名古屋工業大学 大学院工学研究科 工学専攻 教授

猪股 克弘

  • ものづくり
  • 機能性材料

形状記憶ポリマー・構造色エラストマー

●形状記憶ポリマー(Shape Memory Polymer, SMP)
プラスチックなどの樹脂材料において、成形された形状とは別の一時的な形状に変形・固定が可能で、必要に応じて再び元の形状に自発的に戻すことのできる材料が、形状記憶ポリマー(SMP)です。

従来のSMPでは、文字通り「形が変わる」という観点での利用が行われてきました。代表的な例が、加熱すると細くなる熱収縮チューブで、すでに広い分野で利用されています。一方で、「形状を記憶して元に戻る」特性は、別に見方をすると「材料が軟化しても元の形状を保つことができる」特性でもあり、そこに着目した実用化も行われています。

 

我々は、高分子材料の分子レベルでの構造と材料物性との相関に着目し、適切な形状記憶特性を示すSMPの開発研究を進めてきました。具体的には以下のような研究を進めています。

・高分子ブレンド法による形状記憶能の付与
・エラスチンなどの生体高分子を利用した形状記憶ゲルの調製
・炭素繊維を複合化した形状記憶高分子複合材料
・電気応答性の形状記憶能を示すSMP
・SMPの形状回復温度の制御

 

必要に応じて形や硬さが変わることが求められる材料として、これまでにも熱収縮チューブやノーアイロンシャツ、易解体ネジなどの生活用品から、ギブスやステントなどの医療用材料など、幅広い用途が検討され、実用化されているものも多くあります。従来からあるポリマー材料に、「形状記憶」という付加価値を加える、という考え方で、実用化のイメージも広がります。

 

●構造色エラストマー(Structural Colored Elastomer, SCE)
直径が数百ナノメートルの高分子微粒子を規則的に並べたコロイド結晶は、特定の色の光のみを反射することができ、無色透明にもかかわらず「構造色」と呼ばれる鮮やかな色を呈します。このコロイド結晶を伸縮性のあるエラストマー中に固定化することで、その構造色が変形に応じて変化するような「構造色エラストマー(SCE)」を得ることに成功しました。具体的には、もともと赤色を呈していたSCEを延伸すると、緑色から青色へと、変形量の増大とともに短波長色を呈しますが、変形を止めて元の状態に戻すと、構造色も赤色へと回復します。

我々は、コロイド結晶を構成する高分子微粒子を、「相互侵入網目化」と呼ばれる技術により、変形してもコロイド結晶構造がエラストマー中で安定して固定化されている構造色エラストマーを得ました。これにより、材料の変形を色の変化として容易に視認できるようになりました。高分子微粒子と固定化するためのエラストマーは、ともに汎用的なアクリルゴムを用いています。

局所的な変形やひずみに対して鋭敏に色が変わり、またゴムのような大変形に応じて広い波長範囲で構造色が変化しますので、応力集中やひずみの存在を可視化するようなセンサー材料としての応用が考えられます。

名古屋工業大学産学官金連機構が作成したYouTube動画のURLを以下に示します。ご興味がありましたらご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=kSi8cDWhCb0