物質・材料研究機構 構造材料研究拠点  解析・評価分野 腐食特性グループ 主席研究員

廣本 祥子

  • ものづくり
  • ライフサイエンス

生体内で溶けてなくなるMg合金のための腐食制御被膜の開発

▼背景
・Mg合金は、自動車などの軽量化材料および医療用の生体内溶解性(吸収性)金属材料として注目されています。
・生体用Mg合金は骨ネジやステントに使用され、生体適合性の被膜による腐食速度の制御が求められています。
・埋入手術時にできる被膜の損傷が初期腐食を促進することから、損傷部分を修復する自己修復性があることが望ましいです。

▼狙い
・生体用Mg合金のために、腐食速度を抑制し、骨伝導性や骨置換などの生体機能を発揮する水酸アパタイト(HAp)および炭酸アパタイト(CAp)被膜の開発を行っています。HApは人工股関節や人工歯根の骨伝導性被膜としての使用実績があり、CApには破骨細胞の作用で骨置換する性質があります。
・HAp被膜の損傷修復性を改善するために、ポリマー修飾を行っています。

▼概要
生体用Mg合金のアパタイト(Ap)被覆に関する研究
従来からの生体用金属材料Ti, 316L鋼, Co-Cr合金は、高強度、高耐食性を示し、患部治癒後には抜去手術が行われています。

抜去手術が不要な生分解性材料としてポリ乳酸 (PLLA)等が使用されていますが、強度が低い、劣化に一年以上かかる、分解生成物が毒性を示すなどの課題があります。

Mg/Mg合金は、Mgが必須元素で腐食生成物の毒性が低いことが期待され、中間の強度を示し耐食性が低く生体内で容易に腐食劣化するため、生体内溶解性金属材料として有望です。しかし、急激な初期腐食による強度低下や腐食生成物の水素ガスによるガス溜まりの形成が課題です。
そこで、水酸アパタイト(HAp)被覆によるMg/Mg合金の腐食速度の制御を行っています。

HAp:高生体適合性(骨伝導性) 脆性(基材の変形により損傷)
1)HAp被膜材の埋入試験 腐食抑制・骨形成評価
2)HAp被膜のポリマー修飾 デバイス埋入手術でできる被膜損傷の自己修復促進

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1)HAp被覆Mg合金のラット大腿骨埋入試験
HAp被覆が生体内における腐食抑制・骨形成に及ぼす影響の検討。
埋入10日でHAp被膜表面に新生骨の形成がみられました。
埋入4か月目にもHAp被覆による腐食抑制効果がみられました。

2)ポリマー修飾HAp被膜の低ひずみ速度引張り試験
疑似体液中での引張り試験による、ポリマー修飾がHAp被覆Mg合金の破壊挙動に及ぼす影響の検討。
ポリマー修飾により、HAp被覆のみの場合よりも破断伸びが改善しました。ポリマー修飾により被膜のき裂部分での基材Mg合金の腐食、き裂進展が抑制されていました。ポリマーにより引張り変形で生じた被膜のき裂の修復が促進されたと考えられます。

▼応用分野と今後の展開
・骨ネジ、ボーンプレート、ステントなどの医療用Mg合金の腐食制御&骨形成促進被膜
・HAp被覆Mg合金の被膜損傷修復におけるポリマーの役割の解明と自己修復性の向上

▼実用化へ向けた課題】
・基材Mg合金の組成や被覆条件と、耐食性・骨形成能・細胞適合性・被膜密着性の関係の整理
・様々な生体環境でのHAp被覆Mg合金の腐食挙動の理解
・腐食が基材Mg合金の強度に及ぼす影響の検討
・基材Mg合金の機械的特性の向上