物質・材料研究機構 統合型材料開発・情報基盤部門 データ駆動構造材料グループ 主任研究員

伊藤 海太

  • ものづくり
  • エネルギー

無線AE計測によるプロセスモニタリング

▼ 背景
・積層造形は複雑なプロセスで、制御された積層条件から造形後の材料内部を予測することが難しい
・製造加工プロセス中に材料内部で何が起こっているか、実験的に確認できる手法の選択肢は少ない
・アコースティック・エミッション (AE) 法は数少ないリアルタイムのモニタリング手法だがノイズに弱い

▼ 狙い
・造形中の欠陥生成のメカニズム解明や数値計算に、実験的裏付け(欠陥の発生時刻と位置)を提供する
・独自開発のAE計測装置は「連続波形計測」のため、材料加工中のノイズにも強い
・計測装置を無線化・バッテリ駆動化すると、造形チャンバーの密閉環境などの「現場でも使いやすい」

▼ 概要
・高ノイズ耐性・無線のAE計測装置の開発
・最新IoT機器の利用
→ 小型・軽量・バッテリ駆動でも高い演算性能
→ 迅速な計測装置開発
無線・バッテリ駆動 装置内に置くだけ ケーブル不要
・全時間連続の生波形を持つ
→ 生波形に強力なデジタルノイズフィルタを適用可能
→ 問題発生時の再検証が容易
積層造形(=高ノイズ環境)の監視に有効
〇1D  シングルビード試験
・レーザ加工は数msで溶融→凝固するプロセス
・センサへのAE波の到達時刻は数µsの精度

・AE発生タイミングから損傷位置推定
→ レーザ照射と同時に生じる損傷は 1 mm以下の精度
・AE位置標定から損傷位置推定
→ 各センサへの波の到達時間差からAE源を推定
レーザ照射と同時でない損傷も誤差数mmで標定

素過程のAEモニタリングとX線CT結果を対照し、空孔やき裂はレーザ照射とほぼ同時に発生したものであることを、実験的に示すことができた

〇2D  マルチビード試験
・1D の計測結果を元に AE を要因別に分類
・照射後 時間が経過したAE → 位置標定で評価
・照射同時の空孔タイミング
・照射同時のき裂で評価
・厳しい条件での造形では試料の熱蓄積・き裂付近の再加熱 → 隣接ビードに影響があることを実験的に確認

〇3D 積層試験
・2Dまでの素過程の現象理解を応用
一度き裂が発生すると、その上の数層に影響を及ぶこと等が確認された

▼ 応用分野と今後の展開
・積層造形に限らず、シビアな条件で行われる様々な材料加工プロセスのモニタリング手法として確立
・社会実装を念頭に置いた、現場で使える装置の開発
・モニタ結果のフィードバック →リアルタイムプロセス制御

▼ 実用化へ向けた課題
・モニタ結果の解釈にAEの専門知識が必要 → 評価自動化
・装置のさらなる小型化・高性能化・低電力化
・異常検出の確実性の向上 (見逃しを減らす)