物質・材料研究機構 エネルギー・環境材料研究拠点 二次電池材料グループ 主任研究員

松田 翔一

  • エネルギー
  • 機能性材料

「実験自動化ロボット+機械学習」による新規電解液探索システム

電気自動車を中心とした車載用途や、自然エネルギーの効率的な利用に向けては、現行のリチウムイオン電池の性能を大幅に凌駕するような次世代蓄電池の開発が不可欠である。
この次世代蓄電池の研究開発の現場において、近年、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)と呼ばれるデータサイエンスを用いた材料探索の高速化・効率化に関する試みが盛んである。
従来の研究者の経験と勘に頼った材料探索に替わって、材料データベースや機械学習などを活用することで、新材料発見の時間やコストの削減が可能となる。

蓄電池は、正極/負極/電解質の主要3材料で構成され、その組み合わせが性能向上の鍵となる。たとえば、究極の蓄電池と呼ばれるリチウム空気電池は、軽量化と大容量化を実現するため負極に金属リチウム、正極に空気を用いており、これらに適した新たな液体電解質(電解液)の開発が重要となる。
電解液は、有機溶媒、リチウム塩といった主構成要素に加え、微量濃度成分が複数種添加されている。
そのため、様々な化合物の中から最適な組み合わせを見つけ出す必要があり、探索する候補の数は膨大である。
電解液の評価においては、電極との反応性を考慮する必要があるため、計算化学的なアプローチは容易ではない。
また、解析のもととなる実験データも不足しており、MIを用いた材料探索が進んでいない状況にある。

そこで我々の研究グループでは、人手よりはるかに高速に実験を行うことができる実験自動化ロボット(ハイスループット電池評価システム)を開発した。
これを使えば、50種類以上の化合物を組み合わせて様々な組成の電解液の作製から、その電池特性を評価する作業に至るまで、全てを自動で行うことができる。
人が行っていたときには 1日10サンプル程度の評価しかできなかったものを、実験自動化ロボットを用いることで1日1000サンプル以上の評価が可能になる。
さらに、取得した大量の実験データに対して、ベイズ最適化に代表されるMI手法を適用することで、高い電池特性を示す電解液組成を予測することができる。

これまでに、次世代蓄電池用の新規電解液を多数発見しており、「実験自動化ロボット+機械学習」によるアプローチの有効性を実証してきた(S. Matsuda et al., Scientific Reports, 2019, 9, 6211、関連特許出願済み)。

このような電解液添開発のスマートラボ化により、次世代蓄電池の早期実用化の加速が期待される。
また、同様の方法論は蓄電池用電解液以外にも、添加剤が重要な役割を担う機能性材料の探索においても有効であると考えられる。

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