島 大輔

  • エネルギー
  • 機能性材料

Bi置換YIGによるスピン熱電発電特性

温度150 ℃ 以下の熱エネルギーは回収しにくいとされており,低温度の熱を電気エネルギーに変換する技術の確立が求められる。
近年,新しい熱電発電技術としてスピンゼーベック効果(spin Seebeck effect: SSE)を利用して廃熱エネルギーを電気エネルギーに変換するスピン熱電(spin thermoelectric: STE)発電が注目されている。

STE素子は,常磁性金属(paramagnetic metal: PM)薄膜層とフェリ磁性絶縁体(ferrimagnetic insulator: FMI)との2層構造で2次元平面形状であるため,発電面積の拡大に有利である。
PM薄膜層の代表的な素材は常磁性金属であるプラチナ(Pt)である。
フェリ磁性絶縁体には有機金属分解法(metal organic decomposition: MOD)や液相エピタキシャル成長法(liquid phase epitaxy: LPE)によりガドリニウム・ガリウム・ガーネット(GGG)基板上に成膜したイットリウム鉄ガーネット(yttrium iron garnet: YIG)膜が多く使われる。

STE素子での発電は、フェリ磁性絶縁体であるYIG膜に膜面垂直な温度勾配を与えて温度勾配によるYIGの鉄(Fe)d局在電子スピンによるスピン波スピン流(spin wave spin current)を生成させ、そのスピン流をFMIとPMの界面(PM/FMI interface)を通してPt層のs自由電子へスピンポンピングし、Ptの持つ逆スピンホール効果(inverse spin Hall effect: ISHE)によりスピン流を伝導電子流に変換することでSTE電圧VSTEを得ている。

STE発電素子における発電電圧向上は、二層構造のPMとFMI及びPM/FMI界面について種々検討がなされている。
PM層については、PtのISHEによるSSEに加えて、Pt層のFeやコバルト(Co)など強磁性金属との合金化で観測される異常ネルンスト効果(anomalous Nernst effect: ANE)の利用によるVSTEの向上が実験されている。
PM/FMI界面については、強磁性層(NiO層など)を挿入することによるスピンポンピングの向上が試されている。
FMIについては、YIGの他に各種スピネルやガーネットフェライトが実験されている。
スピン熱電発電では発電機構を理解した上で特性を向上させることが重要であり、実用的観点からより高いVSTE値を得ることが課題である。

 

本研究では,LPE法によりGGG基板に成膜したYIG膜及びYとFeをそれぞれ部分的にBiとAlで置換したBiAl:YIG膜をFMIとして組み込んだSTE素子の発電電圧特性を検討してYのBi置換による発電電圧向上を確認した。そして,この発電電圧向上の起源を強磁性共鳴(ferromagnetic resonance: FMR)測定結果から明らかにした。

LPE法によるYIG膜、とりわけビスマス(Bi)置換膜(Y3-xBixFe5O12)では、
Biが強い分極性を示してイオン半径が大きいので、Bi3+イオンはYIG結晶格子内の酸素O2-イオンとの結合性が強く、また結晶格子歪みに与える影響も大きい。
LPE法は膜厚10〜20 umの充分な厚さの膜を成長させることが出来るのでLPE膜での発電電圧はもともと大きいが、
x=1.27のBi:YIG膜を組み込んだSTE素子はx=0であるYIG膜VSTE値の1.5倍の電圧を示した。
FMR測定においてBi:YIG膜で緩和定数が増加したが、我々はこれをFeの3d電子におけるスピン軌道結合(spin-orbit coupling: SOC)の増大によると考えている。
すなわち、Bi:YIGでは局在d電子のSOCが強まる。素子長5 mm、高温端と低温端の温度差25℃の条件において、x=0.65のBi:YIG膜を組み込んだSTE素子は80 uV(SSSE=3.2 uV/K)の高いSTE電圧を示した。

発電性能の高いこれらのBi:YIG膜を組み込んだSTE素子について、効率的にFMIに熱流束を与えることの出来るSTE素子構造を温度端子形状も含めて検討している。